夏、ニケツ
特に何が起こるということもなく……。
7月13日、金曜日、夕暮れ時。二見が漕ぐ自転車の後部に朝陽が乗りニケツしている。
「そう言えば今日は13日の金曜日か」
「何それ」
「13日の金曜日は良くない事が起こるんだとさ」
「へえ」
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「そうだ、二見ってさ、好きな子いるの?」
「なんの思いつきだよ」
「どうなの?」
「……いない」
「……ふーん」
「ふーんて」
「だろーね。二見って女子に興味なさそーだし」
「……だな」
「ふーん」
「ふーんて」
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「いつも寝ぐせついてるよね。それも同じところに」
「寝相が良いのかな」
「寝ぐせくらい直したら?」
「頑固な寝ぐせでな、直らないんだよ」
「何それ、ウケる」
「ウケるな。コンプレックスなんだよ一応」
「超ウケる」
「……」
「……」
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「ちょっと、さっきよりペース落ちてるけど」
「ずっと漕いでる俺の身にもなれ」
「ねぇ、……このまま永遠に漕いでてよ」
「無茶言いはりますなぁ」
「あ、関西弁」
「変なリアクションだな」
「だね」
「……」
「……本気なんだけどな」
「……」
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「朝陽?」
「なに?」
「何かしゃべれよ」
「……うん」
「……」
「……」
「明日、なんだな」
「明日だね」
「……」
「……」
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「……」
「……」
「ねえ」
「ん?」
「あのさ」
「うん」
「……」
「……」
「……す……き、だよ」
「ん?すし?」
「すし、じゃない」
「じゃあ何?」
「だから、……す……」
「あーそこの二人乗りしている自転車、止まりなさい」
「……でたよ」
「……」
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「こらこら、駄目だよ。二人乗りは」
「ほらな? 今日は13日の金曜日なんだよ」
「……本当だね」
「何の話をしているんだ?」
「いや、こっちの話なんで」
「まあいい。これからは二人乗りしちゃいけないよ。危ないんだから」
「はい、すいません」
「彼氏なら、彼女の身の事も考えないと」
「はい」
「……え?」
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「二見?さっきのって、その……別に私たち彼氏彼女ってわけじゃないし……」
「ふーん」
「……ふーんて」
「俺も、好きだから」
「え?」
「ああ、じゃなくて、すしだから。彼氏彼女ってことで、よろしく」
「……何それ……ウケる」
「ウケるな」
「超ウケる」
「だな」
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「……」
「……」
「じゃあな、朝陽」
「じゃあね、圭一」
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7月14日、土曜日、朝。圭一が一人で自転車を漕いでいる。
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