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吟遊詩人はかく語りき

星降る砂の海辺にて

作者: 冬野 暉

診断メーカーからのお題:『砂漠、主従、星』のキーワードで絵か落書きか小話かキャラクターか世界観を作る

 太陽が眠れば、灼熱の大地は凍土に変わる。

 朱い砂の海は白銀に染まり、うねる地平が蒼褪めた陰影を落とす。呼吸するたびに喉を焼く静寂に、少年は生え揃った睫毛を震わせた。

 その仕草は、睫毛の先に降りかかる星屑を払い落としているようにも見えた。

 澄みきった夜空から金や銀の雫がほろほろとこぼれ落ちてくる。少年はひとつひとつの光を確かめるように何度も瞬き、音も時間もない星空を見上げていた。

「きれいだろう」

 場違いなほど陽気な男の声が静寂を破った。

 少年は細い眉を殊更神経質そうにひそめ、声の主を振り返った。

「やかましい」

 睨まれた男――流れ者の傭兵はわざとらしく肩を竦め、気配だけで笑ってみせた。

「俺はな――」

 少年のまなざしなどかまいもせず、男は再び口を開いた。

「夜明けの黄金や夕暮れの深紅に染まった砂漠も好きだが、夜の砂漠で見上げる冷たい星がいっとうきれいだと思う」

 砂を踏み、傭兵は少年のすぐ横に立った。まだまだ幼い彼には、すでに壮年を過ぎた傭兵は年経た大樹のように見えた。

 浅黒い横顔は影になり、どんな表情で降り注ぐ星ぼしを見つめているのかわからない。

 だが、深い夜を震わせる声は穏やかで、遠い星の光が忘れたようなぬくもりを灯していた。

「ここがおまえの故郷くにだ」

 少年はゆっくりと睫毛を上下させ、悠久の輝きに満ちた天の海原を仰いだ。

 獣の仔よりも荒々しく、無垢な眸に水の膜がすうっと浮かび、ひと粒の涙が白い流れ星のようにこぼれた。

 かつてこの地を追われた祖先の魂が、受け継いだ血とともに――今、帰ったのだ。

「俺はこれから国を作る」

 傭兵は厳かに、だが強敵を挑発するような口調で言った。

「だれのものでもない、だれもが自分の国だと胸を張れる、そんな国を」

 見えずとも、傭兵の口元がにやりと笑ったのが手に取るようにわかった。

「おまえにそれをくれてやろう。おまえの国、この国を」

「……あなたについていけば、私は『王』になれるのか?」

「ああ」

 掠れる声で尋ねた少年――亡びた国の王子に、傭兵は頷いた。

「だれにも侵されない、誇りというおまえの国を持つ、おまえの王に」

「ならば」

 王子は頬を拭い、顔を上げた。

「ともに行こう。私は私の国を手に入れるために、あなたを『王』にする」

 それは砂漠の夜に凍む、星ぼしだけが知る約束だった。

 静寂と闇の淵に沈んでいったあえかな絆こそが、のちに彼らの故郷を未曾有の運命へと導くなどと――行く末を語る者は、まだいなかった。

拙作は、異世界召喚競作企画『テルミア・ストーリーズ+』の『テルミアおまけ部門』参加作品です。作中の設定の一部は企画よりお借り致しました

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