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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第7章 5

5.


 あたしがサショウさんとリュウガさんにお願いしたこと。

 

 『来年の4月1日に、桜の下でまた遼と会う』


 最初の謁見の後、遼が連れて行ってくれた、遼のご両親のお墓がある霊園。

 丘の上にあった大きな桜の木。

 

 遼が4月1日に戒厳令の中、一人で墓参したときに見たという見事な桜の花の下、あたしはまた異世界に帰る。

 

 「え…でも、せっかく家に帰るのに、それでいいの?」リュウガさんがビックリして言ってた。

 サショウさんも「リョウは自分では早葵さんを幸せにできないから帰したいって言ってたんだし…」戸惑うように言った。

 「それこそ2度と帰れないなんてことになるかもしれないぞ」とドクターも心配そうに言葉を添える。


 あたしはにっこり笑って

 「遼は、早葵の幸せが俺の願いだって言うの。

 あたしの幸せは遼の傍にいることなんだから、あたしが自分で幸せになることで遼も幸せにする。

 そう決めたの」


 「だから、来年4月までの里帰りのつもりで。

 一生懸命、親孝行してまたここに帰ってきたいんです。

 お願いします」

 頭を下げた。


 3人ともしばらく呆気にとられたように沈黙していたけど、一斉に大笑いした。

 「いいね!そういう強い女性は」リュウガさんが言い、サショウさんも頷いた。

 「リョウはいつまでもお子ちゃまな奴だから、こういう女性といるのが一番いい」ドクターはあたしの頭にポンポンと手を置いて笑った。


 「よし、承知した。大船に乗った気でいて!」サショウさんが力強く言ってくれた。

 「さあ、まだまだ忙しいぞ。今度は歪みのない空間をこじ開けて、向こう側から人を通すんだからな」楽しそうにリュウガさんが続ける。

 「あーあ、こいつらの知的闘争心に火をつけたな」ドクターは苦笑いだ。


 「あの、このこと遼には…」

 「言わないよ。早葵ちゃんから言ってあげなよ。ただし、当日までは内緒ね」ドクターがパチンとウィンクしていった。


 うふふふふ…

 と4人で笑って、密約が結ばれたのだった。



 季節は梅雨が明け、夏休みが近づいてきたころ、あたしは急に葉山君に呼び出された。

 遼を思い出して泣きそうになるので、葉山君の姿をなるべく見ないように避けていたから、すごく迷ったけど葉山君の友達という仲介人が凄く強引に行ってやってというので、渋々応じた。


 放課後、人気のない学校の廊下で、葉山君と向かい合った。

 あたしは顔を見ないように俯いていた。


 「あの…川上、さん。ずっと話しかけたかったんだけど、周りにいつも女子がいたし忙しそうだったから呼び出してごめん」

 「いえ…」別にどうでもいいから早くして。


 「俺が、君を振ったから、失踪なんてしたんだろ?」

 「え、違うよ」単なる事故だよ。

 「そんなに想ってくれてたんだと思って。俺…やっぱり君のことが好きだ。

 もう2度と別れるようなことしないから、また付き合ってくれないか?」


 遼と同じ声でそんなこと言うなー!

 あたしは顔を上げて、まっすぐに葉山君を見た。

 「あたし、大好きな人がいるの。その人と結婚してるし。

 葉山君のことはもう何とも思ってないから。ごめんね」


 言いたいことだけ言って、ポカンとしている葉山君を置いてさっさと学校を後にした。

 葉山君はプライドを傷つけられたのか、妄想癖のある変な女に関わりたくないと思ったのか、それから二度と話しかけてくることはなかった。

 あー良かった。


 あたしは家で良く手伝いをするようになった。

 あちらに帰ったら、あたしだって主婦だ。

 できないじゃ済まないよな~と思って。

 ママは、女性同士何か感ずるものがあったのか、とても丁寧に教えてくれた。

 あたしは涙を堪えながら一生懸命聞いて覚えた。


 受験勉強の傍ら、あたしは近現代史の資料を集めた。

 多華さんからあたしの里帰りの話を聞いた、皇帝陛下からの頼みで。

 遼から瞬はすごく知的好奇心の旺盛な人だよ、と聞いていたのでなるほどな~と思い、なるべく綺麗な状態で持っていこうと、自炊できるものはしてハードディスクに入れた。


 パパは急にあたしが近現代史に興味を持ったことに驚いていたけれど、大学もその方向に進みたいと言うと喜んでいろんな資料を買ってくれた。

 国会図書館にも連れて行ってもらい、コピーをたくさん取って家でスキャンした。

 パパ、ごめんね。あたしが読むんじゃないんだよ…


 そうこうしているうちに年が明け、センター入試が終わった。

 あたしは、異世界に行く前だったら考えられないようなハイレベルの大学の2次試験にチャレンジできることになった。

 パパやママはとても喜んで、受かったらここに行こうとかあそこに行ってみようとか、受験が終わった後の話をしていたけど、あたしは曖昧に微笑むことしかできなかった。


 あたしは来月10日にここから消えて、そして多分2度と戻っては来ないと思う。

 ごめんね、親不孝な娘で。


 いよいよ2月に入り、あたしは落ち着かない日々を送った。

 家族は受験が佳境に入ったせいだと勘違いしていたようだけど、あたしとしては受験なんてほんとどうでもよく、部屋を片付けたり要らないものは思い切って捨てたりした。


 そして、家族と友達に宛てて、ひとりひとりに長い長い手紙を書いた。

 家族には、以前に失踪したときに迷い込んだ異世界のこと、遼のこと、もう帰っては来ないことなど全部書いた。

 今まで育ててくれて本当にありがとうという感謝の気持ちも、親不孝を許してほしいという謝罪の気持ちもすべて書いた。


 そして、2月10日、土曜日。


 あたしは家族に見つからないように、朝6時前に家を出た。

 大きなリュックを背負っているので、家出に間違われないか心配。


 あたしは白い息を吐きながら、駅を目指した。

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