表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
40/43

第7章 4

4.


 目が覚めると、白い天井が見えた。

 帰ってきたのっ?!

 がばっと起き上がると、腕についていた点滴が引っ張られて「あ痛って」と声を上げた。


 「早葵ちゃん!」と抱きついてきたのは…ママ!

 「ママ…」あたしが言うと、大泣きしていたママはあたしの顔を見て「判るのね?!…良かった~」とあたしを抱きしめてまた号泣した。


 「早葵!」「お姉ちゃん!」とパパと弟の拓海も抱きついてくる。

 重い。

 3人があたしにしがみついたまま泣いているのを見て、あたしは本当に心配かけたんだな…とちょっと申し訳なく思った。

 でもあたしだって不可抗力だったんだから。


 やっと3人に離れてもらい、ナースコールして先生が来た。

 いろんな質問とかされ、脳波とかあちこちいろいろ調べられた。


 今日はこちらでは4月26日だそうだ。

 9時15分ごろに皆川の駅のホームに突然倒れていたらしい。

 発見してくれた駅員さんが、あたしが学校の制服を着ているのを見て学校に連絡を入れてくれて、2か月以上行方不明だった川上早葵だとわかり、そこから大騒ぎだったみたい。


 まあ、そりゃそうだろうなあ…


 検査の結果どこにも異常はなかったそうで、あたしはその日のうちに退院して家族と家に帰った。

 警察とかは明日以降になるらしい。

 病院でも色々聞かれたけど、全部「判らない覚えてない」で通した。

 説明したところで信じてもらえるとは思えない。


 懐かしの我が家に帰って、あたしもさすがに泣けてきた。

 ママは張り切って、たくさんのご馳走を作ってくれた。

 パパと拓海はあたしの両隣にずっと座って、何ということもなくニコニコしていた。


 ママの手料理をお腹いっぱい食べて、お風呂に入った。

 4人で一緒に寝ようとか言われたけどさすがにお断りした。

 自分の部屋のベッドに座って、ふうーっと大きく息をついた。


 帰ってこれた…

 

 リュウガさん、サショウさん、本当にすごい。

 怪我もなく大きなずれもなく、無事に帰してくれた。


 カレンダーを見て計算してみると、あたしがこの世界から消えたのが2月10日で、そのときあちらでは4月1日だった。

 今日があちらでは6月15日、こちらでは4月26日。


 ということは、時間の進み方は一緒なんだ。

 8時に向こうへ行って、9時15分に帰ってきたのも同じだから。

 ぴったり、7週間と1日のずれ。


 あたしはカレンダーの一番最後のページに、2月10日と書いた。

 来年の2月10日。


 遼はどうしてるかな。

 一人で泣いてるかな。

 でも、皆がいるから大丈夫だよね。

 

 あたしは無事に帰ったよ。

 ありがとう。愛してるよ。

 

 

 翌日、あたしは両親に付き添われて警察に行った。

 失踪届けが出されていたので、それを取り下げていろいろと話を聞かれた。

 優しい女性の警察官が、粘り強く質問を繰り返したけど、あたしは最後まで知らぬ存ぜぬで通した。

 

 発見時のあたしの姿をみればどこかでちゃんと生活をしていたことは解るだろうから、覚えてないで通るか不安だったけど、精神的になにか大きなショックがあったのだろうということでなんとか落ち着いた。


 それから学校へも行った。

 両親の強い希望で、退学はせずに2年生のままで学籍は残っていた。

 あたしは復学の意思を強調し、校長先生も認めてくれて、GW明けに試験を受けて合格すれば3年生になれるということになった。


 うげーっ

 あっちで全然勉強してなかったよ。

 っていうか、教科書取り上げられてたし。


 奈美とかクラスの友達たちにも校内で少しだけ会えて、皆良かったーっとすごく泣いてくれた。

 葉山とのことがあったからー死んじゃったかと思った~って言われて、ああそうだったと気づいた。

 忘れてた。葉山君のこと。


 その時、廊下の柱の陰に、遼の姿を見た。


 はっとして見つめると、柱から姿を現したのは、遼じゃなかった。

 「葉山君…」とあたしが呟くと、あたしを取り囲んでいた女子たちがさっと引いた。

 葉山君は近づいてきて「川上…良かった無事で」と言った。


 遼、と言いそうになってあたしは慌てて手で口を塞いだ。

 「大丈夫だから。心配かけてごめんね」

 葉山君はなにか言おうとしたけど、周りの女子の怖い目にたじたじとなって、逃げるようにその場を離れた。


 「大丈夫?早葵…」奈美が心配そうに言う。

 「大丈夫大丈夫。明日からまた一緒に行こう?」というと「うん、そうだね」と明るく笑ってくれた。


 その日、家に帰ってからあたしは猛勉強を始めた。

 こんなに勉強したことはないな、これまでの人生で。

 両親も拓海もめちゃめちゃ心配してた。

 両親や弟に今までどう思われていたのかは、そこから推して知るべし。


 後悔しないように、あたしはやれるだけのことはやらないといけない。

 ここに心を残さないように。


 サショウさんは本当に天才だ~。

 スマホは何の支障もなく動いた。


 画像フォルダに新しい写真が何枚か入っていた。

 遼と一緒に写っている画像だった。

 家で楽しそうに笑っていたり、遼と二人で出かけた時に撮ってもらったものだったり、即位式のときの軍服を着た遼とスーツを着ているあたしが微笑んでいるのもあった。


 辛いときにはその写真を見て自分を励まし、あたしは無事に試験を突破して3年生になった。

 あと9ヶ月。

 受験がどうなるかちょっと判らないけど、2月10日までは駆け抜けるしかない。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ