第7章 2
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「空間の歪みの大きな場所まで行くのが良いのかとも考えたんだけど、早葵さんがいた世界に繋がっているかが解らない。確かめる術がない」
「早葵さんがいた世界とここでは1か月半くらいの時間的な隔たりもあったようだし、そういう誤差があまり大きくない方が望ましいという思いもある」
「だからやっぱり皆川駅の階段が、早葵さんがこの世界に来た場所が一番確実なんじゃないかという結論に達した」
「皆川のスポットの空間の歪みのサイクルを測定して計算値から割り出した、今度歪みが大きくなると予想されるのが6月15日朝9時15分05秒。10日後だ」
10日後…
あたしはぎゅっと目を閉じた。あたしの手を握る遼の手にも力が入る。
「歪みが大きくなると言っても、人を移動させられるほどにはならないんだ。
だからユウリと増幅装置を作った」
サショウさんが頷いて続ける。
「この増幅装置はまだプロトタイプで何度か試してみたけど、早葵さん、あるいは空間にどの程度の影響がでるのか、はっきり言って解らない」
「とんでもない副作用が出ることも考えられる。
でもそこまでデータを採ってたら、何年かかるか判らない」
「ただ、俺とリュウガは、早葵さんがいた世界を見た、と思う。
こちらでは誰もいない階段の向こうに人影がたくさん見えた。早葵さんくらいの年格好の女の子たち、紺色っぽい制服を着ていた」
きっとそれは、あたしの通う学校の子達だ…
なんか判らないけど涙が溢れてきた。止まらない。
帰れるんだ…
「時間的なずれがどれ程生じるか判らない。
歪みを無理やり増幅させて異空間をこじ開けることで、どれくらいの影響が環境や早葵さんに及ぶか判らない」
そこで一度言葉を切って、サショウさんはあたしを見つめた。
「それでも貴女は、帰りたい?」
「もうちょっと安全な方法はないのか?」ヨウゼイ氏が言う。心配そうに。
「だからー、安全な方法を探してたら早葵さんおばあちゃんになっちゃうよって話。
俺らはそれでもいいけどってか、むしろそっちの方が良いけど、リョウと早葵さんはそうじゃないんでしょ?」リュウガさんが呆れたように言う。
「6月15日の歪みは、結構大きくなりそうなんだ。早葵さんの負担を最小限にするためにもできるだけ環境にかける負荷を減らしたい」
「あと10日で、俺たちもできるだけデータを採って最大限安全に帰れるように努力する」
サショウさんは真剣な表情で言った。
「…判った。リュウガ、ユウリ本当にありがとう。
10日後で了解」遼が言った。
「リョウは黙って」珍しくサショウさんがきつい言葉で遮る。
「早葵さんの意思を聞きたい」
「あたしは…」涙を拭いながら言った。
「帰りたい」
言ってしまった。
遼と一緒にこの世界でずっと暮らしたい。
だけど…望郷の念は強くなるばかり。
その場にいた人たちが皆、ふうっとため息をついた。
サショウさんはニコッと笑って言う。
「承知した。言ってくれてありがとう。
じゃあ、10日後に設定しよう」
「さてあと10日頑張ろ~」とリュウガさんが大きく伸びをした。
「あとこんな状況だけど、結婚おめでとう」リュウガさんはあたしの手を取ってぶんぶん振る。
「あ…そうだった、おめでとう」
皆が口々に、複雑な表情で祝ってくれる。
あたしと遼もなんか微妙な感じで「ありがとう」と応じた。




