第6章 5
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遼とあたしは宮廷晩餐会にも招待されていたんだけど、遼は「婚約者の気分が優れませんので、晩餐会はご辞退申し上げます」とか言って、逃げ出してしまった。
「ああいうのには殆ど参加したことないねえ、有り難がってるオッサンたちの気持ちが判らんな」と遼は嘯いて、一般人の立食パーティに紛れ込んだ。
「リョウ!お前こんなとこにいていいのか?」とヨウゼイ氏がシャンパンのグラスを持って現れた。
「いいわけないじゃん。婚約者殿の具合が悪いっていうのに」
遼はニヤリとしてヨウゼイ氏のグラスを取り上げて飲み干した。
「あっこら!未成年!」とヨウゼイ氏が慌てる。
「いいじゃん~もう今日は疲れたよ~」と遼はヨウゼイ氏に寄りかかる。
「ああ、まあ今日はお疲れ様。すっごい目立ってたなあお前。女性の視線が全部お前んとこ行ってるって噂だったぞ」
「俺は早葵ちゃんが見ててくれればいいのさ」と、通りがかったウェイターさんからまたシャンパンをもらって飲む。
「いい加減にしとけ、回るぞこれ」とヨウゼイ氏はシャンパングラスを取り上げた。
「あーれっ 早葵さん?あ、リョウもいる」と大盛の皿を持って、リュウガさんが来た。サショウさんもいる。
「晩餐会、またさぼったの?皇帝陛下もお気の毒だな」とサショウさんが苦笑いした。
「俺なんかいたっていなくたっておんなじだよ~」と遼はサンドイッチをほおばっている。
「リョウがいるといないとじゃ、女性陣のテンションが違うって皇帝陛下から聞いたけど」
「瞬は自分だけが犠牲になるのが嫌なだけだよ。俺をダシにしてすぐ逃げるし」と遼は肩をすくめて言った。
遼は行く先々で話しかけられて、げっそりして戻ってきて、部屋の端に置いてある椅子に座っていたあたしにお皿を渡してくれた。
「どこ行ってもこれだもんなぁ~」と辟易した様子で椅子に座る。
「俺は可愛い早葵と二人でいたいのに」とローストビーフにかぶりつく。
「遼って目立つから。今日の主役の一人だし」とあたしは笑って言った。
「なりたくてなったんじゃねえ~」と今度はビールを飲んでいる。
「女の人たちが凄かったね。人気者なんだねえ」と感心して言うと、遼は呆れたように
「そこはヤキモチ妬くとこでしょ?あなたの旦那さんですよ?」と身を乗り出した。
「あれだけ人気があると、自慢しかないね。あたしの旦那だよ~って」あたしが悪ノリして言うと
遼はビックリしたように口を開け、パクパクして閉じた。
その顔が可笑しくてあたしが笑っていると、遼も笑ってあたしの頬をつついた。
「相変わらず仲いいわね~」と言って近づいてきたのは…
「多華さん!久しぶり~!」「早葵ちゃん!会いたかったわ~!」と抱き合う。
「女子高か!」とあたしのお皿も持って遼がつっこむ。
「やっとお役御免よ。もう、ホント大変だった…」とワインを飲みながら多華さんがぼやく。
「お疲れ様。しばらく休めるの?」とあたしが訊くと「ノンノン。今度は先帝陛下の葬儀の準備よ」はーっとため息をついた。
「こういう時代に生まれ合わせたんだから仕方ないけどね」と言って立ち上がった。
「あまり長居してるとどこからバレるか判んないわよ。伊哉大佐がいるってもう結構噂になってて、女の姿が増えてきてるし」と遼を指さして言うと、カツカツと軍靴を鳴らして去っていった。
確かに、華やかな感じの女性の姿が増えている気がする。
遼は舌打ちして「タダメシ食おうと思ったのが間違いだったか…」と呟いた。
「早葵が一緒なら、面倒くさいことにならずに済むと思ったんだけど」
「あたしじゃあ、敵に値せずってところなんじゃないの?」とジュースを飲んでいると
「は?!何言ってんの!」と怒り出し「ちょっと早葵、それは聞き捨てならない」とあたしの目の前に立つ。
なんだどうした、と見上げると「今日、俺は早葵ばっかし見てた。可愛すぎて、他の男が寄ってくるんじゃないかと気が気じゃなかった。早葵だけ光って見えるんだ。だからどこにいてもすぐに見つけられた」と威張って言う。
うん、確かに。雷波さんも笑いだすくらい、あたしの方ばっかり見てたね。
嬉しかったけど、ちゃんと集中しなよってヒヤヒヤしたよ。
「早葵は解ってない!自分の魅力に気づいてない!」とまた怒ると、遼はあたしのお皿もウェイターさんに渡した。
そしてあたしを立たせると、お姫様抱っこしたままキャーっという女性の声が響くホール内を横切って、入り口まで行ってあたしを下ろした。
そのままあたしの唇にキスして、ギャーッという悲鳴の中、子ども抱きで抱き上げてさっさとホールを後にした。
「ちょっと遼…あたしもうここで生きていけないよ!女性全員敵に回したよ?!」降ろされてからあたしは文句を言った。
「そりゃ是非とも異世界に帰ってもらわないとな」と遼はタクシーを探すために表に出ながら言う。
「俺は早葵以外の女との恋愛なんてごめんだよ。一生分の虫よけ」
やっぱり、帰れって言うんだね…
あたしは一瞬息ができなくなってしまって、遼に倒れかかった。
遼は黙ってあたしの肩を抱き、ちょうど停まったタクシーに抱えるようにして乗り込んだ。
泣いたらいけないと思ったけど、抑えきれずに少し泣いた。
可愛いって言ってくれること、好きだと言ってくれることと、あたしを元いた世界に帰すことは、遼の中では完全に分離してるんだ。
あたしはどうしたらいいんだろう。
苦しいよ。。。




