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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第6章 4

4.


 ベッドが揺れたような気がして目を覚ますと、遼が起き上がってあたしの頭を撫でていた。

 「遼…」

 「早葵、心配かけてごめんね」と遼は静かに笑ってあたしの頬にキスした。


 「俺は強くならなきゃな。早葵のいなくなった後、一人で生きていける強さが欲しい」

 「あたし…」

 「早葵、帰るんだろう?それがいいよ。俺では早葵を守ることができない。

 早葵を幸せにはできないと思う」


 「俺は、早葵以外の人をこの先、愛することはない。

 でも早葵は、早葵を幸せにしてくれる誰かが現れたら、迷わずその人のところへ行って」

 そう言ってあたしの手を取り両手で包んで自分の額に押しあてた。

 「早葵の幸せ、それが俺の願い」


 あたしは涙が止まらなかった。

 この人はもう、決めてしまったんだ。

 あたしを異世界から元の世界へ帰すと。

 

 あたしと別れると。


 

 その日から遼はまた忙しい日々に戻った。

 あたしは迫った即位式に向けてまた作法を教わったり、ドクターに呼ばれて細胞や血液を採られたり、リュウガさんのところへ行ってここへ来た時の状況を話したりした。


 ドクターから連絡があったのは、謁見してから2週間後のことだった。

 遼はあたしを伴って、陸軍病院に赴いた。

 ドクターは謁見の日からほぼ完徹だったそうで、ヘロヘロだった。

 皇太子殿下にも報告書を提出したらしい。


 「とりあえず、早葵ちゃんが元の世界に帰れないっていう可能性もあるからな。

 その場合はここでリョウと暮らしていくんだから、ちゃんと報告は上げとかないとと思って」

 「だけど、凄いスピードだったなあ」と遼が感心したように言った。

 「そりゃもう、ここと科学研究所の手の空いてる連中総動員してやったから」ドクターはドヤ顔で言う。


 「で、結果は」遼は身を乗り出す。

 「はいはい。っと」とドクターはPCを操作してモニターにグラフのようなものを映し出した。

 「ま、見ても判らないと思うんで、口頭で説明する。

 結果から言うと、早葵さんのDNAはこの世界のどの種族にも当てはまらなかった。

 日本人の亜種に近いと言っていい」

 

 「ユウリの仮説のとおりだとしたら、たった150年くらいでこんなに人間の体質って変わるんだ、と驚いたよ」

 「ここで生活していくのには支障ないのか?」

 「だから早葵ちゃんにはいくつか予防接種を受けてもらわないといけないな。

 でも多分それで日常生活には支障はないだろう」

 

 そうなんだ。あたしはホッとして遼を見上げた。

 遼も嬉しそうにあたしの肩を抱いてポンポンと叩いた。

 

 「あーねむっ…」とドクターが大あくびした。

 「ご苦労さん。また遊びに来いよ」と遼が言う。

 「急に呼び出すのだけはやめてくれよ~」とドクターは言って、またあくびして「じゃあな~」と去っていった。


 「大分無理させたな~」と遼は申し訳なさそうに言って、車に乗り込んだ。

 軍の公用車で来ていたので、運転手さんがマンションまで送ってくれる。

 「そうだね…」

 「即位式が終わったら、一度皆で集まりたいな。俺、この間ヘロヘロでよく覚えてないし」

 「うん」


 あたしは、帰る方法が見つかると良いような見つからなければいいような、複雑な気持ちで毎日過ごしていた。遼も同じだったと思う。

 あたしはもう、運を天に任せようと思った。

 見つかったら帰れってことだし、見つからなければここで遼と暮らせってことだろう。

 

 それから1週間後、いよいよ即位式が行われた。

 遼は前日から軍に泊まり込みで警備の仕事もあったので、あたしは一人で支度してお迎えの車に乗って宮殿へ行った。

 遼は平謝りだったけど、これはもう仕方ない。

 

 マダムのお店で、今度は仕立ての良い、落ち着いた雰囲気のスーツと帽子を買った。

 またマダムの見立てなので、大丈夫と思うけど…

 遼にはまだ見せていないから反応が楽しみ。

 見惚れてくれるかな?なんて。


 宮殿に着いて車を降りると、軍服を着た雷波さんがいてくれてあたしをエスコートしてくれた。

 「遼玲は今日は皇帝に次ぐ主役の一人だからね。私も遼玲の従兄として誇りに思うよ」と雷波さんは低く響くいい声で言った。

 

 今回は前と違って、豪奢な荘厳な日本家屋といった感じの建物で、あたしは圧倒されてしまった。

 大広間に入り、あたしは雷波さんと軍人の親族席みたいなところに「伊哉遼玲陸軍大佐の婚約者、川上早葵殿」と呼ばわられながら案内された。

 あたしより年上の子供がいそうな、周りのオバサマ達の視線が痛い…


 雷波さんが「堂々としてて良いんだよ。あなたに何も恥ずべきところはない」と言ってくれて、あたしは落ち着いていることができた。

 そうだ。あたしは伊哉遼玲大佐の婚約者だ。

 新皇帝と、友人の人たちがあたしの身の潔白を証明してくれたんだから(というかもともと後ろ暗いところは何もないしっ)。


 新皇帝は弱冠20歳とは思えないほど、堂々として凛々しく美しかった。

 きっと新皇帝もお若いことでいろいろな障壁がおありになるんだろう。

 遼たち若い世代と力を合わせて、良い国を作っていってくれるといいなあと思う。


 昇任伝達式では、結構たくさんの人が名前を呼ばれた。

 その中には殉死した矢条誠志曹長の名前もあった。

 遼が頑張って歎願した甲斐があったね。良かった。


 その後の剣舞(雷波さんによると、剣術というそう)は軍刀で行われる、剣道とか居合の型のようなもので、あたしには遼がひときわ輝いて見えた。

 たくさんの徽章のついた軍服を颯爽と着こなしてきりっとしなやかに動く遼は、周りのちょっとお腹の出たようなオジサマたちが気の毒になるくらい、美しかった。

 

 惚れ惚れと眺めていると、一度さっとあたしを見た。

 遼に目が釘付けだった周りの女性たちの視線が一斉に動いてあたしを見て、あたしは小さくなった。

 でも心の中ではすごく自慢だった。

 遼はあたしのものだもん。


 その後、新皇帝のパレードがあり、遼は今度は近衛としてパレードの護衛に着いた。

 ちょっと皇帝…いくら見栄えがするからって、遼をコキ使い過ぎでは?

 騎乗してる遼も、ものすごくカッコよかったけどさ。

 

 こんな偉そうな席じゃなくて、一般の人たちと同じところにいたらたくさん写メ撮れるのになあ。

 そしたら、あちらの世界に帰っても毎日見られる。

 あたしだって、今後、遼より好きになれる人なんて現れっこない。

 

 馬上の遼が、またしてもあたしを見た。

 横で一緒に見ていた雷波さんが思わずと言った感じで、くすっと笑った。

 「遼玲は、本当に貴女を好きなんだね。その情熱が羨ましいな」

 あたしは照れてしまって下を向いた。

 

 あたしがこの世界の人間だったら、どんなに良かっただろう。

 そう、思わずにいられなかった。

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