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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第6章 2

2.


 その夜、ドクターとヨウゼイ氏、サショウさんともう一人知らない人が集まった。

 遼はぼーっとして、ソファに座ってパンを噛んでいる。

 あたしの方を見ようともしない。


 「早葵さん、悪いけどちょっと席を外してもらえるかな?」とヨウゼイ氏が言う。

 「あとで呼ぶと思うけど、ごめんね~」ドクターも手を合わせる。

 廊下に出ると、ハウスキーパーさんが「ケータリングとお酒を頼んでおきましたので、後で受け取りお願いしますね」と言ってエプロンを外した。


 「あー、すみません」全然気づかなかった。

 あたしの恐縮した顔を見て「あらあら、気にしないでください。今までもずっとそうだったんですよ。急にお友達が集まったりって結構あって」と笑って言った。


 そうなのか…

 あたしは遼のこと、遼の生活のこと、全然知らないんだ。

 あたしは改めて思った。


 昨日みたいに、高級そうな外車を運転したり、タキシードを着こなしてお城に勤める人たちと気軽に話したり、帝室御用達のお店のマダムや高級フレンチレストランの支配人と物慣れた様子で優雅に会話したり。

 

 置いてけぼりにされているというより、元々手の届かない人なのかもしれないな。

と思ったら、急にあたしのいた世界へ帰りたくなった。

 

 あたしは今頃高3になってて、受験とか考えながら引退に向けて部活して、春期講習からは塾に行く頻度も上げようとパパやママと話していた。

 パパとママ、生意気だけど可愛い弟と、仲良しの友達、部活の後輩たち、そして葉山くん。

 あたしを取り巻くさりげない日常が当たり前にあった、あの世界に帰りたい。


 やがて、コンコンと部屋のドアがノックされ「早葵さん、ちょっといいかな」とサショウさんの声がした。

 「はい」と言うとドアが遠慮がちに開いて「お待たせしてごめんね。大丈夫そうだったら、リビングに来て話を聞いてほしいんだけど…」と顔を見せた。


 「早葵さん!大変申し訳なかった!」とリビングに入るなり、大声でヨウゼイ氏が言った。

 あたしはビックリして、ヨウゼイ氏が酔っ払ってるのかと思ったけど、料理にもお酒にも手を付けた様子はなかった。


 「なんというか、思春期の暴走っていうか衝動っていうか、そういうの、もう俺ら忘れちゃってて」

 「俺からも謝ります。早葵さん、本当にごめんね」とサショウさんも言う。


 あたしは訳も判らないまま、導かれるままに遼の隣へ座る。

 遼は俯いて、組んだ自分の両手を見ていた。

 

 「昨夜の話、リョウから聞いたんだけど…」とドクターが頬をこりこりかきながら言う。

 昨夜の話…?

 あたしはカッと自分の頬が染まるのが判った。

 なるべく見えないように頬を両手で包んだ。


 「早葵さんのスマホを解析してるとき、LINEのやり取りを見てて(調査のためとはいえごめんね)たまたまその、誰と誰がやっちゃった、みたいな会話の記録があって」とサショウさん。

 

 「ああー高校生だねえ若いねえ懐かしい会話だねえ、なんて言ってたんだ。

 それを、その場にはいなかったリョウがどう聞いてどう曲解したのか、今一つ判らないんだが」とヨウゼイ氏。


 「葉山くんと早葵さんが、その、体験したみたいなふうに捉えたらしく。

 で、嫉妬の塊みたいになったリョウが昨日、暴挙に出て見事に玉砕した、と」

ドクターが締めくくった。


 もう一人の知らない人は、にこにこしながら聞いている。


 「まあ、俺らもリョウの初恋がもうもどかしくてむずがゆくて、だいぶからかったんだ。

 こいつのこういう性格判ってて、けしかけるようなことを言ったこともあったし。

 結果、早葵さんに怖い思いさせて、本当に申し訳ない」


 大の男の人3人が、頭をさげてくれた。

 「ほら、リョウも謝れ」とヨウゼイ氏が言う。

 

 遼はソファの上でもぞもぞと正座すると、あたしに向かって頭を下げた。

 「…すみませんでした」


 あたしは何と言っていいか判らず、「あたしと遼のことで、皆さんにご迷惑かけてすみませんでした」と頭を下げた。

 彼らから見たら、子供の痴話喧嘩に巻き込んじゃって申し訳ない。


 「いやいや、悪いのはこちらだし」

 「そうそう。早葵さんは被害者だよホント」

 「顔上げて、ね」


 慌ててこもごもに言ってくれる3人に、あたしは笑ってしまった。

 いい人たちだなあ、本当に。


 「お料理、冷めちゃいましたね。温め直すので、召し上がってくださいね」と言って立ち上がり、料理をキッチンに持って行って温め始めた。


 皆、一様にほっとした表情を浮かべ、顔を見合わせて笑った。

 「酒は俺ら勝手にやるんで、気にしないでね」と言ってグラスを取りに来る。

 いかにも手慣れた様子に、あたしはこれまでのこの人たちと遼の関係を垣間見た気がした。


 料理とお皿など持ってリビングに戻ると、遼がいなかった。

 「リョウは著しく消耗しててね。安定剤飲ませてもう休ませた」とドクターが言った。

 消耗?昨日のことで?

 

 「ここからは、早葵さんと話がしたくて。だから昨夜の話には関係ない、リュウガにも来てもらったんだ」とヨウゼイ氏が言った。

 リュウガ…どこかで聞いた…

 あ、昨日皆が話してた人だ!


 

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