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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第6章 試行錯誤

1.


 お風呂から出て遼の部屋に声をかけたけど応答がないので、リビングへ入っていくとソファに仰向けになって寝ていた。

 顔の上に紙の束を載せている。

 「遼、風邪ひくよ」と声をかけると「ああ…」と言って起き上がる。

 なんだか顔色が悪い。


 「どうしたの?何かあった?」と訊くと「やられた。逃げやがった」と悔しそうに言って、紙の束を床に投げつけた。

 「え、何が…?」恐る恐る横に座る。

 「ショウを唆して早葵を暗殺しようとした黒幕。見当はついてるんだ。もう少しで追い詰められたのに」と歯を食いしばり「ショウだけがトカゲの尻尾きりに遭った」と声を絞り出す。


 そのまま両手で顔を覆い「俺は無力だ。何もできない。ショウを救うことも、早葵を守ることも」と呻くように言う。

 あたしは「そんなことないよ」と言って遼の頭を抱き寄せた。

 「あたしは、遼に守ってもらってるって、毎日思ってるよ」と抱きしめる。


 「ショウさんだって、きっとそうだよ」

 遼を貶め、あたしを暗殺しようとした友人を、必死に救おうとする遼。

 あたしは、遼の友人たちが何故あんなにも懸命になって遼のために動いてくれるのか、判った気がした。

 遼も恐らく、友人の誰かが同じ目に遭ったら、自分のことはすべてかなぐり捨てて助けようと全力で戦うんだろう。


 「…早葵、それはダメだ…」と遼がくぐもった声で言い、あたしは腕を緩めた。

 遼が真っ赤になって起き上がる。

 「えっ?苦しかった?ごめん」力入れすぎたか。

 「イヤそうじゃなくて…ブラ、してないでしょ」


 「!!」やだっ!あたしは思わず胸を押さえた。

 遼に声を掛けたらすぐに寝ようと思ってから、ブラしないでパジャマ着ちゃったんだ。


 「あ、あの…あたし、もう寝る」立ち上がろうとすると、遼が手首をつかんだ。

 「ちょっと待て。そりゃないでしょ、その気にさせといて」

 「させてない!手違いだから!」手首を振りほどこうとするけど、遼はがっちりつかんで離さない。


 「大体、今日は俺、一日大変だったんだよ。あんなに可愛いなんて、朝から反則でしょ。

 マダムの店で髪とかメイクを直してもらったら更に可愛くなっちゃって。

 見惚れちゃって動けなくなるとこでしたよ。

 海岸でも桜の下でもレストランでも、本当に可愛くって、俺は衝動を抑えるのにものすごく苦労したんだからねっ」


 知らんがな!

 そんなツンデレみたいなこと言われても。


 「そういえばさあ。

 俺が感染した新型ウィルス、早葵は既に抗体持ってたって今日凛樹が言ってたよな。

 何だよ、最初からキスして大丈夫だったんじゃん。すっげえ損した気分。

 凛樹の野郎、いつから知ってたんだ。しれっとした顔しやがって…」


 ああ、ドクターは大人だからねえ…とあたしが一人納得していると、手首をすごい力で引っ張られ、あたしは遼の方へ倒れこんだ。

 両肩を押さえつけられ、強くキスされる。

 唇を噛むようなキスにあたしが驚いて反応できずにいると、遼は唇をこじ開けるようにして舌を入れてくる。


 長いキスに息苦しくなってもがくけど、遼はびくともしない。

 遼がパジャマの襟から手を差し入れ胸をそっと触ったところで、あたしは思い切り遼の身体を押した。

 怖くて涙が出る。


 「早葵…好きだよ」遼はあたしを抱きしめる。そのまま首筋に唇を這わせ、耳を優しく噛み、何度も何度もキスした。

 「遼!やめて!」あたしは泣きながら叫んだ。


 遼ははっとしたように身体を離してあたしを見た。

 「ごめん…」と呟いた遼の瞳からも涙が零れた。

 

 「そんなに、嫌か?」と放心したように呟く。

 「俺のこと…好きじゃないの?」


 「そうじゃない…遼のことは大好きだよ。

 でもこういうのは…」あたしは泣きじゃくりながら言った。


 「だけど葉山とはやったんだろ?」

 えっ?!

 あたしは「やってないよ!」と即座に言った。

 何言ってるの?


 遼は「もういい…」と言って立ち上がり、フラフラとリビングを出て行った。

 あたしは呆然として閉じられたドアを見ていた。


 

 翌朝、遼は頭痛がすると言って起きてこなかった。

 心配したハウスキーパーさんがお医者様を呼びましょうかと言うと、遼は自分で呼ぶからいいと言って何も食べず部屋に籠っていた。

 あたしが声をかけても「入ってくるな!」と言われて、取りつく島もなかった。


 あたしが被害者だよね?

 と昨夜のことを思い出しながら考える。

 なんで遼が寝込んじゃうわけ?

 もうホントわけわかんない!


 しばらくすると、往診鞄を抱えたドクターが慌ただしく駆け込んできた。

 「早葵ちゃん、大丈夫か?」とリビングに飛び込んできて、あたしと鉢合わせする。

 「あれ?…遼から電話来たんだけど…」

 元気そうだね?と首を傾げる。

 

 「寝込んでるのは遼です。頭が痛いんだって」とあたしがそっけなく言うと「え?遼の方なの?」といぶかしげに言い「何かあった?」と訊いてくる。

 「知りません。被害者はあたしの方だもの」

 「被害者?…なんのこっちゃ」とドクターは頭をかきながら、遼の部屋に入っていった。


 だいぶ経って部屋から出てきて「今、ブドウ糖と安定剤を点滴してるから。目が覚めたら落ち着くでしょ」と言って「しっかし、どーすっかなあ…」と電話を取り出した。


 「遼はどうしたんですか?」点滴と聞いてびっくりして尋ねると「ん?ああ、ただの脱水症状。昨日一晩中泣いてたんだって。まったく青春ってやつは…」

 と言ってから、ちょっと失礼、と電話を耳にあてた。


 一晩中、泣いてたのか…

 あたし寝ちゃったよ。


 うーん。


 

 

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