第5章 7
7.
遼が連れて行ってくれたフレンチレストランは、とてもお洒落で格式ありそうで…はっきり言ってあたしは尻込みしてしまった。
遼は慣れた様子で優雅に支配人やメートルと会話を交わし、あたしをエスコートしてくれた。
遼が恥をかかないように、とあたしも精一杯慣れているようにふるまったけど…バレてるな絶対。
世界が違いすぎる…伊哉遼玲の妻になるってことは、こういう世界にも馴染んでいかなきゃいけないってことなのかぁ。
うわ…あたしにできるかな。
席に案内されて全然判らないメニューを眺め、結局遼にお任せして、あたしは思わずため息をついた。
「いやぁ、やっぱり緊張するな。慣れないことはするもんじゃないねえ」
とキャンドルの炎の向こうで遼が笑う。
「え、遼緊張してる?全然そんなふうに見えないけど」とあたしが驚いて訊くと
「ハッタリハッタリ。未成年がこんなところに自分で来るわけないだろ」と肩をすくめる。
「でも今日は特別。早葵の容疑が晴れた記念すべき日だから。
多少の無理は承知で、思い切り祝いたかった」
「容疑が晴れるって知ってたの?」
さっきはどうなるか判らなかったって言ってなかった?
遼は水を口に含んで、微笑んだ。
「知らないよ。俺だってすごく心配だった。
だけど、あいつらなら必ず早葵の潔白を証明してくれると思ってたから」
「そっか…」凄いな。完全に信頼してるんだな…
「しっかし、あのゲンダイという調査員も切れ者だなあ。
駅の監視カメラの画像なんてよく見つけたよ」
「あ…あれ、怖かった~」あたしが言うと、遼も頷いて
「そう、早葵が現れたというより、早葵だけこっちに取り残されたって感じなんだよなあ…」
と黙り込み、しばらくキャンドルを見つめて考えていたが、やがてあたしを見てにこっと笑った。
「ま、俺が考えても判らないから。専門家に任そう」
「サショウさんて、どういうお友達?」とあたしはいかにも頭の良さそうで真面目そうなサショウさんの優しい笑顔を思い出して訊いた。
「ユウリは大学の時の友達。すごく頭のいい奴でね。ギフテッドチャイルドで周囲から浮いてたんだけど、たまたま小学校の高学年で理解ある教師と出会って、そこからは一足飛びに中高をスキップして大学に入った」
「俺とは一番年の近い友人の一人だな。俺が悪に染めて不良にしたって皆が言うんだけど、そんなことはねーよ。あいつにはその素質があったんだ。
今は帝国大学で、物理の准教授やってる。今度遊びに行ってみるか」
あの若さで准教授…あたしは目を丸くした。あったまいー。
柔らかで丁寧な物腰のギャルソンが、芸術的に美しく美味しいお料理を次々とサーブしてくれて、あたしと遼は未成年なのでノンアルコールのドリンクで乾杯した。
最後にお店からのサービスですと言って、可愛らしいケーキがあたしの前に置かれた。
たっくさん食べて既にお腹いっぱいで全部は食べられそうになかったので、あたしは「遼、アーンして」と言って、半分を無理矢理遼の口に突っ込んだ。
遼は「ゲッ」と言って目を白黒させながら咀嚼して、飲み込んでから「こら!早葵!遊んでんなよ」と笑いながら睨んだ。
「だってお腹いっぱいなんだもん」と言うと「今日は最高に可愛いから許す」とあたしの頬をつついた。
お店の外に出て車に乗り込むと、8時を過ぎていた。
「すげえ食ったなあ。さて、帰るか」と遼は車を発進した。
「遼。今日は朝から一日、どうもありがとう」と言うと「いえいえ。こちらこそ引っ張りまわしちゃって」とおどけて言う。
良かった…さっきのあの気まずい感じがなくなって、あたしはホッとした。
マンションに帰り車を地下の駐車場に置いて、部屋に戻る。
「早葵、そのドレスは明日、俺のタキシードと一緒にクリーニングに出すようにハウスキーパーに言っといて」と遼は自分の部屋に入りかけて言った。
「うん、判った」と言ってあたしも部屋へ入ろうとすると「あ、ちょっと待って」と言って呼び止められ振り向くと遼がスマホを構えていた。
「何?」と驚いていると「はい笑って!」とリョウがシャッターを押す。
「ちょっと、遼!」とあたしが慌てて制しても遼は笑いながら逃げ「だってこんなに可愛い早葵の姿をこのまま逃す手はないでしょ」とシャッターを押し続ける。
「おいで、早葵」と呼んで二人並ぶと、自撮りで撮った。
「ああ、早葵のスマホも買わなきゃな。今までのはどうせ使えないし、ユウリがバラバラに解体しちゃったからなぁ」とあたしを見て言う。
「やっぱり…」とあたしはため息をつく。完膚なきまでにやられちゃってるよね…学者って人種は全く。
「…なるべく元の通りにして返すように言う」と遼は急に元気をなくしたように言って「風呂、先に使っていいよ」と部屋に入ってドアを閉めた。
どうしたんだろう…あたしは閉まったドアを見つめた。
最近の遼の情緒不安定さについていけないときがあるなぁ…




