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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第5章 6

6.


 海沿いの道をしばらく走って、市街地方面へハンドルを切った。

 次第に風景が街並みに変わってきて、あたしは気が付いた。

 「ここ…皆川?」

 「ご名答」


 やがて皆川の駅が見えてきて、遼は車をロータリーに回した。

 停める気はないらしく、そのまま踏切の方へ向かう。

 

 あたしが4月1日に駅のホームから降りて外に出た、踏切だ…

 その後、遼に拉致されて命拾いした。

 すごい運命だ…


 「すごい運命だな」と遼が言った。

 あたしは自分の思いを口に出してしまったかと思って、驚いて遼を見た。

 遼はあたしの方をちらっと見た。「今、こうやって二人でドライブしてるなんてね」

 あたしは頷いて、思わず左手を伸ばし、ハンドルを握る遼の右手に触れた。


 遼は驚いたようにあたしを見て、右手をハンドルから外し、あたしの左手の上からまたハンドルを握った。

 「遼、ありがとう。本当に」あたしは心から言った。

 あの時、遼があたしを見て何かを感じ取ってくれなかったら、あたしは今頃…


 遼は右手に力を込めて、一瞬、目を細めた。

 あたしには、泣き出すの前のような切ない表情に見えた。


 車は市街地を抜け、小高い丘の方へ向かった。

 「みながわ 桜の丘霊園」と書いてある墓地の駐車場に車を停めた。

 「ここは…?」とあたしは遼に訊いた。

 遼は少し笑って「4月1日に俺がこっそり来ていた場所。両親の墓があるところ」と言った。

 「俺の両親に会ってくれるかな」

 

 車を降りて、霊園前のお店で花束とお線香を買った。

 霊園の整備された道を歩きながら、遼は言う。

 「あの日の朝、何故だか急に墓参りに行かなきゃっていう思いに駆られてね。

 もう強迫観念に近かった。

 とるものもとりあえず、徒歩でここへ来て墓参したら何となく心が落ち着いて、帰る途中で早葵を見つけた」


 「俺、あんまりこういうふうに考えるのは好きじゃないんだけど、でもあの時、両親が俺を呼んで早葵とめぐり合わせてくれたのかなって。

 少女趣味な考え方かもしれないけど、本当に不思議なんだよ」

 「そうだったんだ…」


 そんなこともあるのかもしれない。

 あたしは素直に思った。

 あまりにも不可思議で運命的な出会いだったから。


 お墓の前に着くと、遼は「今日は掃除できなくてごめん」と呟いて、花を活けて線香に火をつけた。

 二人で拝む。

 遼のお父さん、お母さん。遼に会わせてくださって本当にありがとうございます。

 あと、遼を戦闘と新型ウィルスから守ってくださってありがとう…


 「早葵、こっちに来て」と遼があたしの手を取って歩き出した。

 霊園の中央にある丘の上に向かっているみたい。

 丘の上には…桜?


 小さな丘の頂上には、大きな桜の木が枝を伸ばし、青々とした葉を茂らせて風に揺れていた。

 遼が眩しそうに見上げて言う。

 「早葵に初めて会った日、この桜が見事に咲いていた。

 戒厳令の中、ひとりでここに来て見上げたんだ。

 荘厳なまでに美しく静かに咲いていて、俺は何だか感動してしまった」


 あたしも桜の木を見上げた。

 この大きな木にいっぱいの花…きっととても美しいだろうな。


 「ふたりで見に来たいと思っていたんだ。もう、花はとっくに終わっちゃったけど」

 「来年、あの日に一緒に見に来ようよ」とあたしは木漏れ日の眩しさに目を細めながら言った。

 「…そうだね」と遼は低く言う。

 「遼?」とあたしが振り向くと、遼はじっとあたしをみつめていた。

  

 「ん?いや、なんでもないよ」と遼は笑って「さあ、行こうか。都内まで戻るから」

 とあたしの手を取って坂を下り始めた。

 

 あたしは漠然とした不安を感じていた。

 遼…本当にあたしを帰す気なの?

 別れちゃうつもりなの…?


 車に乗り込んで都内へ向かう途中、遼もあたしもあまり口をきかなかった。

 あたしは車窓から暮れてゆく空を眺めていた。

 何かに集中していないと泣き出してしまいそうだった。

 

 景色がだんだん賑やかになり都内に入ってしばらく走って、遼はあるお店の前で車を停めた。

 あれ?ここって…

 出迎えたドアマンに鍵を渡して「マダムいる?」と訊いて返事を聞いて頷いている。

 あたしの方に回ってきて、ドアを開けて手を取ってくれた。


 ドアマンが恭しくドアを開けてくれ、あたしと遼は腕を組んで中に入る。

 このドレスを買った、帝室御用達のお店だった。

 マダムが笑顔で迎えてくれる。

 

 「まあ、伊哉様、早葵様。いらっしゃいませ。

 早葵様、お似合いですわ!」と気恥ずかしいほど褒めてくれる。

 

 遼はにっこり微笑んで「こんばんは。マダム久しぶり。早葵のドレス選んでくれてありがとう」と言い

 「急で悪いんだけど、ドレッシングルーム貸してくれる?

 これからロージェ行くんだけど、外歩いて埃っぽくなっちゃったから」

とまたにっこりした。


 マダムが遼の笑顔に一瞬見とれたのが判った。

 遼…自分の顔の価値を解ってるなあ。


 「構いません。早葵様のドレスはうちでお求め頂いたものですし。誰か、手伝ってあげてくれる?」

 とスタッフを呼び、あたしと遼はそれぞれドレッシングルームに案内された。


 スタッフの人に「髪もちょっと乱れちゃいましたね。メイクもお直ししましょう」と遊ばれ、ストッキングも換えてもらってスッキリして戻ると、遼がマダムとにこやかに話していた。

 「あら、お可愛らしいわ」とマダムがあたしを見て言い、振り向いた遼は絶句していた。


 「謁見や宮中での行事向きのメイクやヘアスタイルだったので、スタッフに指示してちょっとカジュアルにさせていただきましたの。お若いんですもの、こういう方が良いわよねぇ」

 とマダムがコロコロと笑って言った。


 遼がなんかボーっとした顔であたしの手を取ると、マダムはまた笑って、

 「さ、お食事楽しんでいらっしゃいませ」

 と送り出してくれた。



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