第5章 5
5.
大きな門をまた通って、一般道へ出てどこかへ向かっている遼にあたしは疑問に思っていたことを訊いた。
「あの…遼。今日は謁見の予定なんじゃなかったの?」
「ん?謁見したじゃないか。瞬に会っただろう?」と不思議そうに遼が言う。
「そういう意味じゃなくて…昨日、式部職の人に教わったみたいな、なんていうか儀式みたいな」
「ああ…瞬なりに気を遣ってくれたんだろ。
宮廷の儀式とか経験のない早葵が緊張しないで済むように。
学生時代の悪友たちとも久しぶりに顔を合わせたいっていうのもあっただろうけど」
別の意味でとても緊張したけど。あたしのスパイ容疑の解明とか…
でも皇太子殿下ってお優しいんだな。
本当にリョウのことが可愛くて仕方ないんだ。
「スパイ容疑やら異世界疑惑、未知のウィルスの解析なんかも全部瞬と俺の友達に頼むように、瞬が命令してくれたんだ。
まだ皆若くて地位は全然低いから大抜擢に近くて、あちこちから異論が出たみたいだけど瞬は退かなかった」
「俺はお偉方に嫌われてるからきちんとした調査結果が出るか疑問だったのと、悪友たちなら俺と俺の婚約者に悪いようにはしないっていう目論見もあっただろうけど…
今の軍の内部にも政府にも、瞬が心から信頼できる人間がいないというのが本当のところだと思う」
「今日集まった奴らみたいな、学生時代に一緒にバカやってた友達が瞬にとっては最も気が置けなくて信頼できる人間なんだ。
だから俺たちはもっとそれぞれの職場で地位を上げて、瞬を傍でサポートできるようにならなきゃいけないといつも肝に銘じてる」
ハンドルを軽快に操作しつつ真剣に語る遼の横顔を眺めながら、あたしは感心していた。
瞬凱皇太子のお人柄もあるんだろうけど、遼たちの結束も凄い。
一生の友人を得たんだな。羨ましいな。
「さて。お嬢様。昼は何食べたい?
夜は結構ちゃんとしたところに行くから、軽めのが良いかな」
「え…なんでもいいけど、服が汚れないようなところがいいかも」
せっかくこんなに素敵なドレスを着てるんだから。
「了解」
と言ってハンドルを切った遼に、もうひとつ気になっていたことを訊いた。
本当は…一番気になっていることがあるんだけど、それを訊いてしまうのはまだ、あたしの中で心の準備が整っていない。
「遼は、今日は仕事お休み?」
「婚約者連れての謁見だからねえ。非番にしてもらった。
皆に超驚かれた。俺が瞬に会うからって仕事休むのか!って。
今まで一度もそんなこと無かったからな~」
「仕事好きなんだね」と言うと「というより、他にすることがないってだけで。凝り性なところもあるから、一度始めた仕事はとことん突き詰めないと気が済まないっていう損な性分でもある」と笑った。
「でも考えてみたら、せっかくこんなに可愛い彼女ができたのに、どこにもデートしたことがないっておかしくないか?と。
これからはいろんなところに連れて行くから。国外は任務の関係で難しいけど。早葵も考えておいて」
「うん…」
あたしは頷いた。だけどなんか釈然としなかった。
『早葵さんを元の世界に帰したいとリョウから頼まれた』ってさっき、ヨウゼイ氏とサショウさんが言ってたよね?
本気なの?
あたしを帰したいの?
訊いてしまいたいけど、怖くて訊けない。
あたしのこと、好きじゃなくなったって言われたら…
「はい到着」
と言って遼はハンドブレーキを引いてエンジンを止めた。
車はいつの間にか海沿いの国道を走っていて、その国道の脇にあるお洒落なレストランの前に停まっていた。
遼に手を取られて、降ろしてもらう。
階段を登り、ドアを開けて中に入ると、店内が一瞬ざわめいた。
遼…だろうなあ。
モデルさんみたいに綺麗だもん。姿も所作も。
あたしだって、店内に突然こんな人が入ってきたら、思わず声を上げちゃうと思う。
窓際の席に案内されて、向かいに座る。
「横に並びたいよな~」と遼。
「小学生のデートみたい」と言うと「そう?良いと思うけどなあ」と残念そうに言う。
「判ったよ…」とため息をつくと「やったねっ!」と言っていそいそと横に座る。
小学生のように並んでランチセットを食べた。
「そういえば、式部職の人にケータリングまでしてもらって、テーブルマナー教わったんだった。
あれは何だったの…」とあたしが嘆くと
「まあ、いいじゃない。これからいくらでも機会はあるさ。覚えといて損はないよ」
ケロッとして言う。
機会あるのかなあ。
元の世界に帰されちゃうんじゃないのかなあ。
またそんな思いが胸をかすめる。
店の外に出ると、海が目の前にあって風がとても気持ち良かった。
「少し、海岸歩いてもいい?」振り返って遼に訊くと
「そんな可愛い顔で言われたら、ダメって言えないでしょ」と腕を折ってあたしに近づいた。
あたしは遼の腕に掴まって、海岸線を歩いた。
遼にはあたしがどういうふうに見えているのか、今一つ謎だなあと思う。
さっきのお店では、店員さんも周りのお客さんも、終始遼に視線がクギ付けだった。
レジしてくれた人なんて、あたしを見てあからさまにガッカリした顔をしていた。
すみませんねえ。こんなのが連れで。
遼は腕を組んで歩きながら、とても嬉しそうに笑う。
「可愛い彼女と一緒にこんなふうに歩くのって、夢だよな~」
「可愛くは全然ないけど…」あたしが言うと、遼はにっこり笑って
「今日はホント、最高に可愛いよ。たまにはこうしておしゃれして出かけよう」と言った。
あたしが照れてしまって下を向くと、遼は少し笑って言った。
「今朝は、あまり感情を出しちゃうと自分でセーブできなくなりそうだったから、言えなかった。
あいつらの報告っていうのが、どういうものになるか判らなくて不安だったのもあるけど」
「それじゃあ、そろそろ行こう」と言って遼は車に戻った。
あたしを座らせると跪き、ヒールを脱がせて丁寧に砂を払ってくれる。
傍を通りがかった女の人たちが、遼の姿を見てキュンとなってるのが判った。
あたしもあたしも~って感じ。
そういえば、今日の目的地ってどこなんだろう。
「見せたいものがある」って言ってたけど…




