第5章 2
2.
『大日本帝国陸軍、藤堂コウカ准尉であります!(敬礼)
伊哉遼玲少佐の婚約者、川上早葵殿のスパイ容疑についてご報告申し上げます!』
藤堂准尉は、多華さんと一緒にあたしにしてくれたような話をした。
・4月1日、午前8時に突然、皆川駅に電波を確認した。
・8時9分ごろ、あたしの姿が線路の外に現れ、監視カメラが捕捉した。
・ところが何故かそこで遼の姿がカメラの映像に映り込み、その後監視カメラの電源が切れた。
・皆川駅で捉えた電波を発していた端末のIPアドレスが、この国には存在しないものだった。
・多華さんがあたしの生徒手帳を盗撮し、調べたがあたしも学校もこの国には存在していない。
・スパイならば周到に戸籍や経歴を準備すると思われる。
・遼の家のあちこちに監視カメラを設置して、あたしの動向を観察したがまったく不自然な点はなかった。
・スマホとあたしの通学かばんを押収し、内閣官房と協力して調査した。
『調査の細かい部分は、内閣官房調査員が報告されるとのことで割愛いたします。
川上早葵殿の容疑については、スパイであるという確たる証拠もスパイでないという確たる証拠も見つかりませんでした』
『ただ、あまりに川上早葵という人物自体が謎の存在であるので、伊哉遼玲少佐の婚約者であるということ、皇太子殿下のお預かり案件になったことを踏まえて、不問に処すという結論を得ました』
あたしの横で、遼が大きくほっと息をついた。
そのまま片手で目を抑えて仰向く。
ヨウゼイ氏は動画を止め「以上が軍の報告と見解。続いて、内閣官房の調査結果を報告する。
我々はスパイ容疑の調査から派生した、川上早葵さんという謎の人物の解明に主眼を置いている。
スマホの解析、歴史の究明はサショウに頼んだので、後で報告してもらう」
ここでゲンダイさんが演壇に上がった。
「内閣官房調査室、ゲンダイシュウジ調査員であります。
わたくしは、川上早葵殿の存在を確認する作業と、監視カメラの画像解析を致しました」
「まず確認しておきたいのは、川上早葵という人物の出生届を出されておらず、従って無戸籍であるという可能性があるということです」
「しかし、無戸籍状態では高校に通うことはあり得ません。
今回の場合、高校も存在しないので完全に否定されるわけではありませんが、生徒手帳や学校指定の鞄の校章、制服や靴下の校章の刺繍に至るまで、わざわざ偽物を作って持ち歩く意味が解りません」
「見城多華准尉が、川上早葵殿に両親の名前、生年月日を尋ねてこちらでも調べましたが、該当する人物はおりませんでした。
父親が勤務するという会社は存在しておりますが、父親に該当する人物はいませんでした。
両親ともに無戸籍というのは考えられない事態であります」
「生徒手帳の住所地も調査しましたが、やはり同じ結果でした。
わたくしが出向いて近所の住民に聞き込みをしましたが、高校生くらいの娘と中学生くらいの息子がいて学校に行っていないような家庭もありませんでした」
「あと考えられるのは、大変失礼を承知で申し上げれば、川上早葵殿が何かの病気に罹患されていて、辻褄の合わない行動を日常的にされるという可能性です。
軍が撮影した、少佐の家での監視カメラの映像を精神科の医師に見てもらいました。
言動は一貫性を維持しており、特に不審な点はないということでした」
げーっ。
そこまでやってたのか…凄いなあ。
あたしは怒るとかいうより先に感心してしまった。
「以上の結果を鑑みて得た結論と致しましては、ここにおられる川上早葵という人物は、この大日本帝国に存在しない人物であるということです」
「では次に、川上早葵殿は本当に本人が主張している通り、異世界からやってきたのかという検証に移ります。
4月1日の皆川駅構内のカメラは、人が侵入することを想定しておらず電源が入っていない状態でした。
ですが、これをご覧ください」
と言ってスクリーンに粒子の荒い動画を投影した。
「4月1日午前8時ジャストに、下り電車が皆川駅に入ってくる様子が突然映っていたのです。
人が大勢降りてドアが閉まり、出発し始めた8時2分52秒で画像は唐突に切れます。
よくよく見てみると、降車した客の中に、川上早葵殿らしき人物がおります」
えっ!
あたしはビックリして、目を凝らして画像を見た。
遼も食い入るように見ている。
画像は処理されていて、あたしらしき人物を丸で囲ってある。
途中の方で出てきて、階段を登り始めてすぐ手すりに掴まっている。
あたしだけ止まって、皆が避けて登っていく…
そこで画像が消えた。
え?!でもなんか、最後、おかしくなかった?
「最後のところをもう一度流します。
ここです(と画像を止めた)
早葵殿の姿は残り、他の人物の姿は消えているのです」
ぎゃーっ!
自分のこととはいえ、オカルトチックな画像に悲鳴が出そうになった。
他の人も皆、唖然としてスクリーンに見入っている。
「駅のホーム沿いに住む住民に聞き込んだところ、確かに4月1日の朝8時ごろ、駅の方角で人のざわめきと発車メロディーが聞こえたという人が複数おりました。
兵隊さんが出征するんだろうと、皆あまり気に留めていなかったようですが」
ここで言葉を切り、パソコンを閉じた。
「まだ結論を出すのは性急かと存じますが、普通ではあり得ないことが起きているということは確かであろうかと思います。」
と締めくくってゲンダイさんは演壇から降りた。
「じゃあ、次はスマホの解析と歴史の研究までやってくれた、サショウね」とヨウゼイ氏が言った。
サショウさんは頷いてゆっくり立ち上がった。




