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来年の今日、またこの場所で。  作者: 若隼 士紀
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第4章 5

5.


 「…早葵の、スマホの解析が進んでいてね。やっぱりこの世界のものではないらしい。

 最初、俺の画像がたくさん入ってるってことで、かなり性質の悪い嫌疑をかけられそうになったんだけどよくよく分析してみたら、早葵がいた世界の人間だと」


 「俺も無理いって見せてもらった。気になって仕方なかった。

 本当に似てるんだな。知らなかったら、俺だって俺だと思ったかもしれない。

 早葵が最初、俺を葉山と思い込んだのも無理はない」


 見られた…

 遼に、葉山君との写真を…

 あたしは脱力して遼から目を逸らした。


 「ごめんな。見ちゃいけないと思ったんだけど。

 公園みたいな芝生の場所で早葵が、葉山の隣で笑ってる写真、めちゃくちゃ可愛くってさ。

 なんで隣にいるのが俺じゃないんだって、胸が焦げるようだった」

遼の声に涙が混ざった。


 あたしには遼の声がだんだん遠くなっていくように思われた。

 代わりにぼんやりした目の前に浮かんできたのは…葉山君と一緒に写真を撮った時の風景。

 

 日曜の昼下がりの公園。

 葉山君と、あの時は奈美と奈美の彼氏もいた。

 芝生の上でしゃべってたら、どこからか子犬が走ってきて、じゃれついてきた。

 すっごく可愛い子犬で、皆で笑いながら遊んだ。


 後でその時の画像を奈美が送ってくれた。

 「二人のサイコーの笑顔、いただきっ☆」とコメントがついてた。

 あたしと葉山君が寄り添って楽しそうに笑ってる写真。

 あたしのお気に入りの一枚だった。


 「…き!早葵!おい、大丈夫か?」肩を大きくゆすられて、ぼーっとしたまま顔を上げる。

 葉山君が、なんか妙に真剣な切羽詰まったような表情であたしを見ている。

 なに?どうしたの?

 「…葉山君?」


 呟いてそのまままた意識が遠のく。

 葉山君、なんでそんなに驚いた顔してるの?

 よく解らないけど、なんかあたしすごく遠いところにいたみたい。

 帰れたのかな?


 翌朝、目を覚ますと、あたしは自分の使っている部屋のベッドにいた。

 起き上がるとなんだか頭痛がする。

 時計を見ると9時30分。

 ゲッと思って起き上がり、着替えをして顔を洗ってリビングに行くと、ハウスキーパーさんが掃除をしていた。


 「あら、早葵さんおはようございます。

 お加減は大丈夫ですか?早葵さんの具合があまりよくないって、少佐がおっしゃってましたけど」

 「あ…大丈夫です。 あの、遼は?」

 「今朝早くにお出かけになりましたよ。

 今日は遅くなるそうですので、お夕食はおひとりで召し上がってくださいとのことでした」


 「そうですか…」とあたしがソファに座ると「失礼します。ご起床されましたか」と軍の、遼の部下の人がリビングに入ってきた。

 「おはようございます。ご苦労様です」とあたしが頭を下げると、かちっと敬礼してくれた。

 全然早くないけど。すみません。

 

 「わたくしは伊哉少佐殿から、婚約者殿の今日一日の護衛を拝命しました。

 今日は式部職の方がお見えになって明日の謁見についてお話があるそうですが…

 伊哉少佐から、もし婚約者殿のご気分が優れなければお断りして差し支えないと申しつかっております」

 

 明日…の謁見…?

 あしたっ?!

 すっかり忘れてた!


 「大丈夫です。全然大丈夫です!」とあたしは慌てて言った。

 「それで、今日は何時にいらっしゃるんですか?」

 「11時ごろということでした」

わお。ギリギリじゃん。急いで朝ごはん食べよう。


 あたしが立ち上がると、ハウスキーパーさんが心得て素早く朝食を調えてくれた。

 なんかもう、仕事とはいえこんな小娘のためにいろいろしてくださって、皆さん本当にすみません。


 式部職というのは宮中の役職の一つだそうで、儀式典礼のさまざまなことを司る部署のことらしい。

 非公式で短時間とはいえ皇太子殿下に謁見するわけだから、ド庶民のあたしがただのこのこと参上するわけにいかない。

 しきたりとかエチケットとかマナーとか、なんかよく解らないけど明日失礼のないように教えに来てくれるんだって。


 式部職の方が二名、時間通りに来て、その日は一日がかりでいろんなことを教わった。

 怖いおじさんが来るのを想像していたけど、優しそうな中年の女性と多華さんくらいの若い人だった。

 昼食もマナーを教わりながらで、すごいご馳走をケータリングしてもらったのに、全然味がしなかった。


 式部職の人たちが来る前に、遼の部下の人がリビングでビデオカメラを三脚に設置していて、何だろうと思っていたら、マナー講座の一部始終を録画して、後であたしが見て復習できるようにと遼が指示を出していたんだって。

 さすが、あたしの鳥頭っぷりをよくご存じで。とほほ。


 あたしはメイクの仕方やヘアセットの仕方まで教えてもらい、多華さんと一緒に買っておいた服と靴を見せてお褒めの言葉を頂いた(さすが帝室御用達のお店の店長が選んでくれただけあるなあ)。


 その日は撮ってもらったビデオを何度も見返して、あまり遅くならないうちに就寝するように言われていたので、なんか寝すぎかなと思ったけど早めにベッドに入った。


 遼には全然会えなかった。

 昨夜、何か重要なことを話したような気がするんだけど、記憶がぼんやりしていて思い出そうとすると変な頭痛がするので諦めた。


 遼は遅くに帰ってきたみたいだった。

 

 

 


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