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1-1 出会い


時刻が夜の九時を回った頃、僕は薄手のパーカーを羽織り、いってきますの挨拶もなしに家の外へ出た。

 別に非行を働こうとしているのではない。ただの日課としている散歩だ。


「……やっぱりまだ寒いな。コート着てくるべきだったな」


 この時間だと春の夜風が体に沁みて、不意にそんな言葉が漏れてしまった。

 僕は両手を擦り合わせながら、ゆっくりと足を動かし始めた。


 外套もほとんどない田舎の夜道には人ひとりといない。見える景色は田舎道特有の田畑と山林だけだ。

 僕は手に持った懐中電灯と薄っすらと光る月明りを頼りに閑静な畦道を一人ゆっくりと歩いた。


 歩き始めてから約二十分。僕はほぼ毎日通い続けている目的地の小高い丘の頂上に到着した。

 

 いつものように何もない開けた草原の中央付近で仰向けに寝転がり、空を見上げた。

 昼間は辺りに何もない静かな場所なんだけど――


「……やっぱり綺麗だな。この星空は」


 眼前に広がるのは闇夜で燦々と光り輝く満天の星空。

 一つ一つは小さな光でもそれが幾億と重なり合うとまるで空に描かれた芸術のように美しい。

 僕はそんな幻想的な景色をただ無心で眺められるこの場所が好きだった。そう、この何かを掴めそうで掴めない、この感じが。


 と、そのとき草原を突き抜けるような一陣の風が吹いた。

 無数の木の葉が空中を舞い、風と葉擦れの音が辺りに響く。


 僕は思わず両目を閉じて、片腕で顔を覆った。そして横になっていた体をゆっくりと起こした。

 

「すごく強い風だったな、今の」


「ほんとですね、私もびっくりしました」


 とっさのことで思わず独り言を呟いてしまった。

 

「それにしても本当にこの星空は美しいですね」


「うん。そうだね。僕もそう思うよ」


 ……あれ? 独り言なのになんで会話みたいに相槌を入れてるんだ、僕は。

 


「そうだ、よろしければ貴方のお名前を教えてくれませんか?」


「あぁ、僕の名前は――!?」


 そう言いかけた瞬間、血の気がさぁと引き、体が強張るのを感じた。

 僕の頭が状況を理解し、条件反射で起こしかけの体が跳ね上がった。


「えええええええぇぇぇ」


 夜の静寂を打ち破る矢のような鋭い絶叫が草原中に響き渡った。

 

「ちょっと夜中にそんな大声を出すべきじゃないですよ。近所迷惑です」


「いやいやいや、その前に君誰!? いつからそこにい、た、の…………」


 僕はこんな奇怪な状況だというのに次の言葉を継ぐことができなかった。

 振り返って見た彼女に目を奪われてしまったからだ。


「……確かに私の方から先に名乗らないといけないですね」


 そう言うと、彼女は座っていた体を持ち上げ立ち上がった。

 月明りと星空に照らされた彼女の姿を僕はこの先一生忘れないだろう。


 透き通るような白い肌。整った顔立ち。血色の良い唇。腰にまで届く少しくすんだ金髪。極めつけは紅色の大きく澄んだ瞳。


「私の名前は黒崎クレア。その……一応、魔女の末裔よ」

「…………へぇ?」


 思わず素っとん狂な呆けた声が漏れてしまう。



 きっとこの時の僕はまだ知る由もないだろう。僕が、自称魔女の彼女に恋をするなんて。


 

 

 

 


 

 

 

 

 


 


 

 


 

 

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