左手の十字架21
ある古びたマンションにパトカーが3台止まっている。
ランプを光らせて、黄色のラベルのバリケードをしき、マンションに人を寄せ付けなくしている。
そこへヅカヅカとレイがなんの遠慮もなく向かっていく。
身構える警察官たち、だがレイの顔を見るなり、大柄な警察が歩み寄った。
「レイ!よく来てくれたな!私の手には負えないから呼んだんだ。」
身長は175はあるであろうレイと比べて頭一つ飛び抜けている。
そして警察の制服に大柄な体。
強面の顔も手伝ってとても威圧的であるのに、その全てを生かすつもりがないと言わんばかりの、とても柔らかい口調で彼は言った。
「今日の朝、娘を起こしに行った母親が通報してきた。
部屋の天井に張り付き白目のない目でこちらに笑いかけたらしい。
その獣のような息づかいと、悪魔のような顔つきにはもう娘の面影は無かったそうだ。」
レイは相槌もつかずにタバコに火をつけた。
「電話で話した事はちゃんとやっておいたか?」
大柄な男は大きくうなづいた。
「言われた通りに扉には鎖で錠をしたよ。窓にはもともと鉄格子がはめられていた。
それにこれは君に昔もらった物を聖水で育てたものだ。
言われた通り持ってきたよ。
4本と言われたが、6本持ってきた。
なんでも余分にあるのは良いことだからな。」
レイはシキミと呼ばれた植物を男から奪い取るように受け取ると、マンションの扉へと向かった。
「確か205号室だったよな?
近隣の部屋の住人が部屋から出てこないようにしてくれ。
あとこの植物は魔除けになる。
これからもあんたの部屋の中、玄関前に育て続けてくれよ?」
そう言ってレイは中に入って行った。
「あんな奴に任せていいのですか?
ワグナス警部。」
部下の1人が大柄の男に耳打ちした。
「彼は無愛想ではあるが優しい青年だよ。
昔私は彼に助けられたことがある。周りに話せば笑われてしまうような事からな。
彼は祈祷師のようなものなのだよ。
大丈夫私が責任をもとう。
さぁ言われた通りにマンションの住民が部屋から出ていないか見回ろう。」
ハッハッハと笑いながらマンションに入っていくワグナスに部下たちも、しぶしぶとついて行った。