左手の十字架20
なんとかギリギリ間に合った。
外は肌寒いというのに走ったせいで、汗が身体中からふきでた。
まだお祈りまでの時間に5分ほどの余裕がある。
私は教会の木の扉を静かに開けた。
異変に気付いたのは開けてすぐだ。
まずいつもの賑やかな声が聞こえてこない。
日曜日のお祈りの日には子供もたくさん来るので、お祈りが始まるまではもっとワイワイとしている。
もしかしたらもうお祈りを始めているのだろうか?
しかし扉を開けると、薄暗く電気がついていない。
今日はお祈りがない日だったかしら。
というより本当に日曜日?
それを心配するほどに教会は静寂に包まれていた。
窓から日差しが入っているが、それでも聖堂の中は暗い。
私は恐る恐るに奥に進んだ。
そして目が慣れてくるにつれて、聖堂に建てられた十字架の近くに人影があるのに気付く。
それも一つではない。
数えられないほどに。
私は何か恐ろしくなり、木の扉まで戻り開けようとするが、何故か開かない。
私はドンドンと扉を叩いた。
「開かないよアリシア。もうここは君の知っている教会ではないのだから。」
振り向くとそこには2メートルはあろうかという大男が立っていた。
彼の目は赤く光っていた。
その瞬間左手がカッと熱くなったと思うと、また左手が大男の胸を撃ち抜いた。
その場で崩れ落ちる大男を越えて私は走った。
聖堂を横切って反対の角まで走ればもう一つ出口があるはず。
しかし途中で3人ほどの男に行く手を遮られた。
また左手のデリンジャーが真ん中の男の胸を撃ち抜くが、左右の男を撃ち抜く事は無かった。
「弾切れだろう?銀の手は確かに脅威だが、銃がなければ何てことはない。もっとも使いこなせてもいないようだがな。」
私は聖堂の方に向きを変えて走った。
しかしそこにはさらにたくさんの目が赤い男たちがニタニタとしながら、まちうけていた。
私は囲まれてしまって逃げ場はない。
私は頭の中で何か手はないかと考えたが、いい方法など思いつかない。
それに足は震えてしまい、動けなくなってしまっている。
「悪く思うなよお嬢さん。」
男たちの1人がなんの躊躇もなく、私に銃を向け引き金を引いた。
鈍い銃声と焦げる鉄の匂いがした。
そして私は男の凶弾に倒れた。