左手の十字架15
トゥルーマンは本の中間ほどのページをめくってロイとアリシアに見せた。
見開きのページには右のページいっぱいに私の左手を書いたかのように、手の甲に十字架の埋め込まれた手が精巧に描かれ、左のページにはその説明が書かれている。
そしてそのページの冒頭には確かに銀の手と記されていた。
「ここに記されているように、銀の手とは様々な力をもつ神の遺産だ。
様々な神話でその名は登場するが、正しくは戦いのなかで聖王が左手を落とし、神から献上されたものとされる。
その手に持つものは全て対魔の力を宿し、悪魔を殺す事が出来る。
手の甲の十字架は地上にあるどの十字架よりも聖なるもので、浸した水を聖水に変える事が出来る。
つまりは神の与えた義手であり、無限の力をもつ聖遺物だよ。」
わたしはよくわからなかった。
義手って事はこれは私の手ではないって事?
それに悪魔を殺す?
もう私の頭はパニックになってしまっていた。
「それで…この手をどうにか出来ないのか?」
ロイがトゥルーマンに質問する。
トゥルーマンはさらに次のページをめくりある程度読み進めるとまた、私たちにページを見せた。
「この義手はつければ本当の自分の腕のように機能すると書いてある。
つまりは外すと言うよりは切断になってしまうと思うよ。
それにきっと神経も繋がっているだろうから痛みもあると思う。
でも安心してくれ。
この銀の手は本人の意思で変化する性質があるから普通の手を想像すれば、普通の手に戻せるはずだ。」
トゥルーマンは私の目を見ながらうなづいた。
「ここに両手を出してくれ。」
トゥルーマンに言われた通りテーブルに両手を出す。
ロイは心配そうにそれを見守っている。
「では右手を見ながら左手も右手のように普通の手になるように想像してみてくれ。」
わたしは右手をじっくり見てから深呼吸をしてから目をつぶり、左手が普通の頃だった時を思い出した。
「…目を開けてごらん。」
トゥルーマンの優しい声が聞こえてきた。
左手は普通の手に戻っている。
夢のようで右手で左手の甲をなぞるがそこにはやはり何もない。
私とロイはその場で子供のように、抱きしめ合いながら嬉しがってしまった。
トゥルーマンもホッとしたのか小さく笑いながらそれを見守った。