左手の十字架11
「ガンジス川のほとりで汲んだ聖水と純銀製の杭、ホーリークロス、それに大統領暗殺に使われた銃弾。
そして水銀を1リットル。」
そういって中年の男は1つずつそれらの品々を鞄から出してテーブルに並べた。
青年は何も言わずにそれらを手にとって眺めると戻すを繰り返していた。
まるでそれらを吟味しているようにも見えた。
「全て素晴らしいものだな。」
青年は全てを見ると満足そうに笑顔で中年の男に言った。
「これが…約束の報酬だ…」
そういって今度は青年が一つずつ品を並べた。
「みどりガエルの置物、手乗り文鳥の置物、それに原産直輸入のマトリョーシカ。全て言われた通りアンティークのもので揃えた。」
それが報酬なの?
私は思わず心の中で呟いた。
ここが変なところだからって言うのと、人によって確かに趣味は違うけれど…でもやっぱりお金を欲しがらないのは不自然な気がする。
だがすぐに私の疑問は青年が代弁してくれた。
「トゥルーマン…本当にこんなものでいいのか?お前の要求はいつも金にもならないものばかりだ…」
トゥルーマンと呼ばれた中年はやはり少しオドオド、モジモジしながら、
「いいのさ。好きなんだから…私にはこれの元持ち主が分かる。何故それを手に入れ、そして何故手放したのかが。
そして僕にはこういうのは自分で手に入れられないからね。」
そういって笑うトゥルーマンと呼ばれた男をみて青年は笑った。
「さて…交渉も済んだところで…そろそろ盗み聞きをやめて出てきてくれないか?」
青年がこちらに向かって言った。
とても泥棒を扱うような感じではなく、慣れてるように、冷静な口調だ。
私とロイは顔を合わせると恐る恐る2人の元へと近づいた。
「盗み聞きとはあまり関心出来ない趣味だが、要件はなんだい?」
その口調は年相応とは思えないほどに落ち着いたものだ。
「彼女の力になって欲しいんだよ…レイとはあなたですよね?君は悪魔祓いとかに詳しいと聞いている。
どうか力を貸してくれないか?」
ロイが私の代弁をしてくれた。
それを聞いて青年はニタリと怪しく笑う。
「確かに私の名前はレイ…レイ・テノーラだ。君の言うように悪魔や化け物を相手にしている。
力を貸してやらん事もない。だがそれ相応の対価を要求する。」
それを聞いて私もそしてロイも不安の色を隠せなかった。
これだけ怪しい人間だ。
何を要求するかなんて想像もつかない。
もしかしたら魂を取られるとか?
それとも血とか?
悪い想像ばかりがグルグルと頭を駆け巡った。
「な…何が望みだ?」
ロイが震える声で必死に質問をした。
また青年レイはニタリとさぞ可笑しそうに笑いこうつぶやいた。
「その女の魂だ。」