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 そういう訳で、ぼくは普段通りに登校した。

 欠席する者はいなかった。無論、皆、機械兵士を恐れているのだ。

 普段通りの会話、普段通りの授業。

 最早、ぼくたちが大学を受験する可能性はなくなってしまったというのに、数学なんかノートにとっているのは、滑稽としか言いようがなかった。

 今朝のニュースに触れる者は誰もいなかった。あれは悪夢だったのだという気さえするようだった。

 だが、それにしては全ての者の表情が暗すぎた。普段通りに会話はしていても、笑い声というものは、まったく聞こえる事はなかった。


 放課後。

 部活がある者は、『普段通りの生活』に縛られ、それぞれの練習を行っている。

 帰宅部のぼくは、そんな束縛がない。ぼくは、ナミカと家路についた。


 いつも、彼女と一緒にいる事が嬉しかった。

 付き合って2ヶ月だが、彼女とは本当に楽しい時間を過ごせた。

 何の話をしても、笑い転げて……。

 でも今、何を言えばいいのか、わからない。今日が終われば死ぬ、という今、気持ちのいい時間なんて、持てる筈もなかった。


 殆ど無言のまま、ぼくの家に着いた。

 母親はぼくが幼い頃に死に、父親は遠い街で恋人と暮らしている。

 つまり、ぼくはひとり暮らしだ。

 家に誰もいない、という事実がかえって重く感じられて、今までぼくは、ナミカを家にあげたことがなかった。

 でも、もう今日しかないのに、そんな事は構っていられなかった。

 あがっていきなよ。と言い、ナミカは靴を脱いだ。

 ぼくはナミカを抱きしめ、キスをし、ふたりはベッドに横になった。


 だけど、この事はまったくうまくいかなかった。

 今日が終われば死ぬ、という事実は、ただぼくたちを急きたて、追いつめ、互いに対する思いやりを奪っていた。


 ナミカは起きあがり、じゃあ、帰るね。と言った。

 待ってよ、帰らないで。とぼくは言った。

 だめ、お父さんとお母さんが待っているから。

 その言葉に、ぼくはそれ以上、何も言えなかった。

 ぼくには、誰も待っていない。ぼくは、ひとりで死ぬしかない。


 彼女が帰ってすぐに、居間の電話が鳴った。父親だった。

「……帰れない。飛行機もとれなくて……」

「いいよ、わかってるよ」

 嗚咽。

「おまえが息子で、ほんとうによかった。おまえ……」

「うん、大丈夫だから。ありがとう、父さん」

 受話器を置いた。冷めていようと思ったのに、なぜか涙が流れていた。

 ずっとぼくを置き去りにしていた親でも、ぼくは一緒にいたかったんだ。

 だけど、ひとりで死ぬしかない。怖い。ただ、誰かといたい。

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