008
「殿下は、何もおわかりになって無いようですね」
慎吾のことを見ているレナが悪戯っぽく笑っているように見える。確かにレナの言うとおり信吾には何が何だかわからなかった。
「殿下は銀河帝国皇帝陛下の五番目の皇子で皇位継承権もあるれっきとした皇子なのですよ」
「皇子?俺が?」
「はい。五番目に皇位継承権があるれっきとした皇子様です。本当はあたしなんかがこんな風に気軽に話しかけることも出来ない偉い人なのです」
「なんだ?それって」
信吾はそのままベットの横になった。レナの言っていることは今ひとつ何も理解が出来ない。
レナは椅子から立ち上がると信吾が横になっているベットの傍に正座した。
「あたしは皇帝陛下から直接命令を受けてここに来ました、これは特命だからここを管轄している第八十二師団にも連絡されていなかったんです」
「八十二師団って何?」
信吾はベットから起き上がりレナを見おろした。
「昨日あたしを襲ってきた人達です。多分あたしのことを敵である共和国軍の人間だと思ったんでしょう」
「昨日襲ってきた人達は見方なの?」
「はい。同じ帝国軍の軍人です。そして敵は別にいます。それが共和国軍です。帝国と共和国は、もう何百年間も戦いを続けています」
何かの映画みたいだ。そんなこと直ぐに信じろって言われても信じることは出来ない。
「共和国軍が殿下の命を狙っているって情報が入ってきたのであたしが派遣されたのです」
レナの妄想なのか?けれど真剣な表情のレナが、冗談を言っているようには見えない。
「あたしはもう正式に着任したからあたしへの命令権は、殿下、あなたにあるのです」
「どういう意味?」
「あたしは近衛師団第五遊撃隊所属ですから帝国正規軍とは命令系統が違うのです。あたしへの命令は皇帝陛下が直接出す近衛師団本部からのものと、殿下が出される命令が帝国正規軍の命令より優先されるのです」
信吾にはまだ良く理解できなかったが、どうやら昨日襲ってきた人達は見方だけど命令系統が違うから敵になる可能性もあるってことなのだろうか?何だか難しい。
「どうでもいいよ、そんなことは」
再び信吾はベットに横になった。レナの言っていることはよくわからないが、レナが隣りに住むことになったことは嬉しかった。
「大切なことなのです。少しずつでいいから、覚えていただけますか?」
そう言ってレナは立ち上がった。
慎吾は、レナとの会話で、ものすごく違和感を感じることを、思い切って言ってみた。最初レナと出会った
「これから隣に住むんだから、タメ口でいいよ。変な敬語はやめようよ。同じ歳なんだし」
「それは、殿下からのご命令でしょうか?」
「それから、殿下って呼ぶのもやめてほしい。名前とかで呼んでくれないか?」
しばらく考えていたレナの喋り方が変わった。
「うん、じゃあ、和久井君って呼ぶね。それから、和久井君のストーンに名前を付けてあげてね」
急にタメ口になったレナに戸惑いながら慎吾は聞いた。
「俺のストーン?」
信吾は胸元のペンダントに手をやった。
「もう起動しているはずよ。性別は女性だったみたいだけれど」
(スタンバイモードで待機しています)
頭の中に声が聞こえた。これが俺のストーンの声なのかと信吾はペンダントの石の部分を握りしめてみた。
「今日はもう帰るね。明日一緒に学校へ行くの、楽しみだよ」
レナは立ち上がると青白く光り、入ってきた窓から外に飛び出していった。