007
「じゃあ、そういうことだから」
夕食後、リビングでくつろいでいた瞳はそう言って席を立つとレナを連れて隣の自宅へ戻っていった。
「そういうことって言われても」
信吾はどうしていいのかわからず、リビングで一人途方に暮れてしまった。
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女性の声が頭の中に聞こえてきた。ますます訳がわからない。
瞳の話を要約するとこうだった。神前レナは瞳の恩人の娘で信吾と同じ歳の高校一年生だそうだ。明日から信吾と同じ桜田高校へ転校することに決まっていた。
レナは家族と一緒にイギリスのロンドンに住んでいたが、ある事情があってレナだけ日本に戻って来ることになったそうだ。レナには日本に住む親戚とかいなく、昔面倒を見た瞳の所にレナを頼むとロンドンから連絡が来たそうだ。レナの父親は仕事の関係で信吾の父親とも面識があり瞳はレナを預かることを承諾したそうだ。
「いくらイギリスから来たからって、普通の女の子が空を飛んだり魔法みたいな物を使ったりしないだろう?」
瞳が言ったことは嘘だと信吾は思っていた。レナと初めて会ったときレナは乗ってきた船が撃墜されたと言っていた。それってもしかして宇宙船じゃなかったのか?
自分の部屋に戻り、ベットに横になった。このベットに昨日はレナが寝ていたんだと思うと少しだけ嬉しくなる。
レナが帰国子女だろうが宇宙人だろうが信吾にとってはどうでもいいことだった。レナが信吾の側に戻ってきてくれた。これから近くに住んで一緒に同じ高校に通えるとわかるとそれだけで何だか気持ちが明るくなってきた。
窓を叩く小さな音に信吾はベランダに面した窓のカーテンを開いた。
「失礼します」
ベランダにレナが立っていた。もしかして昨日みたいに青白く光って空を飛んできたのだろうか。
「入ってもいいですか?」
断る理由も無いので信吾は窓の鍵を開けレナを部屋に招き入れた。
「昨日はありがとうございました」
そう言って信吾の部屋に入ってきた。
「どういうことなんだよ?」
信吾はレナに聞きたいことがたくさんあった。けれど何をどう聞いていいのかわからない。頭の中がまだ上手く整理されていない。つい乱暴な言葉遣いになってしまう。
「正式に自己紹介をさせてください」
そう言うとレナはベットの上に座っている信吾の前に来て直立不動の態勢になり、右手を横に伸ばすと額に持ってきて軍隊式の敬礼をした。
「帝国宇宙軍近衛師団、第五遊撃隊所属少尉、神前レナです。和久井信吾殿下をお守りするためにただいま着任いたしました」
信吾は目が点になりレナのことを黙って見ているしかできなかった。
「着任の許可をお願いします」
「えっ?」
なんだ?着任って?俺が許可するのか?
「着席してもよろしいですか?」
敬礼したままのレナが聞いた。
「ど、どうぞ」
信吾が答えるとレナは後ろにあった勉強机の椅子に座った。