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戦闘機のコックピットは思ったより狭くできている。その狭いシートの上に信吾はレナを抱えて座っていた。
「宇宙戦艦並みのステルスモードが付いています。この戦闘機凄いですよ」
前方のパイロットシートに座っている宮寺が何とか操縦して飛行していた。
「ここは?」
レナが気が付いた。
「宮寺先輩が操縦している戦闘機の中だよ。レナは助かったんだよ」
信吾は嬉しくなり思いっ切りレナのことを抱きしめた。
「あたし、裸だ」
慌てて開いているシャツの胸元に手をやっている。
「海に落ちましたから、身体を冷やさないように濡れた服は私が脱がしました」
パイロットシートから宮寺が言った。
レナには信吾が着ていたシャツを着せてある。身体が冷えないように信吾がずっとレナのことを抱きしめて暖めていたのだった。
「レナ」
信吾はレナのことを見つめた。信吾の膝の上にレナが座っているので近い場所にレナの顔がある。
「何?」
怪我はいくらか回復したのか、顔色はだいぶ良くなっていた。
「俺、レナのこと護るって言っておきながら何も出来なかった」
信吾は自分がもどかしかった。いつも格好だけで何も出来ない自分が。
「そんなことないよ。和久井君が助けてくれたから、あたしは生きているんだよ」
共和国軍の大気圏内用小型戦闘攻撃機は信吾達を乗せて北へ向かって飛んでいた。
「こんなときに言うのは卑怯かも知れないけれど、俺、レナのことが好きだ!」
戦いでいつ死んでしまうかわからない状況。普段信吾が生活している場所ではあり得ない状況だが、レナ達の戦いを見ていると今すぐに自分の持ちを伝えたい。いや、伝えねばならないと信吾は思った。
「ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でもね、あたしは近衛兵で・・・」
信吾はレナにキスをした。レナから帰ってくる言葉はわかっている。信吾と違う世界で生きてきたレナに、信吾の世界の感覚で話しをしても無駄だとわかっていた。
でも、自分の気持ちに嘘は付きたくなかった。嫌われてもいいと思った。信吾はそれほどレナのことを愛おしく思い、好きになっていたのだ。
「卑怯だよ、和久井君」
キスの後、レナの唇から最初に出た言葉だった。
空がだんだんと明るくなってきた。間もなく夜が明けようとしている。
「謝らないよ俺、悪いことしていると思っていないから」
「三時の方角、朝日が昇ります」
宮寺が言った右方向の空が燃えるように真っ赤になっている。
「きれい」
東の空、朝焼けを見るレナの顔が太陽に照らされて輝いて見える。
信吾は思わずレナのことを抱きしめていた。
「あたしもね、本当のこと言うと和久井君が好きなの」
レナが信吾にキスをした。
狭いコクピットの中、昇ってくる朝日を受けながら信吾とレナはキスをし続けていた。
「二人とも、頑張って下さい。大変なのはここからなんですからね」
宮寺が操縦する戦闘機は北の「現実」という世界を目指し飛んで行った。
完




