041
島は小さな無人島だった。
「神前少尉、大丈夫ですか?」
宮寺がレナのことを気遣っている。上空には敵揚陸艦の姿は見えなくなっていた。
「平気です。すいません宮寺先輩まで付き合わせちゃって」
平気と答えたレナは、息が荒く苦しそうになっている。
無人島の海岸から少し奥に入った岩陰で三人は休んでいた。
信吾はレナの右手を取ってみた。出血は止ったようだが、かなり腫れているのがわかる。
信吾は、持っていたハンカチでレナの傷口を包んだ。
「ありがとう」
レナの右手を支えていた信吾の手の上にレナの左手が重なる。信吾は思わずその手を掴んでいた。
「レナのこと、俺が護るよ」
「いちゃついているところ申し訳ないんですが、敵が来ました」
宮寺の指さす方向に、数隻の敵強襲揚陸艦が密集編隊で近づいてくるのが見えた。
レナが立ち上がった。
「和久井君はここに隠れていて」
「神前少尉、敵の数が多すぎます。応援を呼びましょう」
「宮寺先輩、いえ宮寺中尉。あなたは地上部隊の指揮官です。ここで和久井君を護っていて下さい。あたしが何とかします」
そう言うとレナは青白く光り出し、夜空へ飛び上がっていった。
「レナ!」
信吾が叫ぶがレナは振り向きもしないでそのまま飛んで言ってしまった。
「ここは危険です。隠れましょう」
宮寺が信吾の手を引っ張る。
「レナが!」
「彼女なら平気です。何か勝算があって出て行ったのでしょう」
信吾は宮寺に連れられ岩場の陰に隠れた。
敵がいる方角の夜空が時々赤く光っている。レナが戦っているんだと信吾は思っていた。俺は、レナを護ると言っておきながら、こうして隠れているしか出来ないのだろうか?これじゃ何も進歩がないじゃないか。
「レディバード!」
(はいマスター)
レディバードが起動した。
「飛行モードで俺をレナのいる戦場へ運べ!」
「和久井君、あなたが行ってもレナさんの足手まといになるだけです。ここで待っていた方が得策です」
宮寺が止めようとするが、信吾は言うことを聞かなかった。
緑色のシールドに包まれながら信吾は夜空へ飛び上がった。
信吾が飛び上がったのと同時にレナのいる戦場の方角が今まで見たことのないような青白い光りに包まれた。
「レナ!」
何が起きたのかは、信吾にはわからない。しかし、海に向かっていくつもの破片が落ちていくのが夜空に見える。敵の小型強襲揚陸艦がばらばらに砕けて落ちていく姿だった。
信吾は急いだ。海に向かって落ちていくたくさんの赤い光りの中に、一つだけ青白く光りながら落ちていくのが見える。それがレナだ。
青い光りは海に落ち、そして輝きをなくした。
「レナ!」
信吾は急いで光が消えたその場所に行った。海上は波もなく穏やかで、あちこちに敵艦の残骸が浮かんでいる。レナは何処に消えたんだ?
「レナ!」
信吾は叫んでいた。大声で叫んでいた。しかし、海は波の音も聞こえず静かそのものだった。
(ピコの救難信号をキャッチしました)
レディバードがそう言うと、信吾の意思に反して違う方向へと進み出した。信吾がレナが墜落したと思っている場所からもう少し北の方角に行くと、そこに青く輝く球体が静かに波間に浮かんでいた。
「レナ!」
球体内にレナが倒れている。信吾が側に行くと同時に力尽きるように球体が消え、レナが海に投げ出された。
信吾は慌ててレナを助ける。身体の数ヶ所から出血をしておりかなりの大怪我をしているようだった。
宮寺が側に飛んできた。
「早くレナを病院に運ばないと!」
信吾は今にも泣き出しそうな声を上げて宮寺に訴えた。
「神前少尉をこっちに、早く運んで!」
宮寺が言う方向へ信吾はレナを運んだ。
さっきまでいた無人島に小型の戦闘機のような物が砂浜に打ち上げられていた。
「共和国軍の小型戦闘機です。強襲揚陸艦に搭載されていたようですね。これに乗って帰りましょう」
「操縦できるのですか?」
信吾の問いかけに宮寺は自信ありげに答えた。
「私も軍人ですよ。シミュレーターなら何回か乗ったことはあります」
ずぶ濡れになっているレナを抱えながら信吾は少しだけ不安になっていた。




