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レナ 第五遊撃隊  作者: まんだ りん
4/43

003

 遅くなった夕食をさっさと済ませ、半ば強引に瞳を隣の自宅に帰らせると、信吾は自分の部屋に戻るために急いで二階に上がった。


 自分の部屋に入るのに物凄く緊張する。あの少女はまだ倒れたままなのだろうか?それとも気が付いて起きているのだろうか?もしかしたらもう何処かに行ってしまい部屋には誰も居ないかもしれない。それはそれで良いのだが、何だか寂しい。


 自分の部屋の前に立ち、一応ノックをしてみる。部屋の中からは何の返事もない。そっと扉を開け暗い部屋に入る。


 明かりを付けるとベットの横に少女が倒れたまま毛布にくるまって眠っていた。信吾は安心して溜息をついた。良かった、まだここに居てくれたんだ。


 信吾が瞳に呼ばれて一階に下りてから一時間以上経っている。少女はその間、暗い部屋の床に倒れたままだったのだ。何だかそのままにしておいて悪い事をしてしまった気がしてきた。


 ベットに移そう。信吾はそう思い、少女の側に行く。でもどうやって移すのか?このまま抱え上げることくらいなら信吾にも簡単に出来そうだが、折角眠っているところを起こしてしまうのは可哀相だ。


 どうするか考えたが、やはりこのままにしておくのは申し訳ない。抱き上げてベットに移すことにしよう。


 そっと少女に近づく。何だか自分がいけないことをしている感じがしてきたが、そんなことは言っていられない。


 その時になって、初めて気が付いた。少女の息が荒く、苦しそうにしている。そっと額に手をやると熱い、かなりの高熱を出しているようだ。


「バカだよ、俺は!」


 リビングに行って体温計を取ってこよう。それからタオルを濡らして額を冷やさなくちゃダメだ。何でもっと早く気が付いてあげられなかったのか、自分がもどかしい。


「ごめんね」


 あたふたとしている信吾のことを少女が見ていた。いつの間に気が付いたのか、ゆっくりと上半身を起こしてくる。


「タオル、濡らしてくるよ」


 少女に対して何と言って接して良いのかわからず、信吾は部屋を出て行こうとした。


「ありがとう、助けてくれたんだね」


 背中で少女の声を聞きながら信吾は静かに部屋のドアを閉めた。


 信吾のことを助けてくれたのは、彼女の方じゃないか。理由はどうであれ、お礼は信吾が言わなければならない。なのに信吾は、無言で部屋を出ると一階に下りて濡れたタオルと体温計を取りに行った。


 何でだろう。自分に腹が立ってきた。彼女にどう接して良いのかわからない。彼女は俺のことを助けてくれた命の恩人じゃないのか?


 体温計と濡れたタオルを持って部屋に戻ると、少女はまだベットの隣りで横になっていた。床に倒れたままだと何だか信吾の方が気が引ける。


「そこに寝ていないで、ベットに寝てくれないか」


「うん」


 よろよろと起き上がり、そのままベットの方に倒れ込んでいく。熱があるだけで、怪我はしていないようだ。少女の着ている何処かの学校の白っぽい制服が所々汚れていたが、彼女に着替えてもらえるような服はここにはない。仕方ないので制服のままベットに入ってもらった。


「熱あるみたいだから、計ってみなよ」


 信吾は少女に体温計を差し出した。


「平気だよ。それよりあなたのストーン、凄いパワーだったね」


 ベットの中から、少女が話しかけてきた。


「ストーンって何?」


 少女の額にタオルを置く。気持ちいいのか少し嬉しそうな顔をしてくれた。


「あたしのストーン、『ピコ』って言う名前なの。初めて起動したときにピコっていう音がしたからそう名付けたんだ。あなたの持っているストーンより少し力が小さいかな。今は修復モードになっているの、さっき無理しすぎちゃったからね」


 かすかに笑いながら、少女は自分の胸元から白い石のヘッドが付いたペンダントを取り出し、信吾に見せてくれた。


 少女の取り出したペンダントを見て、信吾は驚いた。信吾が小さい頃に事故で亡くなった母親の形見で、信吾がお守り代りに毎日身につけている緑色のペンダントそっくりな形をしている。


「あなたはもともとこの星の人なの?」


 意外な質問をされて何て答えればいいのか信吾にはわからない。


「俺は小さい頃からここに住んでいる。君はもしかして魔女?」


 信吾は、彼女が魔女じゃないかと思った。公園内で体験した出来事。彼女が信吾のことを護ろうとして発生させた青白い球体。確か彼女が何か呪文のような物を呟いていたことを信吾は思いだしていた。それに、気が付かないうちに信吾のことを自宅まで運んでくれたのだ。普通なら魔女じゃないかと疑ってもおかしくはない。


「あたしが魔女?それ、いいね」


 面白そうに少女が笑う。やはり笑顔が可愛い子なんだと信吾は思った。


「さっきはありがとう、理由はわからないけど俺のことを助けてくれて」


 信吾と同じくらいか信吾より年下だろう。この少女の笑うと幼さがまだ残る顔を見ていると、彼女のことをもっと知りたいという気持ちになってきた。


「あたしじゃないよ。あなたとあたしを助けてくれたのはあなた自身の力とあなたのストーンだよ」


 少女が信吾の胸元を指さした。信吾はつられて自分の胸に手をやる。どうして俺が同じようなペンダントを持っているのがわかったのだろう。信吾は付けていたペンダントを外して少女に見せた。少女が持っているペンダントと信吾が持っているペンダント、石の色が違うだけで形はそっくりだ。


「まだ正式に起動していないストーンだね。もしかしてあなた、帝国の関係者なの?」


 何をまた言い出したのだろう。さっきはこの星の人とか聞いたりして、もしかして彼女は外国人か、それとも宇宙人?


(敵性人物が近くに来ています。直ぐにこの場を離れた方がいいと判断します)


 男の声が信吾の頭の中に聞こえた。


「ピコ?」


 少女が自分のペンダントを見つめている。信吾の頭の中に聞こえてきた男の声はきっとこのピコと呼ばれている少女のストーンの声なのだろうか。


「誰か来るの?」


「あなたにもピコの念話が聞こえるの?」


「頭の中に直接話しかけられてる感じがするのがそうだろう?」


 うなずいた少女は、暫く考えてから起き上がった。


「あたし、行かなくちゃ」


 ふらふらとベットから危なっかしく立ち上がる。


「行くって、何処に?」


 信吾は止めようとした。少女はふらつきながらも立っているのがやっとの状態だった。


「もうこれ以上あなたに迷惑はかけられないよ。それに関係ないあなたを巻き込むことになっちゃうからね」


 危なっかしく窓際まで歩くと、少女は窓を開けそこから外に出ようとしている。


「待ってよ、それにここ二階だぜ」


「良いストーンだからこの子を大切にしてね。本当はあなたの記憶を削除しないといけないんだけど、あたしのストーンが修復モード中だからそれも出来ないね」


 信吾のペンダントを返してくれて、悲しそうに少女が笑っている。信吾にはこれが少女との最後の別れになるんじゃないかと感じていた。


「待ってくれよ!」


 自分のペンダントを受け取り、信吾は少女のことを止めようとしたが、少女はそのまま青白く光り出すと窓から夜空に飛び出していった。


「ありがとう、さようなら」


 少女が別れの言葉を残し満天の星空の中に消えていく。


「飛んでいった?」


 一瞬少女が空を飛んだことに驚いたが、今日経験したことを思い出すとそれほど驚くようなことではない。それより信吾は少女のことを止めることができなかったことが悲しかった。


 夜空に消えていく少女のことを見送りながら、これで良かったのだろうかと信吾は考えていた。本当にこのままだともう二度と彼女には会えないだろう。


 ピコというストーンが言っていた敵、おそらく初めて公園で会ったときに彼女が受けていたあの攻撃も敵の仕業なのだろう。彼女が何者なのかはわからない。けれど会って数時間の間だったが悪い人だとは思えない。


 彼女は高熱を出して立っているだけでもふらふらしているのに出て行ったんだ。何のために?敵と戦うため?いや違う、関係ない俺を巻き込まない為じゃないのか。


 どうしてだろう?このままじゃいけないという感情が押さえられなくなってきた。彼女にもう一度会いたい。会ってきちんとお礼を言いたい。


 公園で赤い光りの攻撃を受けていたときに見た、彼女の悲しい顔。そんな顔は見たくない。俺がもう一度見たいと思うのは笑うとまだ幼さが残る彼女の笑顔だ。


「もう十分に巻き込まれているよ!」


 信吾は机の上にある自転車の鍵を掴むとそのまま部屋を飛び出していた。



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