034
(アイリス小隊本部へ状況報告はしました。間もなくこちらに応援が来ます)
レディバードが報告をしてきた。けれどまだ間に合うのだろうか?
青い光りがレナの飛び去った方角へ高速で飛んで行くのが見えた。アイリス小隊の誰かがレナのところに向かっているのだろうか?
遠く南の空がかすかに光った。暫くすると小さな爆発音が南の方角から聞こえた。
「レナ!」
その南の方角から青い光りがこちらに向かって飛んでくるのが見えてくる。間もなくその青い光りは信吾の居る空き地に降り立ってきた。
「宮寺先輩?」
宮寺が抱き支えているのは意識を無くしているレナだった。
「遠くに出かけるときは報告をして下さい。ここまでハイスピードで飛んできたので疲れちゃいましたよ」
かすかに笑った宮寺の顔を見て、信吾はレナが無事だと言うことを知った。
「レナは?」
宮寺が空き地にそっとレナを寝かした。信吾はレナが心配になり直ぐその側に行く。
「神前少尉は無事です。取り付いていたリトルボムは私が排除しました」
「排除って?」
殺してしまったのだろうか?
「これも仕事のうちですから」
悲しそうに宮寺が作り笑いをする。
「ここは?」
倒れていたレナが意識を取り戻した。
「レナ!よかった」
信吾はレナの両手を取った。
本当はレナに抱きつきたかった。抱きついてレナが助かったことを喜びたかった。しかし、宮寺がここにいる。彼女の前でレナに抱きつくのは恥ずかしくて出来なかった。
「私、お邪魔みたいなので帰りますね。休日を思いっ切り楽しんで下さいね」
宮寺が駅の方へ歩き出そうとした。
「そうだ、室田軍曹が無事発見されました。あの日、西園寺邸からシベリアの奥地へ空間転移されたようです。怪我もなく、今は八十二師団本部にいます。和久井君のストーンに助けられたんです」
「俺のストーン?」
信吾は胸元にあるレディバードに軽く手をやった。
「私の部下を救ってくれてありがとうございます。私達アイリス小隊は、和久井君の為なら何でもします。これは、室田軍曹の上官だった私の仕事でもありますからね」
宮寺は駅方向へ歩き出していた。
「あたし、助かったんだね」
ぽつりとレナが言った。
「そうだよ、レナ。宮寺先輩が助けてくれたんだよ!」
きっと室田が無事だってことを知って、そのお礼もかねて急行してくれたんだろう。
「行こう。まだ帰るのには早すぎるよ」
信吾はレナともう一度遊園地内へ戻ろうとした。
「そうだね、今のことは忘れて、楽しもう」
レナが立ち上がると、信吾の左腕にしがみついてきた。
再び園内に戻った二人は、まだ見ていないアトラクションを回り始めた。どことなくレナに元気がなくなった気がしたが信吾はそれに気が付かないふりをしてレナと接した。レナ自身も信吾に気を遣ってくれているのがわかる。何となくぎくしゃくした感じがしていたがそれでもふたりとも楽しもうと精一杯遊んだ。
「そろそろパレードの時間だね」
レナがタイムプログラムが書かれているパンフレットを見ながら言う。いろんなアトラクションを回った後で、少し疲れたのでお城の見えるベンチで二人は休んでいたときだった。
「もうそんな時間なんだ」
当たりはもう暗くなってきており、間もなくパレードが始まるとのアナウンスが園内に流れ始めた。
「由美子ちゃんがね、パレードが綺麗に見える場所はここだって言っていたよ」
パンフレットに書かれている園内マップを指さしながらレナがこっちに行こうと信吾の手を取る。信吾はレナに引かれるまま園内を移動し始めた。
パレードを見るために場所取りが始まっている。家族連れやカップルがパレードが始まるのを楽しみにして待っている。
「こっちだね」
レナが案内してくれた場所もカップルや家族連れで混雑していた。
西園寺がレナに教えた場所ならもしかすると西園寺達もここに来るかも知れない。
「もうちょっと先に行ってみようか」
信吾はレナの手を引っ張るようにしてもう少し先へ進んだ。
パレードを見るために混雑している中、ちょうど二人が座れるスペースが空いている場所を見つけた信吾はレナとそこに座ることにした。
「あたしね、こういうパレードとか見るの初めてなんだ。違うパレードには参加したことがあるんだけれどね」
園内の照明が落とされスピーカーからパレードのテーマ音楽が流れ始めた。
「どんなパレードに参加したの?」
「近衛師団の観閲式かな」
「それって軍事パレードじゃないの?」
「うん、そういう言い方もするよね」
レナが少しだけ笑っている。さっきの事件からちょっとだけ元気が出てきたようだ。
園内の暗闇の中にだんだんと光り輝くものが近づいてくる。電飾で飾られたパレードが近づいてきた。
「綺麗ね」
目の前を通過するパレードを見ながらレナが呟いた。信吾にとってはこういうパレードより軍事パレードの方が正直言うと興味がある。けれど今日はレナとの想い出を作るためにここに来たんだ。
パレードを見ながらレナが無意識に信吾の腕を掴んでいた。横にいるレナを見ると楽しそうにパレードを見つめている。
信吾は今日ここに来たことの意味を考えていた。
「だからきちんと告白して神前さんと付き合えよ」
相川が前に行った言葉を思い出した。
今日一日レナと一緒にいてレナに対する俺に気持ちは固まった。俺はレナのことが好きだ。そのことをきちんとレナに伝えたい。皇子とその護衛という関係じゃなくて、同じ高校生同士としてきちんと付き合いたい気持ちになった。でも、告白なんかしなくてもこのままの関係でいれればいいかという気持ちもある。
「どうしたの?」
レナが信吾のことを見ている。いつの間にかパレードは目の前を通過していた。
「いや、なんでもない」
「もうすぐ花火が始まるよ」
レナが先に立ち上がると信吾に右手を出してきた。誰かが撮ったカメラのフラッシュに一瞬だけレナの軽く左手で髪を押さえた顔を浮かび上がらせた。
信吾はレナの手を取り立ち上がった。周りにいた人達も立ち上がり花火を待っている。
信吾はレナの右手を放さないでいた。このまま手を繋いでいないとレナがどこか遠くへ行ってしまう不安に襲われてきた。
周りから歓声が上がってきた。夜空に大きな花火が咲き開いたのだ。
「綺麗!」
レナがその花火に見とれている。信吾はそのレナの横顔を見つめていた。
「レナ」
信吾は繋いでいた左手でレナの右手を強く握った。
「何?」
夜空に一段と大きな花火が広がった。尺玉と呼ばれる大きな花火の後、連続してスターマインが夜空を明るくする。
「俺、レナのことが好きだ!付き合って欲しい」
「えっ?」
信吾の叫ぶような告白にレナが驚いて信吾を見つめている。夜空にはまだスターマインの饗宴が続いている。
「冗談なんかじゃない。本当に好きなんだ!」
信吾はレナの手を放さないように強く握った。レナの顔が花火に輝いて見える。
「ごめんなさい」
小さくうつむきながらレナが返事をした。それは信吾には聞きたくない言葉だった。
「レナ?」
信吾が手を緩めたすきにレナは繋いでいた手を放した。
「気持ちは嬉しいよ。でも、身分が違いすぎるよ」
「なんで?」
「だって和久井君は第五皇子なんだよ。そのことを忘れないで」
またその話か。
「そんなこと関係ないじゃないか!」
「行こう。由美子ちゃんや相川君が待っているよ」
いつの間にか花火が終わってしまい帰るために待ち合わせをした時間になっていた。
レナが無言で先を歩く。その後を信吾は続いていた。
「お土産買いました?まだ時間あるから待っていますよ」
待ち合わせの場所に行くと西園寺と相川が楽しそうに紙袋に入ったお土産を抱えて待っていた。
「いらない。もう帰ろう」
レナが西園寺にそう言うと先に出口へ向かい歩き出していた。
「どうかしたのか?」
「なんでもないよ。帰ろうぜ!」
相川が心配して聞いてきたが、信吾は事実を話すことが出来ずにレナを追い出口へ向かった。




