002
目を覚ました信吾が最初に見たのは、うす暗い自分の部屋の天井だった。遠くでサイレンの音がいくつも聞こえる。
「変な夢を見たな」
起き上がると、自分が制服のままベットに寝ていたことに気が付いた。
どうして制服のまま寝てしまったんだろう。学校の帰りに親友の家によって帰りが遅くなってしまった所までははっきりと憶えている。だけどその後の記憶が信吾には曖昧だった。
信吾は制服から着替えようとベットから出て部屋の明かりを付けた。そしてその瞬間に言葉を失っていた。
信吾の足下、ベットの脇に見知らぬ少女が倒れている。いや、正確には見知らぬ少女じゃなく、夢の中に出てきた少女そのものだった。何で彼女がここにいるのだろう。あれは夢じゃ無かったのか?
倒れている少女の側に行き、信吾はまだ夢の続きを見ているんじゃないのかと思った。けれど、いくら思っても目の前の少女が消えたりはしない。これは現実のことだということを理解するしかなかった。
公園で見た、空から落ちてきた青白い光りの球体、真っ赤な炎に芝生が焼かれ街灯が飴のように曲がっていく風景を信吾は思いだしていた。
彼女がここにいるということは、公園で体験したことも現実だったのだろうか?でもどうして彼女がここにいるのだ?
信吾には公園からの記憶がなかった。ベットの脇に立ったまま、床の上に倒れている少女を信吾は見下ろしていた。
無意識に俺がここまで彼女を運んだのだろうか?いやそれはないだろう。じゃあ、彼女が俺をここまで運んでくれたのか?
「どうしよう?
」
まずこの少女を何とかしなければならない。とりあえず起こそうと少女の側にしゃがんで揺り起こそうとした。
「ただいま!信吾いる?どうして電気付けないの?」
玄関が開く音と共に、信吾を呼ぶ声がする。
「まずい、瞳さんが帰ってきた!」
瞳というのは信吾の従姉で、信吾の家の隣に独りで住んでいる。早くに母親を事故で亡くして兄弟のいない信吾の姉代りでもあり、信吾の父親が海外で仕事をしている関係で、独り暮らしの信吾の食事の支度などの面倒を毎日見てくれている母親代りの存在だった。
「お帰りなさい。今、下に行くよ」
ベットから毛布を引きはがすようにして取ると、倒れている少女にそっと掛けてあげる。そのまま電気を消し、信吾は二階の自分部屋から一階のリビングへ下りていった。