028
目を覚ました信吾が最初に見たもには、薄暗い部屋の中の天井だった。同じようなことを最近何度か経験している信吾だったが、今回は少し違っていた。天井の模様が自分の部屋のものじゃなかった。
「ここは?」
何処だろうと思い身体を起こす。その時自分が後ろに手を縛られ床に寝かされていたことに気が付いた。硬い床の上で寝ていたせいか、体中が痛い。
「気が付いたのか?」
声がした方を見ると、室田真琴が床に座っている。その隣にも誰かが寝かされていた。
「何でお前が!」
ここに居るんだと聞こうとしたが、室田も後ろに手を縛られて床に座っていることに気づいた。室田は確か行方不明になったとレディバードが言っていたはずだ。
「好きでここにいるのではない。私も敵に捕まってしまったんだ」
「敵?」
信吾やレナから見ると室田は敵だ。その室田とも共通の敵と言える組織、考えられるのはレナが言っていた共和国軍だけだ。
「レディバード!」
携帯は鞄の中だ。その鞄は近くにはない。信吾はレナに連絡するもう一つの手段、自分のストーンを起動させようとした。
「無駄だ。どういう訳かストーンの魔力がここでは使えない。私のストーンも全く動かないんだ」
「ここは一体何処で、何で俺がここに閉じこめられなきゃいけないんだ?」
「ここは、こいつの家の地下倉庫で、お前は第五皇子だから捕まったんだろう」
室田が隣に倒れている誰かをあごで指した。そこに倒れているのは西園寺だった。
「西園寺さん?」
「起こすな!昨夜から監禁されていたようで、さっきやっと泣き疲れて眠ったところなんだ」
「そうだ。俺、風間さんに連れてこられたんだ」
風間に連れられてここに来たことまでは憶えている。でもどうして風間が信吾を監禁しなければいけないんだ?
「風間は共和国軍の関係者だったんだ。正式な軍人ではなく、反帝国側のテロリストみたいだな」
「じゃあ、西園寺さんも?」
彼女も帝国とか共和国に関係していたのだろうか?
「彼女は関係ない。何も知らないはずだ」
室田の直ぐ隣で眠っている西園寺。何も知らない彼女がこんな汚い倉庫の床に倒れて眠っているなんて、それだけ考えても腹が立ってきた。
「どうしてこんな事になったんだ?」
風間が共和国軍の関係者だったのは、信吾やレナに近づくためだったのだろうか?それならどうして西園寺まで巻き込むんだ?彼女は関係ないではないか。
「静かにしろ!誰か来る。眠ったふりをしていろ!」
室田に言われ、信吾は床に倒れ込んだ。言われたとおりにまだ目が覚めていないふりをする。
重たそうな扉が開いて、外から眩しいくらいの電灯の明かりが暗い部屋の中に入ってきた。その光りの中からメイド服を着た風間が現れた。
「和久井さんはまだ眠っているのでしょうか?」
そのまま部屋の中に入ってきた風間は床に座っている室田の側に来て室田のことを平手で殴った。
乾いた音が部屋の中に響く。信吾はいくらなんでも抵抗できない女子が殴られているのを黙ってみていることは出来なかった。
「やめろ!」
床から跳ねるように起き上がりそのまま立ち上がった。
「起きていたのですね」
風間は信吾に近づくと、両肩を掴んで思いっ切り突き飛ばしてきた。後ろ手に縛られている信吾はバランスを失い尻餅をつくように倒れてしまった。
「痛っ!」
尾てい骨が割れてしまったんじゃないかと思うくらい痛い。信吾は暫く動けなくなっていた。
飽き 「大尉、この人達どうしましょうか?」
風間が廊下に向かって尋ねる。
「囮に使う」
部屋の中に入ってきたのは見たことのない少女だった。
「わかりました。皆さんを呼びつけましょう」
「こちらの要求を呑まなければ一人ずつ殺して」
少女は黒っぽいドレスのような服を着ている。信吾より年下だろうか?まだ幼さが残る顔つきで信吾達を見ている。どことなくレナに雰囲気が似ていた。
「かしこまりました。殺すのはこいつからでいいでしょうか」
風間は室田の所に来て肩に向かって足蹴りを食らわせた。
「うっ!」
室田が床に倒れ込んだ。
「やめろ!」
信吾は見ていられなくなり、叫んでいた。
「あら、あなたもこの方に苦しめられたんではないですか?」
そう言いながら風間は大尉と呼んだ少女と共に部屋から出て行った。
鍵のかかる音がして、足音が部屋から遠ざかっていく。
「ごめんなさい」
それまで眠っていたと思っていた西園寺が身体を起こした。
「風間さんはあんな人じゃなかったのです。どうしてこんなことになってしまったんでしょう」
最後は鳴き声になって西園寺が床に倒れ込んだ。
「泣くな!私が必ず何とかする!」
室田が立ち上がると西園寺のところに行き彼女の側に座り込んだ。西園寺はすがりつくように室田に寄り添って泣いている。
信吾は自分が情けなかった。今の状況じゃどうすることも出来ない。今まで敵だと思っていた室田に頼ることしかできない自分がもどかしかった。
もし今、レナがここに来てくれたら室田と一緒に信吾や西園寺を助け出してくれるだろう。何とかしてレナに連絡を付ける方法はないだろうか。
室田がごそごそと何かをし始めた。暫くすると西園寺の両肩にそっと手をやり立ち上がる。
「今、解いてやる」
いつ縛られていたロープを解いたのか、自由になった両手で西園寺を縛っているロープも解き始めた。
「いつの間に?」
「私だって、伊達に軍人をやっているのではない。こんなものは簡単にほどけなければアイリス小隊の一員とは言えない」
信吾の側に来てロープを解き始めた。
「ありがとう」
悔しいが信吾は今、頼れるのは室田だけしかいないと感じていた。
「礼は助かってから言って欲しい。まずはここから抜けだそう」
泣き崩れていた西園寺を助け起こして室田は部屋のドアに向かう。信吾はその後に続いた。
ドアには鍵がかかっているはずだった。
「おかしい」
室田がノブを回すと重たそうなドアは簡単に開いた。廊下には誰もいなく壁際に室田がレナと戦ったときに使っていた剣が立てかけてあった。
「そう言うことか!」
室田はその剣を取ると堂々と先に廊下を歩き出した。見つからないようにここから逃げ出さなければならないのにどう言うつもりなんだろう。
「西園寺さん、裏口とかないの?」
泣き疲れて、それでも信吾の後から部屋を出てきた西園寺が室田が歩き出した方角を指さした。
「向こうの階段から裏庭に出られます」
こんなに簡単に逃げ出すことができるのだろうか?
「室田先輩!」
信吾は、西園寺を連れて室田を追った。
廊下の突き当たり、階段を上った所に外へ出られる扉がある。室田はそこで信吾と西園寺を待っていた。
「私が先に出て奴らの気をひく。その間に和久井信吾は神前に連絡を取れ!」
室田が扉から裏庭に出て行こうとする。
「一緒に行った方が良いんじゃないの?」
室田と別れることに少しだけ不安になった信吾は室田を止めようとした。一緒に行動した方が風間達に見つかったとき、何とか出来ると思った。
「これは罠で奴らは私達を囮に使う気だ。本気で監禁するつもりならこんなに簡単に外へは出られない。私の剣が廊下に置いてあったのがその証拠だ!」
室田が外に飛び出していった。
「和久井君?」
室田と離れ、二人きりになり不安になったのか西園寺が腕にしがみついてきた。
(緊急起動完了!ピコへのデータ送信開始。こちらの現在位置情報も送信しました)
レディバードが起動した。ここはもう魔力が使える場所なのだろうか?きっとレナが助けに来てくれる。
「俺達も行こう!」
信吾は西園寺の手を引いて裏庭に出た。




