026
「西園寺さんのこと知らないか?」
ちょっとだけ感傷的になっていた信吾を現実に引き戻すかのように相川が信吾の後ろから腕で首を絞めながら聞いてきた。
「くっ、苦しい!」
やっとの思いで相川の腕から抜け出した信吾はそのまま相川のことを投げ飛ばしてやろうかと思った。人が物思いに耽っているときにじゃまをしやがって。
「今日、手作り弁当楽しみにして来たのに、学校に来ていないんだよ!」
「知らねえよ!」
「病気にでもなったのかな」
信吾は携帯にでもメールして確認しろよと言うと、相川は直ぐにメールを打ち始める。同時にチャイムが鳴り担任の河内が教室に入ってきた。
結局、相川に西園寺からメールが返ってきたのは昼休みちょっと前だった。
「由美子ちゃん本人からじゃなかったの?」
昼休みになり信吾はレナ達と弁当を食べるために机を並べ替えていた。
「そうなんだよ。俺、手作り弁当楽しみにしていたんだけどなぁ」
相川の所に届いた西園寺からのメールは西園寺本人からではなく、西園寺家のメイド、風間直美からのものだった。
「そうか、風邪ひいちゃったんだ」
風間からのメールを見せてもらったレナが残念だったねと相川を慰めている。
「明日は、元気になって学校に来るんじゃないか」
信吾も励ますように相川の背中を思いっ切り叩いた。普通ならここで相川は信吾に反撃してくるのだが、今日は本当に落ち込んでいるのか叩かれても何もしてこない。重傷だなと信吾は思った。
「あたしのお弁当、分けてあげようか?」
レナが元気づけるつもりか、まだ手を付けていない弁当を差し出す。
「そんなことする必要ないよ。購買でパンでも買って来いよ」
自分でも驚くくらいの冷たい声で信吾は相川に言っていた。
「わかった」
おとなしく、相川が教室を出て行く。今から購買に行ってもろくなパンは残っていないだろう。
「和久井君、冷たいよ。可哀相じゃないの」
レナがしょんぼりと教室を出て行く相川のことを目で追っている。信吾は相川を落ち込ませるために言ったんじゃ決してなかった。ただ、レナの弁当を相川に食べられたくなかっただけだ。
「いいよ、放っておけば」
自分でも冷たかったかなと相川が可哀相になったが、これだけは譲れなかった。いくらレナと信吾の弁当が瞳が作った同じ物だとしても、レナの弁当を他の男に食べられるのは嫌だった。
「もしかして怒っているの?」
正面に座っているレナが弁当を食べ始めながら聞いた。
「怒っていないよ」
レナは朝のことをまだ気にしているのだろうか?
「嘘、怒っているでしょう。あたしが和久井君のお弁当作らなかったことを」
「弁当?」
そうだった。今朝はレナが弁当を作ってくれることになっていたはずだ。昨夜、あんなことが起きなければ、今日はレナの手作り弁当を食べることが出来たんだ。そう思うと相川に悪いことをしたと思った。
「ごめんね。明日はちゃんと早く起きて作るからね」
レナは昨夜、室田との戦いでかなりの怪我をしたはずだ。それなのに信吾との約束を果たせなかったことを悪いと思っているんだ。
「明日の弁当、楽しみにしているよ」
「うん」
今日始めて、レナの笑顔を見た気がした。




