023
信吾が目を覚ましたとき、最初に目にしたのは自分の部屋の天井だった。外はもう明るくなっており自分がいつ家に戻ったのか思い出せなかった。
「前にもこんな事があったなぁ」
ベットから飛び起きて一応部屋の床を見てみた。そこにはレナは倒れていなかった。
自分が制服でなく、パジャマに着替えていたことを確認すると、急いで制服に着替えリビングに下りていった。
「おはよう、早いのね」
瞳がキッチンで朝食の準備をしている。いつも信吾が起きる時間より三十分以上も早く起きていた。
「おはよう、レナは?」
昨夜のことが心配だった。レナはどうしているのだろうか?
「まだ寝ているんじゃないか。昨夜遅くまで何かしていたみたいだったわよ」
レナが瞳の家の自室にいるのがわかると、信吾は安心してソファーに座り込んでしまった。
信吾がソファーに座って時計代りに付けているテレビを何となく見ていると隣に瞳がコーヒーの入ったマグカップを持って座ってきた。
「飲むか?」
「ありがとう」
瞳が入れてくれたコーヒーを飲む。牛乳がたっぷり入ったカフェオレに近いコーヒーだった。暖かくて一口飲むごとに目が覚めていく。
「レナちゃん、学校で友達ちゃんと出来てる?」
信吾の横に瞳が座ってきてブラックコーヒーを一口飲んだ。
「いるよ。昨日も学校の帰りにその友達の家にみんなで寄ったんだ」
その後、大変なことが起きたけれど、この話は瞳にすることは出来ない。
「レナちゃん、かわいそうな子だから何かと力になってあげるんだぞ」
かわいそうな子?信吾は横にいる瞳のことを見た。
信吾の視線に気が付いた瞳は、ロンドンから日本に来たレナのことに付いて話を聞かせてくれた。
レナは両親と一緒にイギリスのロンドン校外で暮らしていた。レナがロンドンの日本人学校中等部を卒業したら両親の方針で高校は日本の学校に行くことになっていたそうだ。
昨年の秋にレナは日本に来て、全寮制のミッション系高校を受験、見事合格をした。今年の四月からは寮に入り楽しい高校生活を送るはずだった。
入学の手続きも終わり、一度ロンドンに戻ったレナに悲劇が訪れた。日本で暮らす準備をするためにロンドン市内のデパートで両親と買い物をしていたレナ達は爆弾テロに巻き込まれてしまったのだ。
レナをかばうようにしてレナの目の前で両親は亡くなった。他に身寄りのないレナは全寮制の高校に行くことも出来なくなり、一人日本へ帰ってくることになったそうだ。
「信吾のお父さんが、レナちゃんの身元引き受け人になってくれたんだよ。彼女、他に頼る人が誰もいないからあんたが護ってあげないといけないんだよ」
そんなことはわかっている。レナに家族と呼べる人がいないことは十分承知している。昨夜も足手まといになったかも知れないがレナのことは護ったつもりだった。
「この事は、みんなに黙っているようにレナちゃんから言われているんだ。だから信吾もこの話を聞かなかったことにしておいてね」
瞳は立ち上がるとキッチンへ戻っていった。
信吾は、瞳が言った話がレナの本当のことだったらどんなにいいかと思っていた。テロで亡くなったとしても両親はちゃんといたんだ。その方がレナが独りぼっちになったとしても救われると思った。レナも自分の生い立ちが嫌でそんな話を瞳にしたのに違いない。レナには家族が必要なんだ。
「瞳さん!」
信吾はキッチンに向かって大声で叫んだ。
「どうした?脅かすなよ!」
フライパン片手に瞳がリビングに顔を出す。
「レナは、うちの家族なんだよね」
「なに当たり前のこと言っているんだ?信吾もレナちゃんも私の大切な家族だよ」
信吾はレナに対す一つの接し方を新しく見つけた。今まで信吾から見てレナはどういう立場の人なのかよくわからなかった。レナは信吾を護るためにここに来たという。それは軍務とか使命とか信吾には今一つ理解出来ない世界の話だった。実際に敵から攻撃された信吾のことを必死になって護ってくれたレナにどう接していいのかわからなかったのだ。その答えを瞳が教えてくれた。
「そうだよ。家族なんだよ」
レナは帝国軍の兵士かも知れない。ダークホワイトと呼ばれ軍隊内で差別されているのかもしれない。でもそんなことはどうでもよかった。レナを一人の少女として、自分たちの家族として、これからはそう接しよう。
「起こしてきなよ。早くしないと遅刻するって」
「わかった」
「信吾!」
「何?」
「嫌らしいことするんじゃないぞ!」
するわけ無いだろうと思いながら信吾は隣の瞳の家に向かった。




