021
「レナ、料理とか出来るの?」
西園寺の家から帰り道、辺りはもう暗くなってきている中央公園で信吾の先を歩いているレナに何となく聞いてみた。
レナが瞳の家に住むようになってまだそんなに日がたっていないが、レナが食事の準備をしているところは見たことがなかった。お茶やインスタントコーヒーを入れたりするのは何度か見ているが料理は出来るのだろうか?
「自炊していたこともあるからね」
それなら期待してもいいかなと信吾は思った。明日はレナの手作り弁当だ、何だか明日が楽しみになってきた。
「それにあたしは『ホワイト』だからね。本でも見れば簡単に何でも憶えることできちゃうんだよ」
振り返り信吾のことを見て笑っている。その笑顔がどことなく不自然で、悲しそうに信吾には見えた。
今日一日、信吾はレナの本当の姿のことを忘れていた。レナがここに来た目的、それは信吾を護らなければいけないという使命。ただそれだけのためにレナはここにいるのだ。もしかしたら弁当を作るのも命令として受けているのだろうか?
「楽しみにしているよ」
めいいっぱいの笑顔を作ったつもりだった。自分は皇子でレナは自分を護る護衛兵としてここにいる。そんな関係で信吾はレナとは接したくなかった。
だいいち、皇子ってなんなんだ?銀河帝国皇帝の息子?俺の父親は外国に単身赴任している普通の会社員だ。皇帝なんかじゃない。
信吾は普通の高校生として、レナとは友人、もしかしたらそれ以上の関係で接したいと思っていた。でも、そのためにはどうすればいいのか、レナとどう接すればいいのか信吾にはわからなかった。
レナの笑顔が急に真顔になり、空を見上げる。
(緊急起動!防御シールド展開!)
忘れていたレディバードが動き出す。信吾の周りが緑色に輝きだした。
(敵性人物、真上からきます)
ピコの声が聞こえる。レナが青白く光り出した。
「和久井君はここで待っていて!」
レナはそのまま空に飛び上がっていく。信吾がレナを目で追っていくとその遥か上空から青い光る球体が急接近してくる。
「室田だ!」
彼女に間違いはないだろう。今、レナを襲おうと考えているのは室田だけだ。ダーリングハーストの事件がレナの仕業と知ってから、ずっとレナのことを狙っていたのだから彼女に間違いないだろう。
夜空に巨大な青い魔法陣が広がっていく。今まで見たことのないほどの大きさだ。
「レナ!」
魔法陣から巨大な青い光線の束が矢のようにレナに向かって飛んでいく。巨大な魔法陣に比べ青白い小さな魔法陣が光線との間に出来て激しくぶつかった。
信吾は、いてもたってもいられなくなってきた。このままじゃレナが危ない。何とかしなければダメだ。
「レディバード!武器を出してくれ!」
信吾の目の前に緑色に輝く短剣が出現してきた。信吾はその剣を取り青く光る球体めがけて振り上げた。
「大地を司る精霊達よ。我が名において命令する。レナを襲っているあの敵を撃ち落とせ!」
信吾の握っている短剣から緑に輝く光がレーザー光線のように室田めがけて飛んでいく。しかし、その緑の光りは室田を取り巻く青い球体に弾かれ虚しく散っていく。
「畜生!」
少し身体がふらつく。この武器を使うと信吾の身体にある何らかのエネルギーを消費してしまうのだろうか?それでもいい、レナのことを援護しなければいけない。今の自分にはそれしかできないのだから。
さっきよりさらに巨大な魔法陣が夜空に浮かび上がった。それは空一面を覆い尽くすかのごとく広がっていく。夜空が今まで見たことのないほどの青い光りに包まれていく。あれだけの力を室田は持っているのだろうか?信吾は無性にレナのことが心配になってきた。
信吾が短剣を再び振り上げた。
(今は攻撃より防御です!)
レディバードが言うと同時に夜空が真昼のように輝いた。
(防御シールドフルパワー!)
信吾は真っ青に輝く空を見上げた。空から眩しすぎるくらいの光りの束が落ちてきた。その光りの束の先端に青白く光る球体がありその中にレナがいる。このままじゃレナがやられてしまう。
「レナ!」
緑に輝く信吾の周りに青い光りが激しく落ちてきた。信吾の周りが青色一色になり、何がどうなっているのか真言にもわからなかった。
青い光りが消え、もとの暗くなった公園に戻ると離れた所にレナが立っている。
良かった無事だったんだとレナの側に駆け寄ろうとした信吾は、その向こう側に室田を見つけ駆け寄るのを止めた。
室田は。逆手に持った剣を杖のように地面に突き立て片膝を付いて立っていた。
「強いな。魔力リミッターを解除したのか?」
室田が立ち上がると剣を構えてレナと対峙する。
「あたしの目的は和久井君を護ること。あなたと戦うことじゃない!」
レナが右手のひらを室田に向けている。室田の剣に対して魔力で立ち向かおうとしているようだ。
「私は、お前が憎いんだ!両親と弟を殺して私の家族をめちゃくちゃにしたダークホワイトを許すことはできないんだ!」
室田は飛び上がると剣を両手で思いっ切りレナに向けて振り下ろした。レナは魔法陣を作りそれを盾代りにして防ぐ。
「どうしてもあたしと戦うのならばあたしも手加減はしない!」
室田の剣を振り払ってレナが後ろに飛び避けた。
「人間じゃなく、言葉をしゃべる道具にすぎないお前に私の気持ちがわかるか!」
剣を再び構え直した室田が大きく剣を振り上げた。室田の持つ剣が青く光りだした。
「あたしだって人間だよ!笑ったりすれば泣いたりもするんだから!」
レナが叫ぶと青白い魔法陣が大きく広がりだした。離れたところで見ていた信吾はレナが本気を出したんだと感じていた。
「ただの道具のお前には、大切な家族を失った者の苦しみがわかるはずがない!」
「家族?」
一瞬、レナが怯んだように信吾には見えた。
「お前が人間だと言うのなら、私と同じ苦しみをあじわえ!」
室田が剣を振り放り投げた。しかしそれはレナにではなく信吾に向かってだった。
(防御シールドじゃ防ぎきれません!逃げて下さい!)
逃げろって言われても何処に逃げるんだ!
青い光りと一体化した室田の鋭い剣が信吾めがけて飛んでくる。防御シールドだけじゃ防げないのならどうなる?
信吾の前に青白く光る何かが飛び込んできた。その光りと室田の剣が激しくぶつかり信吾の防御シールドに弾かれ地面に叩きつけられた。
信吾は目の前に飛び込んできたものが最初は何だかわからなかった。自分が助かったと思った瞬間に目の前に倒れているものが何だかわかった。
「レナ!」
右腕から大量の血を流して地面に倒れているのはレナだった。信吾はレナの所に駆け寄った。
「レナ、大丈夫か?しっかりしろ!」
信吾は倒れているレナを抱き起こした。
「自分から飛び込んでくるなんて馬鹿な奴だ」
はじき飛ばされた剣を拾い、室田が構え直す。
「どけ!和久井信吾!そいつの息の根を止めてやる!」
(防御シールドフルパワー!)
レディバードが再びシールドを展開するが緑色の光りは最初に比べるとかなり力が劣ってきている。
「どくものか!レナは俺が護るんだ!」
「何を言っている和久井信吾。それはただの道具だ。しゃべる道具をしゃべれなくするだけだぞ、いいからそこを早くどけ!」
「逃げて和久井君。レディバード、和久井君を空間転移させて」
弱々しくレナは言うと、信吾の腕の中で意識を失った。
「レナを置いて逃げたりしない!俺はレナを護る!」
レナを強く抱きしめた信吾は、室田のことを睨み付けた。
「ごちゃごちゃ言っているなら二人ともぶった切ってやる!」
鬼のような形相の室田が剣を振り上げた。レディバードとピコがダブルでシールドを作ってくれるがそのシールドもパワー不足なのが信吾にもわかった。これでは室田の剣にかなわない。殺されるという恐怖が信吾を襲った。
信吾はレナを思いっ切り抱きしめていた。信吾の制服にもレナの血が染みついていくのがわかる。それでも信吾はレナを護ろうと必死でレナをかばい抱きしめた。
一対一なら間違いなくレナの方が有利だったはずだ。戦い方を知らない信吾を助けるためにレナは自分の身を挺して護ってくれたのだ。そんなレナのことを見捨てて逃げることなんか出来ない。
室田が青く光る剣を激しく振り下ろした。信吾が死を覚悟し、レナを護るためにレナに覆い被さった。俺がレナを護る。最悪レナだけでも助けたいと本気でそう思っていた。




