016
上昇するレナの青白い光りと急降下してきた青い光りが上空で激しくぶつかる。二つの光りはそのまま上下に弾かれたように別れてはまたぶつかり合う。そんなことを何度も繰り返している。
レナが戦っている。地上でそれを見上げているだけしか出来ない信吾は、自分がもどかしくなってきた。レナは信吾を護るためにここに来たという。そのレナの笑顔を信吾は見たくて彼女を護り彼女を助けたいと思った。けれど今の自分には何もすることは出来ない。ただ、レナが戦っているところを離れた場所で見守ることしかできないのだろうか。
「レディバード!今からお前の名前はレディバードだ!」
信吾は自分のストーンに話しかけていた。レナが所属していた旧部隊名が信吾の持っているストーンの名前にピッタリだと思った。
(はい!マスター)
「何か武器はないのか?レナを助ける武器は?」
球体内部に緑に輝く剣が現れた。およそ戦いに向きそうもない短い短剣だった。
(制御はこちらでします。マスターは剣を敵に向かって振るだけでいいです)
信吾は目の前に浮かんでいる短剣を手に取った。これを振るだけでいいのか?
「どうやって使うんだ?」
(呪文を唱えてください。こころに思い浮かべるだけでもいいです)
「俺は呪文なんて知らないぜ」
(何でもいいのです。想いを言葉にしてそれが伝われば呪文になるのです)
信吾は短剣を見てから上空を見た。空では青白いレナの光りと青い敵の光りがぶつかり合い交じりあっている。あの青い光りさえ撃ち落とすことが出来ればレナを助けることが出来るはずだ。
「大地を司る精霊達よ。我が名において命令する。レナにまとわりつくあの敵を撃ち落とせ!」
自分でも信じられないほどすんなりと呪文らしい言葉を唱えた信吾は、激しく短剣を青い球体に向け振り上げた。稲妻のような緑色の光りが信吾の持っている短剣の先から出て上空の青い球体を直撃する。そのまま青い球体は地面に落下して行く。
「やった!」
ちょっとだけめまいがしたが、信吾の放った稲妻が見事にレナを襲っている球体に命中してくれたのだ。
信吾は球体が墜落した方角へ向かって走った。同じ公園内の外れの方だ。上空からレナが先にその場所目指して飛んでいくのが見える。
信吾が公園の外れにある噴水広場に来ると、言い争っている声が聞こえてきた。レナがそこで敵と戦っているのだろう。
「あたしのパパは、移民船団の通信士だったんだ!最後の通信はお前達に伝えたあの子供が生まれたっていう通信だったんだ!お前は人間じゃないからその言葉に耳を傾けないで攻撃したんだろう!」
噴水の反対側にレナが立っていた。レナの目の前に信吾に背を向けた一人の女子が立っている。後ろ姿で誰だかわからないが、信吾は持っている短剣をその女子に向けようとした。
レナが両手を前にして魔法陣を作り盾代りにしている。その魔法陣に向かっていくつもの青い矢のような光線を女子が放っている。このままじゃレナが危ない。信吾はさっきと同じように短剣を降って稲妻で女子に攻撃を仕掛けようとした。
レナは俺が護る!
「我が名において命令する。あの敵を倒せ!」
信吾が短剣を女子に向かって振り下ろした。同時にレナが飛び上がると信吾に向かい青白い光線を矢のように放ってきた。
(防御シールド全開!)
レディバードが信吾の周りのシールドを作るが、そのシールドを突き抜けレナの放った光線が信吾の持っていた短剣に命中して短剣を消滅させた。
飛び上がったレナに向かって女子が青い光線を放つ。レナはシールドを作る間もなくその光線を浴び地面に落下した。
「どうしてだ!レナ!」
レナを助けようとしたのに何でレナは俺のことを狙ってきたんだ?
「和久井信吾、じゃまはするな!」
女子が振り返った。一昨日、雑木林でレナを襲い、今日、生徒会室を破壊した室田真琴がそこにいた。
「和久井君にはあたしと同じ間違いはして欲しくない!だから手を出さないで!」
倒れているレナが何とかして起き上がろうとしている。室田の攻撃を受け怪我でもしているのだろうか?制服のあちこちが破れ、黒く焦げているところもある。
同じ間違いってどういうことだ?それより早く何とかしないとレナが危ない。
「レディバード、もう一度武器を出してくれ!」
(その命令には従えません!)
「どうしてだ?」
レディバードから返事はない。
室田が巨大な魔法陣を頭上に作り始めた。怪我をして反撃できないレナにとどめを刺すつもりだ。
「やめろ!レナを殺すつもりか!」
信吾は叫びながらレナの所へ走った。レナの前に行き、両手を広げ立ちはだかった。
「殺す?それは人間じゃないんですよ。ダークホワイトっていう人工的に作られた生きた道具ですよ」
室田は、魔法陣を作りながら信吾にそう言った。人工的に作られた道具ってどういう意味だ?レナが人間じゃないってどういうことなんだ?
室田が大きく両手を振りかぶってレナの方へ振り落とそうとする。
(マスター、ピコにエネルギーチャージを。早く!)
黙っていたレディバードが信吾に慌ただしく伝える。
「どうやるんだ?」
(右手をピコに向けてください!)
言われるままにレナのいる方角へ右手を差し出した。緑の光りがレナに伸びていく。
(同時に空間転移します!)
「えっ?」
遠くで爆発音がした。その方角を見ると夜空に大きな煙が上っていく。駅前広場にいる人達も何事かとその煙を見ていた。
いつの間にか駅前に来ていた。レディバードが言った空間転移のせいだろう。レナはどうなってしまったのか。信吾は急に心配になってきた。
信吾は中央公園に向かって走り出していた。走りながら、レナが人間じゃないってどういう意味だったのか考えていた。信吾の頭の中には笑顔のレナが浮かんできた。笑顔が可愛いと思うレナが人間じゃないってどういうことだ?室田が信吾を混乱させるためにそう言ったのか?
「レディバード、もう一度空間転移で俺を公園へ運んでくれ!」
レディバードの返事はなく、信吾は仕方なく公園へ向かって全力で走っていた。
(近衛師団本部よりリミッター解除許可信号を受信。ピコに適用させます)
レディバードが何か言った気がしたが信吾はそれどころじゃなかった。