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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
王様の娘が俺の彼女になるそうです
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先行きの悪い開学日

お気に入り登録が増えれば更新も、増える、かな?

「ふざけないでください」

「いやいや! オレッチは大真面目っすよ!!」


 俺が登校して早々に校門の前で言い争いをしている両者はお互いスマホを片手ににらみ合っている。

 かくいう俺は面白そうに眺めている楓の横で、この学校に転入させられた事にすでに絶望を感じ始めていた。

 そもそもの話、なぜこのような状況ができたかを話そう。

 そう、それはつい三十分前のことだった。






 朝起きれば俺を抱き枕にしている楓がいた。どうりで寝苦しいわけだと思いながら、俺は頭を掻いて抱きついてきている楓を丁寧に退けて起き上がる。

 そばに置いておいたスマホを手に取り、時間を確認する。現在時刻、午前八時。ちなみに高校までは走っても二十分はかかる。遅刻とは言わないが、飯を悠長に食べている時間はなさそうだ。

 なぜ起こさなかったと母さんを恨みながら、なぜか届いているメールを確認する。宛名は母さんだった。


『可愛い寝顔で寝てたから起こせなかったわ~。ちなみにこんな顔(笑)』


 添付されていた写メには俺と楓の顔がものすごく近い状態の寝顔だった。

 ぶほふっと吹き出し、スマホを床に叩きつけた。荒い息を整えつつ、俺は何もなかったと自分に言い聞かせ、黙って着替え始める。


「う~ん……」


 上着を脱ぎだした時、楓がタイミング悪く起きてしまった。

 瞬間、俺と楓の視線がぶつかり、楓の視線はだんだんと下がっていき、すでにズボンを下ろすために伸びている俺の手に向けられる。


「……朝からは、無理だよぅ」

「お前の中で俺はどう言う奴なのか、今十分にわかったよ!」


 いやね? 俺はそういうのは苦手なんだ。わかるだろ? わかってくれ。

 ふざけているのはわかっているが、頬を紅潮させながらもじもじとしている姿は男の俺からしたら凶器以外の何者でもない。俺は直ぐに楓を部屋から叩き出し、仕度をさっさと終わらせた。

 楓の仕度は俺の仕度が終わったら入れ替わりで俺の部屋で済ませさせた。流石にこの季節、寒い廊下で着替えさせるほど俺も人でなしじゃない。常識くらいは化け物でも持ち合わせている。

 そんなこんなで、お腹が減ったと文句を言う楓に時間に遅れると言い聞かせて家を出て、俺たちは急ぎはせずに、かと言ってゆっくりともせずに高校に向かった。

 ちなみに、制服は以前の高校のものだ。なんでも今日、高校でもらえるということだから、心配はないが、制服が違う二人が一緒に歩いているというのはなんとも違和感だ。

 対して楓はそんなことは思っていないのか、もしくは俺と一緒に歩いているのが楽しいのか、ニコニコと上機嫌で歩いている。

 ふぅん、と白い息を吐いて、俺は鞄を背負い直した。

 さて、考え事をしていたら高校までもう少しだ。どんな奴らが居るのか、今日はっきりするな。できれば、常識がある奴らであってほしいけど。

 俺は既に、常識のないやつを知っているため心配は加速する。そういえば、あいつはもう高校の方に来ているのだろうか。まあ、来ていたとしても堂々としているのだろうけど。

 ある種の期待を持って、近づいてきた校門を眺めていると、その期待を壊すかのように人集が出来ていた。


「……何かあったのか?」

「ううん。今からみたい。なんか、楽しみだね!」


 俺は憂鬱だよ。

 人集を遠目で見ながら、俺は小さいため息をつく。人集の中心点、つまりは話題の人物たちが何かをし始めたのか、人集の輪は広いエリアを作り出していく。


「ふざけないでください」

「いやいや! オレッチは大真面目っすよ!!」


 そして今に至る。

 もうね! なんでしょうね! うんざりですよ!

 話題の中心になっているのはメガネをかけた女子と、ヘッドホンを首から吊した少年だった。どうやら少年の方からちょっかいを出したようだけど、女子の方も気が強そうだ。喧嘩は必然というべきか、むしろどうして気が強そうな女子に声を掛けたのかが気になるが、そんなことよりこの高校の生徒なら止めなければならないだろう。

 その理由は至極簡単。この高校に集められたのは世界でも有数の問題児、しかし個々の能力はピカイチという不思議なモノたちを集め、主人公として育て上げるという名目の高校の生徒だからだ。それはつまり、普通とは異なる異常な力を持っていて、しかもそれをちゃんと扱うことができない問題児ということだ。そんな奴を自由に戦わせたらどうなるか、サルでもわかる。

 ちなみに、高校のことは昨日の夜、食卓で楓が笑顔でそんな怖いことを言っていた。そして、俺がそんな問題児の高校に転入してしまったのかと項垂れたのは記憶に新しい。

 俺が早々に喧嘩じみたことはやめさせようと一歩足を踏み出すと、ヘッドホンを吊した少年がタッタッタッとスマホを操作して自分の目の前に一丁の拳銃を作りだした。


「へっ? け、拳銃?」


 俺がそんな素っ頓狂な声を上げた瞬間、


「さっ、行くっすよー!」


 パァァァァンッッッッと耳に障る音が鳴った。少年が何の躊躇もなく拳銃を撃ち放ったのだ。

 メガネ女子は大丈夫かと見ると、なんとも驚きだ、拳銃から撃ち放たれた弾は女子を射抜くはずだったのに、女子の目スレスレで完全に止まっていたのだ。

 あれは……魔法、なのか?

 見たこともない魔法に俺は驚きを隠せない。だというのに、少年はそれすら知っていたかのように新しく今度はショットガンをスマホを操作して作り出した。


「一発じゃ止められたっすか。……じゃあ、今度はこれでどうっすか?」


 カチャッとポップ音がして、トリガーを引く少年、するとショットガンの銃口から散弾が放たれ、その数実に百を越えるものが一斉に女子に向かっていく。

 さっきの攻撃が一撃だった。だから止められのだと思っていた俺は、今度こそ死んでしまうと無意識に思い込み、中に居る化け物の封印を解こうとすると、楓に手で制された。


「お、おい! 何して――」

「大丈夫だよ。ほら、見てごらん?」


 何を言って――は?

 驚きに不思議はない。百を越える銃弾が目の前で止められていれば、誰もが驚きを隠せるわけがない。むしろ、あの女子がどうやってそれをしたのかを見逃したことが悔やまれるというものだ。

 スマホを片手にしているメガネ女子は、チャッとメガネのズレを直すと、


「『完全量子化(パーフェクト・オブジェクト)』あなたが見たかったのはこれですか?」

「そうっすよ! いやー、すごいっすね! ちなみに、その魔法の基盤を教えてもらえたりは――」

「教えてもいいですが、あなたに理解できるとは思えませんよ? それよりも、あなたのその魔法の方が私には使えると思うのですが」

「いやいやー、痛いところを突かれたっすねー」


 何とも挑戦的な言い方に、俺は開いた口が閉じない。

 どうやら、この二人はお互いの魔法の強度、汎用性などを知った上で戦闘をしていたらしい。もしかしたら、何も知らないでやった可能性もあるが、結局何事もなかったのでよしとしようじゃないか。

 と、そんな騒ぎをしていたせいで、東の王の騎士である女の人、――確か御門真理亜という人物だった――と、凛とした表情の男子がこちらに近づいてきた。


「この騒ぎはなんですか?」

「あー、ちょっとナンパしたら断られたっていうかー、なんていうかっすねー」

「この人が私の胸を触ってニヤニヤしていたので戦闘になりました」

「えっ!?」

「そうですか、じゃあ君。一緒に進路室に行きましょうね」

「い、いや待ってくださいっす! オレッチは何もしてないっすよー!!!!」


 大騒ぎをしながらヘッドホンの少年は連れ去られていった。

 なんと、殺生な。と思いつつ、仕方ないなという思いが入り混じって考えることを諦めた俺とその他大勢に向かって、凛とした表情の少年が一言語る。


「ここは学びの場だ。こう言った喧嘩事はなくしたいと思う。よって、生徒会長である僕、高野翔天がここに規則を作り上げる。――――規則(ルール)。原則として校内での戦闘行為を禁ずる。ただし、非常時のみ僕の許可があれば良しとする。以上」


 何か、嫌なものが体の中を這い回った気がするが、体に違和感はないので問題ないだろうと切り捨て、俺は解散する生徒の列に習って教室に向かった。

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