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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
西の王様が訪問してくるそうです
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世界最強の完璧すぎる執事

 大好きな彼を先に送って、私はここで足止めをすることにした。彼には彼しかできないことがある。ならば、私にも私にしかできないことがあるはずだ。そう、例えばこの執事さんを足止めすることがそれだ。

 この世界の存在理由まではわからない。でも、この世界が人に促していることだけは若干感じている。この世界は生き物にそうであれと強制する時が多々ある。それは人が言うところの自分の前に立ちはだかる壁というものだ。

 私は一気に魔力を開放して、呪術を使ったことで体がびっくりしてしまっているのを覚えながら、笑顔で目の前の執事さんに笑いかける。

 執事さんに掛けた呪いはとっくに解いている。よって、執事さんの感覚は完全に元に戻っているということだ。それは、私が執事さんの枷を外したことに等しい。

 そして、執事さんはそのことが驚きのようだ。


「なぜ、呪術を解いたのですか?」

「私は対等に戦いたんだよ。ほら、手を抜かれていたとか、そういうの嫌いなんだよね。執事さんには本気で戦って欲しいし、その上で私は勝利したい」

「わからないですね。あなたの考えはわからない。戦場に置いて、自身の戦況を優位に立たせることで勝ちを得るというのに。あなたは優位を捨てるということですか?」

「優位なんて必要ないよ。私にとって戦いは、楽しいか、つまらないかのどちらかだけ。戦場に求めるのは生きがい。私が生きているのだと感じられる高揚感だけだよ」

「腐っている。あなたの考えは北の王のそれと同じだ。それでは、誰もあなたを王とは認めないでしょう?」

「わかってないなー。私の考えは北の王とは違うよ。あの人は自分だけの感情を求めた。でも、私はみんなで楽しみたいと思うんだよ。みんなで笑っていたいって、そう思うんだよ」


 戦いは、いつだって悲惨な運命を見せてきた。だから、戦争や戦いは好まれない。でも、それが悲惨な運命を迎えないものだったら? みんなが仲良く競うように戦い合えるものだったら? きっと、みんなが幸せになれる。楽しい戦闘以外に、この世を潤わせるものはない。

 ……と思っていた時期があった。今もそう思っている。だが、それ以外にもこの世界を潤わせてくれるものがあると気がついた。それは、特別な感情。彼と一緒にいたいという一途な思い。所謂、恋というものだ。

 恋と戦いは紙一重。少なくとも私にとってはそのどちらも譲ることができない。

 少しの間、彼のことを考えて、思わず微笑みが溢れてしまう。ここまで幸福になったのはいつ以来だろうか。いや、もしかしたら生まれて初めてかも知れない。どんな戦いよりも彼といる時間のほうが高揚する。これは興奮というべきか。いや、高揚なのだろう。現に、私は彼を思い浮かべるだけでどんなに強敵でも蹴散らせることができると思えてしまう。

 だから、きっと目の前の執事さんにも勝てる。彼が強いと言った執事さんを蹴散らせることが。


「さあ、私たちの戦いを始めようか」

「理解できません。本当にあなたが私に勝てるとお思いなのですか? この、西の王の側近にして『世界最強の完璧すぎる執事』の異名をもつ異能者に」


 雄弁と、自身の異名を語る執事さん。何となく予想は出来ていた。魔術ではあそこまでの身体強化は世界でも数名しか扱えない。空間をあの速さで歩き回ることは魔術師では行うことが困難なのだ。ならば、他にどのような可能性があるか。可能性と呼べるのは一つだけ。南の王が所有し、管理する『縛神島(ばくしんじま)』の異能者だけだ。

 そして、異能者には特別に二つ名とも呼べる異名が存在する。彼の少年、黒崎颯斗がそうであるように異能者には『世界最強の某』と言う異名が存在する。それはその人個人の性格を表しており、同時にその人個人の強さを示している。

 完璧すぎる。ということは、この執事さんは負け知らずということになるのだろうか。いや、その逆も存在するが口ぶりからすれば負けたことはほとんどないはず。

 これは、かなりシビアな状況になってきたかもしれない。

 えへへっ。本気、出さなきゃ勝てないかもしれないなー。でも、すっごく楽しみだなー!

 こんな状況に陥っても、私は笑っていた。追い詰められれば追い詰められるほど、私の情熱は燃え上がる。灰になる前に、私は消化しなくちゃいけない。この情熱をかき消すために、私は目の前の執事さんを倒す!

 私が腕を薙ぎると裾から大量の呪符が無造作に巻き散らかされる。呪符一枚一枚に魔力は乗っていない。だが、それを感知できていない執事さんはわざわざ呪符を丁寧の避けていく。それを見て、私はこの人に魔術のことは何も分かっていないと考えた。

 よって、私はこのまま魔術のように呪符を撒き散らかして、相手を優位にたたせないようにしようとしたのだが、


「……え?」


 気が付けば、自分で巻いた呪符が足に絡んでくる。まるで、他者の魔術を受けているように。いや、これは魔術だ。れっきとした魔術。しかも、中級か、それ以上の魔術だ。

 この場にいるのは私と執事さんだけ。遠隔操作の魔術だったとしてもここは完全に閉鎖状態なので外からの遠隔は難しい。つまり、この場において魔術を使っている可能性は目の前の執事さんだけというわけだ。


「異能者が、魔術を使えないと思わないでください」


 執事さんが開いた拳をギュッと握ると、呪符が私の足をへし折る。挙句引きちぎろうとしてくるのを私は止めるために呪符を魔術によって無理やり燃やす。

 多少足を火傷したが、引きちぎられるよりは原型が戻るだけマシだ。しかし、痛みは常に私の頭を駆け回ることとなってしまった。

 失敗した。完全に読み違いだ。相手のことをちゃんと調べられなかった私のミスだ。異能者が魔術を使えないなんて一体誰が言った? 実例がなかっただけで有り得る話だった。そこを、私は自分の価値観だけで相手を測ってしまった。

 痛むを足を押さえながら、私はヘラヘラと嘲るように笑う。全く、大誤算だ。これでは、本気を出さねばならない。


「諦めたか? では、痛みを感じないよう、一瞬で殺してあげます」

「勝手に……終わらせないでよ。私はまだ、諦めていないよ。――――A heretic given birth to in the battlefield. In the brave man whom a defeat is never permitted. In hatred of evil, I am intoxicated by good and will notice when I lose all. Okay, oneself is once-in-a-lifetime evil. Cry, and it is absolute Hell having neither the life nor the death that there is over there.

(戦場に生まれし異端児よ。ただの一度も負けを許されぬ勇者であれ。悪を憎み、善に酔い、全てを失う頃に気がつくだろう。そう、自身こそがまたとない悪である。泣き叫べ、その先にあるのは生も死もない絶対の地獄だ。)」


 英語で語られるそれは、魔術というよりは決意。昔、遠い昔、前世とも呼べる時に約束させられた消えることのない呪い。私を作り出した誰かさんの叶えることのできなかった悲しみの願い。

 儚く、幻想のように美しいその光景は、まるで現実味のない本当の夢。私は、その夢を叶えるために生まれた。いや、その夢を形作った際に思い描かれた子供だ。だから、この願いを叶える必要性はない。しかし、消えない呪いは、叶えなければならないという強制力をもつ。

 私はその強制力を魔術的応用で完全に力に変えた。

 私は勇者。世界を壊すためにここに生まれた悪の勇者。絶対悪と称されたアジ・ダハーカを凌ぐ、はるかにえげつない存在だ。

 認めよう。私はこの世界を愛して、この世界を破壊すると。負けを認めず、絶対に勝利する存在であると。そして誓おう。破壊した世界のあとは、幸福な笑顔でいっぱいになるということを。

 決意は固まった。そのせいでか、全身を包んでいた巫女装束は解け、制服へと戻る。そして、スカートのポケットには黄金に光る五枚のメダルが収まっていた。

 私はそのメダルの中の一枚をを手に取り、宙に弾いた。


「私、御門楓が願い奪う。信念を突き通し、偽善を破壊し、自身の力を困難という名の壁を破壊し続ける最強の力を。今、私のもとに来い、真実を貫く拳!」


 ずっと前、私が生まれるよりも前、この世界にはあまたの主人公が存在した。その中でも選りすぐりの主人公がいたそうだ。これはパパの記憶を遡って手に入れた、私だけの魔術。『過去能力(リターン)』、人の過去を探って、複製する魔術。かなり疲れるし、デメリットがあればそれも反映されてしまうという扱いづらい魔術だけど、成功すればかなりの強さを誇る魔術だ。

 私は、パパの昔の姿を借りた。主人公の力を振るって、全てを守ろうとしたパパの意思を借りたのだ。

 これで、私は目の前の執事さんと対等に戦えるだろう。


「さて、第二ラウンドだね」

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