プロローグ 2
西日本。そこはどこにも増して華やかな国だ。夜の街にはネオンライトが、目に痛いほどの光の乱舞が巻き起こる町並みで、多くのヘリコプターが徘徊していた。
その理由は、先日届いた一通の手紙から始まった。
「今! 西の王の城にて大爆発が起こりました! 宣言通り、怪盗ミイラ取りが現れたようです!!」
そう、巷を賑わす怪盗ミイラ取り。そいつがよもや西の王の城に侵入、盗みを働いくと言う手紙が報道陣に届いたからだ。
『某日、王の城にて、御身の大切なものを拝見させてもらいます。時と場合によってはそれを頂きます』
短いメッセージを書き記した手紙を送られた報道陣はスクープだと叫び、西の王の城の上を舞っている。
そして今日。メッセージ通り、盗みは行われた。
爆発で舞った塵が晴れると、そこには白いマントと全身を包帯で巻かれたまるでミイラみたいな人物が立ち、報道陣に丁寧に礼を捧げる。
そして、いつの間にか持っていたマイクで演説をし始めたのだ。
「あーあー。テステス、テストのマイク中ー。感度よし、音質も悪くないですね。それでは! 今宵も美しい闇夜の中で皆様に夢と希望と少々の絶望を与えましょう!!」
包帯を巻いている両腕から出てきたのは大量のコウモリ。しかも、ネオンライトを浴びて怯え暴れまわっている興奮状態のコウモリだ。
コウモリたちは一斉に暗いところを目指して空高く舞い上がり、報道陣たちのヘリコプターを襲う。と言っても多くはヘリコプターの羽に当たって死亡していくが。
報道陣もいきなりのコウモリで驚き、ヘリコプターが安定性を失うが、なんとか持ち直した報道陣たちを見て、ミイラ取りは拍手を送る。
「いやいや。それほど私を撮りたいのですか? 困りましたね。西の王といい、報道陣といい、私は人気者だ。ですが、見られるのは嫌いじゃない。魅入られるのはもっと嫌いじゃありませんよ!!」
この怪盗、かなりの変態である。
達観しているミイラ取りに、鉄拳制裁が行われた。
ミイラ取りに鉄拳制裁を行ったのは大切なものを盗まれた西の王。その表情は明らかに怒っていた。だが、壁を打ち抜くほどの威力を出す鉄拳を放った西の王は標準的な体つきの少女だった。
この少女こそが、三代目西の王、河西杏その人で、南の王と同じく女性である。
「返しなさい。それは私の大事なものなの」
「これはこれは。西の王ではありませんか。まさか追いつかれるとは……ですがまあ、イッツショータイムと行きましょうか!!」
鉄拳制裁を受けたはずのミイラ取りは傷一つなく、元気な体でカードを取り出し、数枚を西の王に向けて投げた。普通ならば何も切ることができないはずのカードは、西の王の服を切る。
攻撃を受けた西の王は、そのカードが魔術で強化されていることにすぐに気がつくが、反撃をしようとした矢先、いつの間に距離を取られ、ミイラ取りは打ち抜かれた壁の前で立っていた。
「今宵はいい月だ。御身と同じく綺麗な月の下、私は盗みの成功として最高のパフォーマンスをお見せしましょう」
逃げようとしているミイラ取りを逃すまいと、西の王は地面を抉りながらありえない速さで間を詰めていく。しかし、それよりも早く、ミイラ取りは自身の真っ白なマントを脱ぎ去り、硬化させて地面に突き刺した。
「こんなもの!!」
「それでは、これにて私は退散させてもらいます」
ダイヤモンドよりも固く硬化させたはずのマントを拳一つで砕いて、西の王がミイラ取りを捕まえようとするが、ミイラ取りは打ち抜かれた壁から身を投げ、地上数百メートルの場所からパラシュートなしでダイブした。
誰もが地面に真っ逆さまだと思ったが、ミイラ取りの顔を残して全ての包帯が解れ、二枚の大きな羽を作り出す。そして、次の瞬間には空を舞って、遠くへと逃げていた。
顛末を見た西の王は逃げていったミイラ取りを見て、
「殺す」
と言って、一回の地団駄で強固に作られている自身の城を倒壊させた。




