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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
番外編 ごく普通の聖夜
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聖夜(メリークリスマス)

 現在時刻夜の十一時。外は完全に真っ暗になり、人など一人も歩いていないだろうという時間帯。俺は東の王の家で仲良く夜ご飯を食べていた。

 事前に両親には連絡してあるので心配はされないが、東の王の発言が耳から離れない。


――――今日はクリスマスだがな、あいつ、楓の誕生日でもあるんだぜ?


 俺は、トイレに行くと言って、タカヒロからおすすめされた雑貨屋でクリスマスプレゼントを密かに買っていた。それをプレゼントすれば終わりだと思っていたが、よもや楓の誕生日だとは知らなかった。

 時間が時間なので流石に焦りを覚えはじめる俺。もう、開いている雑貨店は一件もないだろう。とすれば、高校生でも買える安値のプレゼントはもう買うことはできない。

 楓のことだからプレゼントなんていらないとか言いそうだが、形式上でもプレゼントを渡したい俺からすれば、それはあってはいけないのだ。

 考えるが、何も思いつかない状況に、俺は思わずため息が漏れてしまった。


「どうしたんだ? 飯がまずかったか?」

「あ、いや、そういうことじゃないんですけど……」

「どうせ、恭介さんが言ったことが気になっているのでしょう? まあ、何を言われたか知りませんけど、あまり気にしないほうがいいですよ」


 いえ、気にしますよそりゃあ。彼女さんの誕生日プレゼントを買い忘れる彼氏って、それだけでカッコ悪いじゃないですか。

 ははっと力なく笑い、俺は心の中でそうつぶやくと、俺のスマホが着信音を発した。

 誰かと思って、画面を見ると、そこには妹と書かれた表示がされている。どうやら、妹が電話をしてきたらしい。


「誰だ?」

「妹です。ちょっと席外しますね」


 言って、俺はリビングを出た。

 廊下は暖房がかかっていないせいで肌寒いが、直ぐに終わるだろうと思ったのでここで電話に出た。


「どした?」

『どした、じゃないよ! 私という妹がいながら彼女の家に行くってどういう神経――』

「あー、すまんすまん。帰りは日にちが変わってると思うから」

『ひ、日にちが変わってる!? ま、まさか朝帰りじゃないよね!? にぃ!? 聞いてる!?』


 騒がしいが、うちの可愛い妹です。普段はほんわかしているが、大事な日や俺が遅くなるとこうやって騒がしく電話をしてくるのだ。まあ、理由としては、両親が飯を作るからなのだが。別に両親の料理の腕前が悪いわけではない。ただ、料理をする回数が俺の方が多いだけで、普段から作っているせいで少しだけ両親よりうまく作れるだけだ。

 それで、妹はなぜか俺の料理がお気に入りらしく、両親の飯はあまり好意的に食べない。お腹がすいていればそうでもないが、それも俺がいればの話だ。

 まあ、そういうこともあって、家を留守にしたくなかったのだが、王直々に食べて行けと言われたので断ることができなかった。なにその上司命令。これが家畜人生か……。

 はあ、とため息をついて、俺は妹の電話を切るべく簡単な挨拶をして強制的に切った。

 スマホをサイレントマナーにして、ポケットにしまい、再びリビングに戻っていった。


「おう。用事は終わったのか?」

「あ、まあ」

「強制的に終わらせたってとこだな? 相手が女ならそういうのはやめたほうがいいぞ?」

「え? どうしてですか?」


 俺が聞きなおすと、東の王は見本を見せると言って、妻の一人を呼んだ。


「おい、綺羅」

「なにー?」

「お前の楽しみにしていたプリンを食べたのは俺――」


 衝撃の告白をしようとした東の王の額に二本の包丁が刺されていた。

 ひっと短い悲鳴を上げながら、俺は少しだけ身を引いた。

 ほどなくして起き上がる東の王。額の包丁を自分で抜いて、ほら、と言って包丁を元に戻す。


「ざっとこんなもんだ。まあ、俺の妻がおかしいところも少しあるが、隠し事とかをバラしたり、強制的に電話を切ると、俺たちがキルされるぞ?」

「……できることならそうなりたくないですね」

「そうならないように気をつけろよー」


 東の王がガハハと、額から血を流して大笑いしていた。






 俺、黒崎颯斗は、夜の九時にファミレスに行き、クソ親父から書類の束を受け取った。クソ親父曰く、それが俺へのプレゼントらしい。とんだプレゼントだと笑ってやりたかったが、直ぐにクソ親父はどこかにいてしまったので、それすらできなかった。

 家に帰ってからは、その書類とにらめっこだ。ちなみに、その書類には赤坂綾女の出生が書かれている。と言っても、書類に書かれているのは、コイツの作り方だが。

 この書類を見るに、赤坂綾女というのは最新技術で完成したクローンだそうだ。異能と魔術を組み合わせたハイブリット型が西日本で完成していたのは知っていたが、まさか対抗するためにクローンを作り出すとは、マッドサイエンティストにも程があるだろう。

 ペラペラと、真実をめくっていく俺の元に、そわそわと綾女が入ってきた。


「は、颯斗さん? そ、その、お話を――」

「忙しい」

「じゃ、じゃあ、お隣にだけでも――」

「忙しい」

「……」

「忙しい」

「何も言ってませんよ!?」


 オートで言葉を放っていたら、どうやら綾女は何も言っていなかったらしい。これが通じないということは、綾女のやつかなり動揺しているな。

 まさかとは思うが、自分が捨てられるなどと思っているわけではなかろうか。そう思って、俺は一旦書類をテーブルに置いた。

 すると、


「は、颯斗さん!」

「あぁん? なんだ、これ?」

「く、クリスマスプレゼントです! その、気に入ってくれたら、嬉しいんですけど……」


 紙の袋の中に入っていたのは、セーターだった。しかも、俺のサイズとちょうど同じの。どうやら、コイツがそわそわしていたのは、これを渡すためだったらしい。

 俺は目を逸している綾女に、呆れを覚えて、ベッドを数回叩いた。


「そこになら、座ってもいいぜ?」

「ほ、ホントですか?」

「気が変わる前に座れよ?」

「は、はい!」


 嬉しそうに、綾女はベッドに腰掛ける。俺は再び書類に手を伸ばして、掴んだ書類を綾女に渡した。


「え?」

「もう覚えた。忘れることはないと思うが、お前としては忘れて欲しいんだろ? 捨てるも残すも勝手にしろ」

「で、でも、これは……」

「元々、わかりきっていた事実だ。これで立証が出来ちまっただけで、それ以上でもそれ以下でもない。それにな、綾女。お前は俺の妹なんだろ? 血が繋がっていないだけで、そんなに動揺するな」


 俺の妹なんだろ、という言葉は、一層綾女を喜ばせた。

 そして、一方的にプレゼントをもらうというのは、俺の主義に反するので、お返しに何かをあげなくてはならなかった。そこで俺が選んだのは。


「綾女。お前に俺の苗字をやる。妹なんだから、苗字くらい同じじゃないとな」

「え……そんな、私には、もったいない……もの、ですよ……」


 そう言うなら、泣くんじゃねぇよ。

 俺は、苗字をもらって、正式に家族と認められたことが嬉しくて泣き出してしまった綾女を抱き、優しく背中をさすってやった。

 ここに一つ、聖夜の感動が起きた。






「彩乃ちゃん。これ、あげるっすよ」

「あっ、それは……私が欲しいって言ったもの、ですよね?」

「はいっす。ホントはもっと早く渡すつもりだったんすけどね。なかなかチャンスがなくて。こんな時間ギリギリになっちゃったっす」

「ふふっ。まあ、受け取ってあげます。来年は、自腹で買ってくださいね?」


 どうやら、タカヒロがお金をもらっていたところを目撃されていたらしい。

 さすがはハッカーというべきか、小説家の心など、とうの昔から筒の抜けのようだった。

 ここに一つ、聖夜の幸福が起きた。






 十二月二十五日ももう終わりを迎え始めた。そんな中、長居するのもと思い、帰り支度を始めて、玄関まで送ってくれた楓と少しだけ話をした。


「その、楽しかったよ。来年があったら、またこうしたいな」

「うん。来年は絶対に来るよ。だって、私が君を守るから、君が私を守ってくれるから、絶対に死なないから、来年も来るよ」

「そうだな。来年も、再来年も、そのまた次も、ずっとずっと一緒にいられるもんな。……あー、楓。その、だな。きょ、今日はクリスマス、だろ? だから、その……プレゼントが、あるんだよ」


 言って、俺はポケットに忍ばせておいたプレゼントを楓に渡す。

 プレゼントを送られるとは思っていなかった楓は、プレゼントを見て驚きの表情を見せた。


「ふぁ……いつ、買ったの?」

「トイレに行くついでにな。適当に選んだつもりはないけど。時間ない中買ったものだけど、お前に似合うと思って買ったんだ」

「開けても、いい?」

「ああ」


 プレゼントを開け、中から蒼に光る結晶の首飾りを取り出す楓。これは、値段はそこまでしないのに、派手でもなく、また地味でもない装飾品だ。特に俺の目に付いたのは健康・愛・永遠の誓いというその首飾りについている宝石の石言葉だ。

 宝石の名前はラピスラズリ。蒼色の綺麗な宝石で、石言葉も俺たちにぴったりだ。

 俺からのプレゼントが気に入ったようで、楓は大喜びで、早速首飾りをかけてくれた。思ったとおり、似合う。可愛らしい楓に、少しだけ大人びた装飾品は、綺麗な矛盾を作り出して、いやでも目に入ってしまう。


「とても似合ってるよ」

「うんっ! ありがと!」

「それと……だな。き、今日、お前の誕生日、なんだろ?」

「あれ? 教えてないよね? ……パパかー。もう、なんでも言っちゃうんだから」

「あまり、あの人を責めないでやってくれよ。あの人はあの人でお前のことが大事なんだよ」

「わかってるよ。わかってても、子供扱いされるのは、少し嫌かな。まあ、今回は陽陰君の顔に免じて許してあげる」


 ははっ、参ったな。後で東の王に殺されるかもしれない。

 まあ、そうなる前に、俺が考えた最終的な答えを見せよう。俺は開きっぱなしになっている心の門から、化け物の力を呼び起こす。

 その場に跪き、楓の手を取って、まるで女王と騎士の絵面になる。


「俺がお前を守る。この命に代えても、俺がお前を幸せにする。この力はお前のものだ。だから、お前の命と知識を俺にくれ。俺は力の塊だ。使い方を間違えれば手がつけられなくなる。その抑止力に、なってくれ」


 未だ誰にも教えていない、俺の中の化け物を封じた魔法式を、楓は解読している。なら、これからすることは楓にはわかりきっているだろう。

 これは俺を操る権利を与える魔術。そのキーワードだ。お互いが誓い、お互いが認めることで成立する魔法式。それを、楓は既に理解している。


「いいんだね?」

「ああ、俺の力はお前のもの。お前のためだけに使うさ」

「あと、自分のため。でしょ? ――じゃあ、封印を開始するよ?」


 頷き、顔を近づける。

 この魔法式では、キスこそがキー。門を封じる鍵なのだ。

 化け物よ。今回は助かった。今後も、幾度となく助けられると思うけど、お前は単体では強すぎる。悪いが、眠っていてくれ。

 そう願って、俺は楓二つ目の、今度は誕生日プレゼントを渡したのだった。

 時計を見れば十二時を回っている。つまり、十二月二十五日はもう過ぎた。新しい日が、やってきたのだ。


「へへっ♪ なんか、こういうのいいね。あったかい」

「そう、だな。あったかい、な。じゃあ、楓。一日遅れだけど、メリークリスマス。誕生日おめでとう」

「それ、おかしいよ? でも、ありがと。こんなに嬉しいクリスマスと誕生日は初めてだよ」


 言って、ふたりはもう一度キスをするのだった。

 ここに一つ。聖夜の奇跡が起きた。






 いくつもの感動や幸福や奇跡を起こした聖夜はもう過ぎた。また、新しい日が始まり、人々は希望という不確かなものを追って日々を過ごす。

 希望がある明日こそが、希望を与えてくれる日の出こそが、本物のプレゼント。赤い侵入者の最高にして、最上級の幸福の具現化。

 さあ、新しい時間が始まった。叫ぼう、みんなで。






――――――メリークリスマス!!!!!!――――――







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