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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
番外編 ごく普通の聖夜
26/56

恋愛(デート)

 十二月二十五日。今日はカップルがイチャイチャする日だという。もしかしたら違うかもしれないが、俺は楓にそう伝えられた。

 というのも、今朝、目を覚ましたら俺に馬乗りしている楓がいたのだが、


「ねーねー! 今日はクリスマスだよ? どっか行こーよー! 行ーこーおーよー!」


 はい、とんでもなく鬱陶しいです。

 というか、クリスマスって家でゆっくりするんじゃないの? 今日は木曜日だけど、高校が直っていないせいで休みなんだぞ? 戦いの後だから体も痛いし、今日ぐらい休ませてくれよ。

 という俺の意見も、東の王の娘にしたら杞憂である。俺の意見がどうであれ、コイツは俺を連れ回す気だろう。そういう目をしている。

 だから、ダメもとで今日はどこにも行かないと言おうとすると、


「ダメ……なの?」


 涙目、上目遣い、柔らかい感触。ダメだ、可愛すぎる。

 口に出そうとしていた言葉がだんだん薄れていく。そのうち消えて、俺は出かける準備をし始めた。つきまして、楓はろうかに追い出して。


「ったく。なんで俺がこんなことを……」


 文句を言いつつ、俺自身も楓と出かけることを嬉しく感じていた。付き合うと言ってもどうすれないいのかわからないため、こうやって物申してくれる彼女は分かりやすかった。

 そう、俺と楓はひょんなことから付き合うことになった。つまり、彼氏と彼女の関係になったということだ。具体的にどうすればいいかなど分からないが、楓が笑ってくれるのなら、俺はきっと何でもするのだろう。楓の笑顔は、それだけの価値が有る。

 いつの間にか微笑みながら覚えたばかりの曲を口ずさみ、着替えをさっさとしていく。ちなみに、楓の服は俺の部屋にあるため、俺が着替え終わってもすぐに出かけられるわけではない。

 俺の着替えが終わると、楓が俺と交代で部屋に入り、着替えていく。

 その間、俺はキッチンに行って朝食の準備をする。ついでに、ポケットに入れた財布も確認して、お金が十分入っていることを見てから、軽い朝食を作り始めた。

 現在時刻、十時。妹は学校に行っており、両親も仕事だろう。と言っても、帰りが遅い両親を持ったため、普段から料理はしているので、朝食くらいならすぐに作れるだけのスキルがある。よって、俺はテキパキと作っていき、楓がリビングに来ると同時に朝食を食卓に運んだ。


「わー! おいしそーだねー!」

「だろ? 料理は得意なんだよ」


 朝食はハムエッグとトースト。それに外は寒そうだったのでコーンスープの三種類。俺と楓が食卓に着くと、俺たちは早速朝食を取り、出かけることにした。

 さて、ここで問題だ。俺は彼女と何をすればいいのかわからない。彼女とどういうところに行くべきかも、どういった遊びをするべきなのかもわからない。それに加えて、ゲリラクエストだ。準備をする時間もなかった。さあ、これからどうすればいい?

 一筋の汗が流れた。

 ど、どうすればいいんだ、これ。ど、どこ行けばいいんですかね!

 全くと言っていいほど手詰まりな俺に楓が気がついたのか、目的地を設定してくれた。


「そうだ。私ね、こないだオープンしたショッピングモールってところに行きたかったんだー」

「ショッピングモール? って、駅前の?」

「うんっ!」


 本心のように聞こえるが、楓をよく見ると、別にこうして俺といるだけで幸せそうだった。よく考えれば、楓はどこかに行きたいという思いをもつ性格ではない。むしろ、寒い日は部屋の中でこたつに入ってゆっくりしたいという性格だ。

 ならば、どうしてこんなことを行ってきたのか。これは推測だが、きっと、俺と同じく一緒に楽しい時間を過ごしたかったのだろう。

 これで間違っていたら俺は赤っ恥だが、きっとそうだろう。

 俺はそんな楓の願いを叶えるべく、駅前のショッピングモールに向かった。

 電車に乗り、十分。目的地のショッピングモールが見えてきた。


「わー! おっきいねー!」

「そうだな。ていうか、本当に来た事ないのか?」

「うんっ! だって、来る必要なかったもん」

「は? なんで?」

「欲しいものはAma○onで頼んでたから!」


 ダメだ。こいつちゃんと育てないとダメな大人になる。

 俺は東の王の娘の意外な事実に驚かされ、頭を抱えていた。もっと安全な子かと思っていたが、さすがは王の娘、やることがある意味で突飛している。

 今度会ったら東の王に物申すしかないな。このままだと楓がダメな大人になっちまう。

 ダメな大人路線に乗っている楓をまともにするために根源を正すことを心に誓った。

 ほどなくして、俺と楓はショッピングモールに着いた。そこで、俺たちは奇妙なものを見つけてしまった。それは、首にヘッドホンをかけている少年とメガネをかけている大人しそうな少女が仲良くショッピングモールに入って行くシーンだった。

 あれは……タカヒロと上原さん? ははぁーん。あいつら、付き合うことにしたんだな?

 仲睦まじそうに笑い合いながら、楽しそうにしている二人を見て、俺は少し笑ってしまった。あれじゃあ、まるでバカップルじゃないか。まあ、それほど仲がいいんだろうけど。

 そっとしておこうと、俺が彼らと逆の方に向かおうとすると、楓がいらんお節介を発動した。


「おーい! 彩乃ちゃーん!」

「……か、楓さん? ど、どうして……」


 俺が目を離したばっかりに、楓が二人の元に走っていってしまった。呼ばれた上原さんが仰天したように目を見開き、タカヒロと距離をとってしまう。

 あー。お節介すぎるだろ。っていうか、あいつわざとしたな?

 楓は空気は読めないが場は読めるやつだ。あいつらが付き合っていることも理解しているだろう。その上で声をかけた。その理由はきっと、冷やかすため。

 あいつの性格を、再度改めないといけないようだ。間違った認識をしていると、足を絡め取られてしまう。俺はああいうふうにはならないぞ。

 そう決心してから、俺は収拾をつけるために楓を引き剥がしに向かった。


「よっ。こんなところで会うとは偶然だな、お二人さん」

「なっ、火蔵くんまで!? うっ……」


 顔を真っ赤にしてタカヒロの後ろに隠れてしまう上原さん。こういう反応はこれはこれで面白い。

 ちゃんと冷やかすことも忘れずに、俺はさっさと楓を引き剥がしてどこかに行こうとすると、タカヒロがいつもの調子で話してくる。


「こんにちわっす。陽陰くんものデートっすか?」

「『も』ってことはお前もか? やっぱ付き合うことになったんだな」

「そうっすよ。あっ、それと、オレッチの彼女さんをあまり困らせないでくださいっす。可愛いっすけど、これはオレッチだけの表情っすよ?」

「た、タカヒロくん!?」

「ハハっ、違いねぇや。冷やかすのもこれくらいにするさ」

「か、火蔵くんまで!? うっ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!」


 俺の追撃とタカヒロの援護射撃によって完全にダウンしてしまった上原さん。無表情な人かと思っていたけど、こういう表情もするんだな。おっと、これ以上はタカヒロに怒られそうだ。

 適当にいじったあと、お互いの時間に戻ろうとすると、タカヒロに腕を掴まれ、こそこそと話を聞かされた。


「陽陰くん、ちょっと聞くっす。どうせ君のことだから、また王様の娘さんに連れ回されてるっすよね?」

「ま、まあな。でも、これはこれで悪くないぞ?」

「そういうことじゃないっすよ。まあ、陽陰くんに言っても仕方ないと思うっすけど。一つだけいい情報をあげるっすよ。二階の奥に、安値なのに可愛いものが売ってる雑貨屋があるっす。そこは意外と女性に人気なんすけど、この情報と交換で、少しだけお金くれないっすか?」

「それ、言ってからする交渉か? まあ、金額によるな」

「へへっ、千円でいいっすよ。オレッチ、印刷代でお金飛んじゃって、辛うじてあるんすけど、ちょっと足りないっていうか……どうっすかね?」

「はぁ。わかったよ。ほら、千円」

「おおっ! この恩は一生忘れないっすよ! 今度、何かでお返しするっす!」


 おいおい。交渉と違うじゃねえか。まあ、コイツがいいならいいけど。

 かくして、俺とタカヒロたちは別れ、お互いのデートを再開したのだった。

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