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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
王様の娘が俺の彼女になるそうです
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驚愕の東の王

 娘が殺された。目の前で、一瞬のうちに娘が命を失った。その事実を見つめて、東の王、御門恭介が黙っていられるわけがない。


「テメェェェェェェエエエエエ!!」


 こみ上げる怒りが、溢れ出そうになる怨念が、北の王に注がれた。目は血走り、全身は熱くなり、目の前の男を殺すためだけに意識が集中する。

 そんな視線を注がれている北の王は嬉しそうに微笑むと、


「やっと本気になったか。もう少し早く本気を出しておけば、あやつも死ななくて済んだだろうに。全ては貴様がいけないのだぞ?」

「ふざけるな!! 何が本気だ! テメェの世迷いごとに他人を巻き込むんじゃねぇよ! 俺とテメェの戦いだろうが! なんで……なんで他人が傷つかなくちゃいけないんだよ!」


 自分の娘を他人と言い切り、恭介はこの期に及んでまで話し合いでどうにかしようとしていた。

 背後では音沙汰のない少年と、息をしていないと思われる娘が静かに存在していたが、そんなことはもうどうでもよかった。ただ、目の前の男が憎い。殺してしまいたいほどに憎い。

 王が憎しみに囚われたらおしまいだ。そんなことはわかってる。わかっているが、どうしようもないだろう。目の前の男は、恭介の大事なものを奪った。守ると約束した者を奪った。

 これは王と王の戦いだ。最強と最強の戦争だ。犠牲が出ない方が不思議なのだ。だから、これは恭介のミス。この戦場に娘を連れてきた恭介のミスだ。

 全ては自分が悪い。ならば、尻拭いも自分でしなくてはならないだろう。

 恭介はポケットに手を突っ込み、五枚のうち一枚のメダルを掴む。メダルを取り出し、宙に弾こうとしたその瞬間だった。

 背後から、声が聞こえた。


「おい、ジジィ」


 どうやら、少年が我を取り戻し、声をかけてきているものだと思われる。

 だが、始まってしまった王の戦いを中断できるのは他の王か、神獣だけだろう。もう、あの少年にこの戦いは止められない。どれほどの逸材でも、少年には自分以上の力などないのだから。

 しかし、その考えは改められた。メダルを弾き、言霊を紡ごうとした恭介は、何かに恐怖するように全身を震わせ、弾いたメダルを地面に落としてしまった。

 その恐怖の根源は目の前の男ではない。背後の少年からだ。

 カクカクと、ぎこちない動きで後ろを見ると、そこにはさきほどまで見ていた少年がいた。何も変わっていない、少年が。


「ふむ。どうやら、東の王が気にかけているのはお前のようだな。さきほどまで、我に甚振られていた少年が、そんなに気になるのか?」


 北の王が悠長にそんなことを言っている。

 違う。そうじゃない。ミジンコほどの気もかけていない。ただ、恐怖しているのだ。王である、御門恭介が。

 その事実を知らない北の王は答えのないことにイラつき、少年を攻撃した。黒く、バスケットボール状の高速に動く玉は、北の王の能力『万有引力(パーソナル・グラビティ)』。重力や引力、そういったベクトルを操ることが出来る能力である。

 さっき、楓がそれを受けて体をバラバラにされた。少年もその運命を共にすると思われたが、そうはいかなかった。少年は不可視にも等しい速さで飛んでくる玉を右手の甲で弾いた。


「ん?」

「話、聞けよ。ジジィ。お前に聞きたいことが一つだけある」

「……よかろう。余興にはもってこいだ。聞いてやろう」

「なんで、楓を殺した? 殺す理由が、あったのか?」


 静かに、怒りを押し殺すようにした質問に、恭介は苦悶した。

 あの少年は、自分の娘のために怒っている。自身が殺してしまった娘のことを思って、今、立ち上がっている。その事実は、恭介を悶絶させた。

 対して、問われた北の王は平然と言う。


「ない。理由などない。そこにいたから殺したまでだ」


 人殺しとは、最初から最後まで残酷なものだ。理由など、北の王が言ったようにありはしない。目に付いたから、目障りだったから殺した。その程度の理由しかないのだ。

 そして、その理由は、少年を吹っ切らせた。人殺しという罪悪感を吹っ飛ばし、鎖を引きちぎり、自由に暴れることができる野生の狂気と化す。


「そうか。そうだよな。ああ、ジジィの言うとおりだ。人殺しに理由なんてない。わかってる。わかってたさ。あぁ……わかってたんだ。だから……」


 上を見上げたまま、少年は息を吸った。

 次の瞬間、激しい威圧が王二人を硬直させる。どう感じても、殺気にしか思えないそれは、少年の感情のなくなった表情で分かる。

 少年は、怒っている。北の王ではない。世界にでもない。もっと、もっと身近なもの。例えば……自身。不甲斐ない自身に怒っていた。


「もういいや。もう、いいんだ。こんな世界。楓がいなくなった世界になんて、『意味はない』」


 一瞬にして地面を割る気迫が王たちを驚愕させた。

 ど、どういうことだ? あいつには何の力もなくて……いや、違う。楓が言っていたじゃないか。俺がどう頑張ったって敵わないと。この、王の力をもってしても敵わないのだと。

 ああ、クソッ。そういうことかよ。なんで俺はこんなに大事なことを忘れてんだよ。あいつは、火蔵陽陰は俺の昔の友人(ダチ)の子孫じゃねぇか。

 今になれば合点がいく。高校生にしてここまで憑き物を操ることができたのは魔力が膨大だったから。そして、魔力の素質というのは先祖代々から変わることのない遺伝。極めつけは火蔵と言う苗字。

 珍しい苗字だと思ってたが、まさか、な。

 背後で力を暴走、膨張させているのは、東の王が百年以上も前に知り合い、そしてともに戦った影の英雄。歴史に名を残さず、密かに一生を終えた本物のヒーロー。火蔵吠舞羅(かぐら ほむら)の子孫だった。

 その事実を知って、恭介はククッと喉を鳴らした。

 恭介は知っている。その英雄は人助けが趣味だと。

 恭介は知っている。その英雄は理不尽が嫌いだと。

 恭介は知っている。その英雄は怒らせると怖いと。


「ククッ、ハハハハっ! そうか、そういうことかよ! お前が、お前の中にいるのが、あの時の化け物の正体か!!」


 昔のことを思い出したおかげで、少年の中に眠っていた化け物のことを思い出す。

 昔々。日本がまだ分裂していなかった時に、日本を脅かした凶悪な怪物。鬼と狼の子。現役だった恭介を苦しめ、火蔵吠舞羅を贄として終結させた、恭介にとって数少ない汚点。

 万物喰らいの鬼狼(フェンリル)。正真正銘、最強最速最低最悪の四冠の神獣。そいつが今、目を覚ました。

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