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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
王様の娘が俺の彼女になるそうです
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創造不変(クリエイト・ノーリターン)

やっと、ここまで来た……

 どこを見てもゴツイゴーレムがわんさかいる中で、俺の右ポケットに入っていたスマホが着信の音を出す。俺はゴーレムの攻撃を躱すので手一杯で無視しようかと思ったが、スマホの着信音が一向に鳴り止まない。

 クソッ! こういう時のためにちゃんと留守電サービス入っときゃよかった!

 俺はゴーレムの攻撃をなんとか回避しつつスマホを手に取って電話に出た。


「な、何だよ! こっちは忙しいんだけどな!」

『あ、陽陰くんっすか? オレッチっす』


 こちらは戦闘中だというのに何とも能天気な声で電話に出られ、無性に怒りがこみ上げる。

 俺はゴーレムのムチ上になっている腕を掴み、電話に向かって怒鳴りつけた。


「お前な! 今頃どこにいるんだよ! こっちはマジで忙しいんだけど!」

『あー。そのことっすけどね。オレッチたちがいても邪魔だと思って逃げたっすよー』

「やっぱ逃げたのかよ! どうしてくれんだよ! こっちは俺一人だぞ!?」

『え? 楓さんは……ああなるほど、逃げたっすね?』

「ちげぇよ! あいつは逃げた魔術師を追いかけさせたんだ! 俺は魔術師との戦いは慣れてないからな! それで、お前たちホントにどこにいるんだよ? 物音ひとつしないんだけど?」


 電話先から聞こえるのはぶぅーんという奇妙な音だけで、そのほかの音は全く聞こえない。俺がこれほどの激しい戦闘をしているというのに、その音すら聞こえないというのは戦闘地点よりもずっと遠くに居るか、もしくは防音の部屋にいるのかのどちらかに限られる。

 そして、どうやら二人は後者の方に入るらしい。タカヒロが楽しげな声で俺に宣言してきた。


『いやー、オレッチたちは前衛というより後衛っすから。今から、陽陰くんのお手伝いをするっすよ。つきましては、まず右手をご覧っすよ!』


 言われて右を見ると、ゴーレムの攻撃。この距離、このスピード、完全に補足された。逃げることはできず、また相打ちにすることもできない。

 仕方なく、俺は全力で防御体勢に入る。がしかし、攻撃は一向に来ない。

 目を開けて目の前を確認すると、そこには細い棒に体を貫かれ、関節部分を完全に固められているゴーレムが存在していた。


「こ……れは?」

『名づけて『創造不変(クリエイト・ノーリターン)』っすよ!』


 タカヒロの背後で、「やめてください、ダサいですから」という上原さんの声が聞こえたので、どうやらタカヒロ一人の技ではなさそうだ。

 でも、これで格段に戦いやすくなった。俺が補足できなかったゴーレムをこの技で止めてもらえれば、無駄な動きのいらない効率のいい立ち回りができそうだ。

 俺はスマホにイヤホンを差し、イヤホンを装着する。こうすれば、スマホを手に持たなくても電話が可能だ。

 俺は早速電話でタカヒロに指示を出す。


「すまん! 俺が取りこぼした敵を止めてくれ!」

『最初からそのつもりっすよ! オレッチたちの合わせ技で数体を止めるっす! その間に陽陰くんは残りのゴーレムを破壊して欲しいっす!』


 おうっと返事をしてから、俺は意識を集中させる。

 体に流れる化け物の力を上手く操って、移動速度を加速させる。その上で攻撃力を底上げして、短時間で敵を殲滅する。

 難しいことだが、無理ではない。要は集中力だ。集中しろ、俺。全てを見極めて、全てを操作するように……。

 息を吸い、吐く。明鏡止水の心が出来上がったところで、俺は一歩を踏み出した。そのスピードは常人の三倍。高速の勢いでこれはゴーレムたちを破壊して回った。


『校門右側は全て止めたっすよ!』

「今、左側が終わったところだ。右側の殲滅に入る!」


 ものの三分で溢れかえりそうだったゴーレムの半分を片付け、動きの止まっているゴーレムたちに突っ込んでいく俺。

 最後のゴーレムを全力で殴ると、ゴーレムはただの土塊になり、全く動かなくなった。

 倒しきった。これで終わった……。


「はぁ……はぁ……。楓の、やつ。どうなったかな?」


 全力を出したせいで体が怠くなり、息が大いに上がっている。次第に俺の体は地面に落ち、息が整うまで完全に動けなくなった。

 クソったれ。もう動けねぇよ。あー、マジで疲れた……。


『お疲れっす! 目視できるゴーレムもいなくなったっすよ!』

「あ、ああ。そりゃよかった。少し、休むぞ」


 ふぅっと息を吐き、目を瞑ろうとすると、俺の体が宙を舞った。

 ゴスっと地面に叩きつけられ、強制的に息を吐き出された俺は何が起きたのかを確認するために瞑っていた目を見開いた。

 すると、そこには白い髪をした爺さんがいかにも邪悪な笑みで立っていた。


「くっ、かはっ……テメェ、誰だよ」

「ふむ。我も歳を取った。お主の年齢で我を知らぬのは普通、なのだろうな」


 東の王と同じかそれ以上に上から目線な爺さんに、流石に俺もカチンときた。


「こちとらゴーレムを一人で片付けるって無理難題を押し付けれて疲れてんだけどな! ホント、あんた誰だよ!!」


 俺の怒鳴り声を聞いて、爺さんが哀れな者を見るかのように俺を見下す。そして、次の瞬間、こう言った。


「知ったことか」


 ただ一言、そう言った。

 あー、なんだろう。この爺さん。スッゲームカつくわ。

 俺はいうことの聞かない体に鞭打って、目の前の爺さんを一発殴るために何とか立ち上がった。だが、何分疲れが半端ではない。きっと、一発殴って倒れてしまうだろう。

 しかし、それでも殴らないと気が収まらなかった。爺さんの見下す姿にそれほどの衝動を駆らせるものが存在していたのだ。相手を人として見ていないその視線、まるで目の前にいるのは虫けらだというふうな視線がこれ以上になくムカついた。

 だから、一発だけ。それだけでも殴り飛ばそうと腕を振り上げると、


「王に触れようとはいい度胸だ」


 クイッと首を振ると、俺の体は何かに引っ張られるように後ろに吹っ飛んだ。

 再び地面に背中をぶつけ、息が出て行く。一瞬の苦しみの中で、俺は爺さんの言った言葉に耳を疑っていた。

 爺さんは今、自身を王と呼んだ。王とは絶対の支配者であり、支配層の頂点であり、食物連鎖で言うところの人間だ。まさに上。俺のはるか上の天上人だ。

 俺はもう一度体を起こして、目の前の爺さんをまじまじと見る。果たして、俺は理解した。目の前の爺さんを殴ろうとした自分はなんと愚かだったのだろうと。

 俺はこの爺さんを見たことがある。あれは確か、中学の時。そう、そうだ。中学の時、俺はあの爺さんを歴史で学んだ。世界で最も手を出してはいけない人種の最頂点に君臨する暴君。名と出生はわからず、目的も存在理由すらもわからないこの爺さんは今、世界の共通認識で要注意人物となっているお尋ね者。

 北日本の大罪人、北の暴王様だ。

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