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王様の娘が俺の彼女になるそうです。  作者: 七詩のなめ
王様の娘が俺の彼女になるそうです
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小説家とハッカー

 目の下に大きな隈を作って登校する俺の前を元気な顔で手を振ってくる楓。どうやら、遅いから早く来いとの命令だ。急がねばならないとはわかっているが、俄然足がいうことを聞いてくれない。

 完全に寝不足だ。昨晩の楓の言葉は俺を十分に悩ませて、また十二分に寝付けなくさせた。これ以上の迷惑はないだろう。

 俺は大きなあくびを見せて、トボトボと地面を踏みしめる。

 そんな俺の後ろを通り過ぎていくヘッドホンの少年、錐崎タカヒロ。その表情は俺と同じく寝不足気味だった。理由は分からないが、その寝不足な目で必死にスマホを眺めていた。


「おい。ながらスマホは危険だぞ?」


 俺が声をかけると、驚いたように体を震わせ、カクカクと首を動かして俺を見る。俺が視界に入った瞬間、安堵の表情を見せて、息を吐いた錐崎タカヒロ。

 一体何だって言うんだ? 俺の顔見て安堵するとかやめてくれよ……。

 果たして、安堵した理由をこぼす。


「いやぁー。すまないっす。編集者の人かと思ってビクついちゃったっすよ」

「編集者? なんでお前のところにそんな奴が来るんだよ?」

「あはは。オレッチ、これでも小説家なんすよ。まあ、名は売れてないっすけどね」


 なるほど、だから寝不足だったのか。きっと、夜遅くまで小説を書いていたという感じだろう。それにしても、小説を書くなんてすごいな。俺は読んだことが少ないけど、あれだろ? 字がいっぱい書いてあるやつだろ?

 俺は小説家を名乗った錐崎タカヒロを心からすごいと評価した。まあ、俺が評価したところで嬉しかないとは思うが、それでも俺からすればすごいと思ったので評価はした。

 錐崎タカヒロは頭を掻きながら、小説家ということがバレたことが照れるのか、少しだけ恥ずかしさの入った笑いを見せる。


「俺は小説とか詳しくないけど、そういうのは心からすごいと思うよ」

「そ、そうっすか? まあ、運が良かったっていうのもあるっすけど。そう言われるのは嬉しいっすね。あっ、オレッチは錐崎タカヒロっす。って、知ってるっすよね。入学早々問題を起こしたっすもんね。えっと、君は……」

「俺は火蔵陽陰。一応同じクラスだし、呼び捨てでいいぞ」

「そうっすね。じゃあ、オレッチのこともタカヒロって呼んで欲しいっす。いやぁー、早々に友達ができるってのはいいことっすね」

「そうだな。俺もまともなやつと話せるのが猛烈に嬉しいぜ……」


 まともなやつ? とタカヒロがクエスチョンマークを出したが、ついにその理由にまでは到達しなかった。まあ、誰も坂の上で手を振っている楓が好きな奴に抱きついたり、跨ってきたりするようなエッチなやつだとは思わないだろう。そして、それを迷惑に思っている奴がいるとは誰も考えないだろう。

 俺はタカヒロを連れて坂の上まで歩いて、今度は楓を紹介した。


「コイツは御門楓。わかってるとは思うが――」

(キング)の娘さんっすよね? いやぁー、会えて感激っすよ。オレッチの事は知ってるっすよね?」

「うん。錐崎タカヒロくん、だよね? 初日からすごい魔法見せてもらったよ!」

「いやぁー、参っちまうっすね。こんな可愛い女の子に名前を覚えてもらえるなんて。あっ、でも、陽陰くんの彼女なんっすよね?」

「違う」「そうだよー」


 俺の否定の後に、笑顔で楓が修正してきた。クソッ! なんで俺がこいつの彼氏になってるんだよ! そういうのは定着しなくていいから!

 俺が再度否定しようとすると、楓が俺の足を蹴り顔をなぎって地面に転ばす。そして、ありもしない既成事実を白々しく語る。


「実はね! 昨日、子づくりを――」

「してねぇよ!! 頼むからそういうのは学校で言うなよ!?」

「そういうふり?」

「違うから! お前の親父にバレたら俺がどうなるか分かってんだろ!? 八つ裂きにされるんだぞ!?」

「大丈夫だって。何度も言うけど、君が『本気』になれば、誰にだって負けないよ。私以外にはね」

「くっ……それは、そういうことなのか?」


 そういうこと。それは、俺の中にいる化け物を封印した術式を完全に読み解き、完全に操ることが出来る準備が出来ているということ。きっと、楓には俺の中にいる化け物の正体だって勘付いているはず。もう、俺に後ろ盾はなくなった。そういう感覚が全身を這い回った気がした。

 これだから女というのは怖いのだ。母さんもそうだったが、男を騙して罠にはめるのだと俺の親父が昔涙ながら語ったことがあった。なんでも、昔は大人しくて可愛げがあったのだが、年を重ねるごとに母さんは横暴になっていき、今では大黒柱の中身を全て食べてしまったような強力さを見せつけている。

 それは、家のことや魔術界のことでも同じだ。俺の親父は三代目火蔵の当主だが、その力関係は母さんが最強になっているのでわかる。

 以上のことから、俺の安全安泰な人生設計は目の前の御門楓(あくま)によって完膚なきまでに打ち砕かれた。


「……あー、なるほど。そういうことっすか。陽陰くんも苦労してるっすね」


 どうやら、今の会話でタカヒロが先ほどの『まともなやつ』の意味がわかったらしい。コイツはコイツで勘がいい。

 そうやって力関係がだんだん楓に傾きつつある中で、大騒ぎをしている俺らの隣をスタスタと通り過ぎていくメガネ少女がいた。

 そいつも同じくながらスマホをしていた。


「だから、ながらスマホは危ェつってんだろ!」

「大声をあげないでください。それに、ながらスマホなんてしてません。スマホでハッキングした衛星からちゃんと周りを確認しながら歩いています」


 ハッキングした衛星から周りを見ているんじゃ仕方ないな……は?

 俺はメガネ少女が言ったことが少し理解できなかった。その主な理由はハッキングという言葉にあった。


「お、おい。お前もしかして、ハッキングとか言ったか?」

「はい。そうですが、何か?」

「いやいやいや。確かに昔と違って法律で禁止されてないけどさ。それは、その……ダメなんじゃないか?」

「禁止されてないのなら大丈夫なのでは?」


 正論の様に聞こえるが、その実、言っていることはかなりの確率でダメなことだ。

 俺が言ったように、法律では禁止されていない。昔は禁止されていたようだが、日本が四つに別れた時には既にその法律というのはあってないようなものになってしまった。そのせいで、一から法律を作り直したというのは中学の時に社会で習ったことだ。

 だがしかし、ハッキングというのは相手のプライバシーに関わるものだ。少なくとも俺はそう理解している。それを悪くないというメガネ少女の言い分は、俺を震撼させた。


「念の為に言っておきますが、あなたやそこの彼のようなプライバシーなんて興味ありませんから。それに、私は一般人の情報に興味ありませんので、ハッキングはしたことはありません」

「は? じゃあ、何にハッキングしてるんだよ?」

「軍関係。もしくは、物体に。……これ以上は、そこの彼が興奮しそうなのでやめておきますね」

「なんでっすか! もっと、もっとその仕組みを言ってくださいっすよ! もう少しで、もう少しでいいネタが浮かびそうなんっすから!」


 美味しそうな獲物を前に待てをされている犬のように息を荒くして文句を言っているタカヒロ。これまでのこいつの評価を見直そう。コイツは変人だ。

 何はともあれ、この四人のゴールは同じなので、一緒に登校した。その間、楓とメガネ少女が仲良くなっていたのは不思議にも思わなかったが、それを見て興奮しているタカヒロはとてもキモかったです。

 

「そういえば、お前の名前聞いてなかったな」

「教えるべきですか?」

「この子はね! 上原彩乃(かんばる あやの)ちゃんって言うんだよ!」

「……そ、そうか。よろしくな」

「……少しだけ、楓さんと仲良くなったのが悔やまれますが。よろしくお願いします」

「お、オレッチは――」

「知ってます、変態っていうのでしょう?」


 それは総称ですよ、上原さん。

 上原の意外な攻撃に大ダメージを食らったタカヒロは立ち上がることができないのか、肩を深く落としてしまった。

 ははーん。こいつ、上原のことが好きなのか。でも、こいつと上原って接点あるのか?

 そんなことを考えていると、高校の門まで着いてしまった。しかし、その門の前に、人が三人立っている。しかも、その手には武器にしか見えないものを持っていて、どう見て優しそうなやつではない。


「あいつら、何者だ?」


 俺が遠めのところから言ったのを最後に、三人によって高校が破壊され始めた。

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