その1 アヒルとトイレと池
あひるによる、アヒルのための、家鴨的トイレの仕方。
私は見た。
ここは、水上家のトイレ――ちなみに洋式――である。
そして……アヒルの姿を発見した。
「おいアヒル。普通の家鴨はだな、洋式トイレで用を足したりはしない、出ろ」
家鴨としての基本情報を、特別に無料でプレゼントしてあげた。
「無理。それよりノックもせずにかぎ無しおんぼろトイレにいきなり侵入してくるのはいかがかと思うが」
喋る家鴨、『アヒル』は今日もやりたい放題やっている。
「用を足したきゃ池に行くんだ、このクソ役立たず家鴨」
悔しいので罵倒する。
「おい、うるさい飼い主。とりあえずトイレから出ろ」
負けた。
そしてまた次の日も……私は見た。
便器に座りながら新聞を広げているアヒルの姿を。
「学習機能ぶっ壊れてるんですか、お前は。池に行けよ」
だじゃれですか、と言いたげな目視線が、私を突き刺す。
致死のダメージ(クリティカルヒット)そして追撃。
「それと飼い主、お前また勝手に入ってきやがって、そろそろ逆セクハラと動物虐待で告訴するぞ? 優秀な弁護士を用意しておくんだな」
殺す、絶対いつか殺す。
私は胸に殺意を秘めたまま、とりあえずアヒルの首を掴んで、新聞を取り上げた。
「池ならすぐ近くにあるだろ?」
「動物虐待」
「死ね」
本音がぽろりと口から零れ、私は慌てて口をふさいだ、が遅きに失した行動だった。
アヒルは私をキッと睨むと、嘴で笑った。
多分、鼻で笑いたかったんだと思う。
「飼い主、お前……人生の終着駅、もといごみばこに逝ってくれるとまことに嬉しいんだが」
ごみばこ……あぁお墓のことか。
迂遠な比喩で罵倒するとは、さすがアヒル、憎たらしさでは誰にも負けていない。
今日はここまでにしておく。
アヒルが家鴨らしくなるのはいつのことやら……