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07

 僕は再びケイの家にやってきた。週末の深夜と音楽がここにはある。秘密を隠している照明が家の玄関に灯り、扉が開くたびに大きくなる重低音がある。外に置かれた枯れた鉢植えを持ち上げると鍵が見つかる。泥だらけの小さな人形が鍵にはついている。鍵の在り処を知っている人間は、誰でもこの部屋ヘはフリーだ。僕は玄関の鍵を開けて、再び鉢植えの下へ鍵をしまう。

 中には彼らがいる。薄暗い明かりがある。話し合う人々と、音楽に耳を貸している人間がいる。暗闇の中にある白いベッドで、男女がマリファナを分けあっている。アツコはそこにいる。安っぽい紫色のソファにけだるそうに腰掛けて。彼女はいつでもそこにいる。マリファナと酒にまどろみ、誰かの質問に答え続けるために。

 「ずいぶん堕落してしまったのね」

 「なんだって?」

 「堕落したわねって言ったのよ、堕落」

 僕は壁に手をついた。

 「君になにがわかる?」

 「誰にだってわかるわよ。鏡を見てごらんなさい」

 「じゃあ君は?ここでずっと何をしているんだ?」

 「あなたを待っていたのよ」

 「なんのために?」

 「質問に答えるためよ」

 「質問なんてないよ」

 「そう?モリのことを聞きに来たのだと思ったけど」

 僕は何も言わなかった。

 「いくら貸してるの?」彼女は言った。

 「金なんて貸してないさ」僕は嘘をついた。

 「あらそう。珍しいわね、けどどうして?」

 「どうして?金を貸す必要がないからさ」

 「貸してくれと何度もせがまれたのに?あなた、意外と薄情なのね」

 「せがまれてなんてないさ。彼はきちんとした男だ」僕はさらに嘘をついた。

 「珍しいわね。本当に?」

 「嘘なんてつかないよ」

 「彼のことどう思うの?」

 「彼は立派な男だよ。前にここでそう言っただろう」

 「今もそう思ってる?」

 「何が言いたい?」

 「あなたがまだここに来る前――つまり、ここのパーティーのことだけど、モリはその頃からここに良く来ていた。その頃の彼といえば、今とは似ても似つかない。長い髪に、生やしっぱなしの髭。いつ会っても酔っていて、誰にでも金をせびる情けない男」

 「まさか」と僕は言う。

 「モリは芸術が好きだった。というより、芸術論が好きだったのね。誰かに向かって美学を語り、興奮して演説する。そういう時の彼は自分が大勢集まった聴衆の前に立っていると思うんだわ。ところが、彼の美学はどこにも辿りつかない。作り手でも無ければ、ましてや理論に一貫性もない。あるのは聞き手を驚かせて、怯えさせ、自分に注目させようという下心だけ。彼は注目が欲しいだけなのよ」

 「まさか」と僕は言う、再び。

 「知らないのはあなただけ。彼はずっと前からそうなのよ」

 「ずっと前から?」

 「あなたの知っている今のモリよ。彼はずっと前からああいう風なの。堕落していて、退屈で、ホラ吹きの。それが真実よ、あなたの知りたがっていた」

 まさか、これは口に出さなかった。

 彼女はマリファナに火を付けた。煙を吸込み、彼女はスローモーションでにやりと笑う。煙を吐き出すと、重くなった重力で深くソファに沈み込む。彼女はベタついたまぶたで瞬く。舌をぴちゃぴちゃ言わせて、下半身を揺れ動かす。湿った肉の臭い。

 「ワイン取ってくれる?」アツコがテーブルのそばにいる女に言う。

 「まだ飲むの?あなた死ぬわよ」

 ふうん、と言ってアツコはソファで丸くなって眠り始めた。








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