第六章:盗まれたファイルと真のイニシャル
数日後、雅史の仕事場で、以前にも増して重要なセキュリティ・プロジェクトのファイルが消えた。
今回は、外部からのアクセスではなく、内部の人間による、完全なデータ消去だった。
雅史は、すぐに栞を疑った。
彼女は、雅史が寝静まった後、仕事場のドアの前で立ち止まることがあった。
「栞さん、君は俺の仕事場に…」
「入っていません」
栞は、雅史の目をまっすぐ見つめた。
「でも、雅史さん。あなたの周りに、あなたを陥れようとしている人間がいることを、あなたは気づいているはずです」
栞は、自分の机の上にあった古びた文庫本を雅史に差し出した。
「私はこの本をずっと読んでいました。そして、父の筆跡を分析したんです。父が最後に書き残したイニシャルは、M.A.。そして、その意味を調べました」
栞は、雅史の目の前で、一つの名前を口にした。
「真犯人は、美奈子(Minako Asano)です。母の旧姓です」
雅史は、激しく動揺した。
「まさか…美奈子さんが? なぜ?」
「私の母は、父が亡くなった後、すぐに再婚し、地方へ行きました。それは、父の死から逃げるためだった。そして、父の死に雅史さんが関わっていると疑っている。…父の遺言には、『美奈子を信じるな。彼女は、愛する人を奪ったお前を絶対に許さない』とあったんです」
栞は、さらに続けた。
「母は、雅史さんを父の死の間接的な原因だと考え、復讐するために私をあなたの元に送り込んだ。私に、あなたの機密情報を盗ませ、社会的に抹殺しようとしたんです」
雅史の頭の中で、大逆転の物語の構造が明確になった。
彼は、恩人の娘である栞を守るべき対象だと思っていた。
しかし、彼女の母親は、雅史の恩人殺しを疑い、娘を使って雪辱を果たそうとしていたのだ。




