ランドセルの少女 【月夜譚No.312】
苺のキーホルダーが印象的だった。黄色い帽子が楽しそうに跳ねる度、赤いランドセルにつけられたそのキーホルダーも意思を持ったように踊る。
小さな後ろ姿は、スキップでもしそうなほど喜びに満ちている。そんな雰囲気が、見る者を魅了するのだろう。
会社帰りの暗い道。こんな時間に小学生が一人で歩いているなんてあり得ないのに、彼女は微笑ましくそれを見て、思わず後に続いた。数メートル行った先ではたと思い留まり、街灯の下でヒールを鳴らして立ち止まる。
小さい頃、噂に聞いたことがある。
夜、一人で外にいると、赤いランドセルの女の子が楽しげに歩いているのに出会す。それを見た者は自然と後をついていきたくなり、町中を歩かされるのだ。疲れても何故か足は止められず、もう夜は明けてもいいはずなのに、一向に辺りは明るくならない。そうやって限界まで連れ回され、朝方、変わり果てた姿で発見されるという。
彼女がゾッとして二の腕を摩ると、前を歩いていた少女が振り返った。瞳の大きな、可愛らしい顔だ。
噂は噂でしかなかったのかとほっと息を吐こうとした時、少女はにんまりと笑った。血のように真っ赤な大きな口を開け、先ほどまでの可愛らしさが嘘のように醜い顔になる。
そして、血の気が引いた彼女を置いて、少女は変わらず楽しそうに夜に消えていった。
彼女は暫く、街灯の灯りの下から出られなかった。