映画
三題噺もどき―よんひゃくさんじゅうなな。
窓ガラスを叩く音が聞こえる。
昨日からの雨は、止むこともなく今日まで降り続いている。
大雨というよりは、延々と小雨が降っている感じ。
「……」
おかげで外からの光は得られず、カーテンを閉め切って部屋の電気をつけている。
これでも眩しすぎないように調節したのだけど……いっそ切ってもいいが。
本を読むには暗すぎる。
「……」
しかし本を読んでいると、やけに眩しく感じてしまう。
そのせいか、今日はあまり集中が続かない。
苦手なジャンルのものでもあるまいが、内容が全く入ってこない。
文字の上をつるつると視線だけが滑っていくだけの感覚。
「……ふぅ」
これ以上ながめていても、下手に疲れるだけな気がする。
ので、一応しおりを挟み、本を閉じる。
机の上に置いてあったコーヒーコーを一口飲み、一呼吸置く。
「……」
ぎ―と椅子が軋む音がしたが、気にせず体重をかけ、視界を天井に移す。
本を読む気にはならない、かと言ってこうしてぼうっとしているのも今は違う気がする。
それでも、他に何かをするかといえば、やることなんてたかが知れている。
雨が降っている以上外出は出来ないし、したくない。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ぁ」
意識までぼうっとし始め、このまま寝てしまおうかと思った。
が、はたと一つ思いだした。
そういえば、配信サイトで見たい映画があったのだった。
「……しょ」
そうと決まれば、動くことにしよう。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、本とコーヒーを手に取る。
コップは適当にキッチンに置いておく。あとでまた淹れなおそう。
「……」
自室に戻り本棚に本を戻しておく。続きは明日にでも読もう。
そして、パソコンと棚に置いてあった箱を手にリビングへと戻る。
ついでに電気も消してしまう。
我が家にテレビはないが、小型のプロジェクターはあるのだ。
なぜかは知らないが……大方何かの勢いで買ったのだろう。
「……」
設定は簡単に終わるので、すぐに壁に映す。
こういう時白い壁でよかったと思うよなぁ……賃貸なんて大体白か。
色々と調節し、くっきりと見えるようになる。
作品を探すのは、パソコン画面で行う。
「……」
ジャンルは何になるのだろう……ヒューマンドラマという所か?
あまりその辺の区分けは知らないが、この手のものは久しぶりに見る。
私の映画の選ぶ基準としてあるのが、広告に惹かれると言うのがあって。それのおかげかは知らないが、よく見るのは洋画のホラーものばかりだ。あの辺は見せ方が上手いというか、怖いもの見たさが勝ると言うか……。
「……」
その点で見ると、この作品は珍しくホラーではない。
主人公の少女の一生を描き出すものだ。
生まれてから死ぬまでの、少女の一生。
「……」
小さな港町に住む少女。
狭い世界で生きていく中で、様々な悩みを抱えていく。
このままの生活で良いのか、このままこの港町で死に行くのか、このまま何も知らないままに一生を終えるのか。
同じような悩みを抱え、変わってしまった友に裏切られ。
それでも、少女は悩み続け、抱え続け、考え続け。
必死にもがき、苦しみ、正しいとも分からぬ答えになんとかたどり着き。
答えを証明するように生きて、生き抜いていく。
「……」
正直、どうしてこの映画を見たいと思ったのかあまり分かっていない。
少女に共感するところがないでもないが、こんな生き方は出来ない。
映画の中の英雄のような、主人公になれるような生き方は、夢のまた夢のようなものだ。
「……」
それでも何か引っかかるものがどこかにあったのかもしれない。
他人の一生を参考になんてできる身ではないが。
思うものがないわけでもないし。
全部見終わってしまえば、何かが少し変わるかもしれない。
「……」
そんなものは期待していないが。
たまには、こうして映画を見るのも悪くない。
その程度で今はいいだろう。
お題:変わってしまった・悩み・港町