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強くなりたい②

 

side 黒月 一輝


 昼休み、南校舎非常階段。

 ここ南校舎は実習棟で、人の出入りがほとんどないため、一人で過ごすにはちょうどいい場所だ。

 踊り場の階段に座り、登校中にコンビニで買った昼食を食べていると、階段を登ってくる足音が聞こえてきた。


「黒月くんごめんね! 待たせちゃった?」


「いや、大丈夫だ。それより随分早いな。昼食は食べたのか?」


「うん。それは大丈夫!」


 そう話す皇は、軽く息を切らせている。

 ここまで走って来たのだろうか。

 昼休みも始まってまだ15分も経ってない。

 まさかこんなに早くやってくるとは思わなかった。


 そんなに聞きたいことがあるのか?


 とりあえず、朝コンビニで一緒に買ったペットボトルのお茶を差し出す。


「遠くまで悪かったな。これ飲んでくれ。まだ封は開けてないから大丈夫だ」


「え!? そ、そんなの悪いよ。私のことは気にしなくていいから」


「俺が気になるんだ。だから、俺のためだと思って受け取ってくれ」


「そ、そう? なら、うん。ありがと」


 両手を前に出して遠慮する皇に、半ば強引に押し付ける。

 すると、皇も観念したのか、両手で大事そうにお茶を持ち、飲み始める。


「ふふ、おいし」


 一口飲んだあと、皇は嬉しいそうに笑う。

 大袈裟だなと思いつつも、渡した身としては悪くない気分だ。

 その様子を見ながら、一息ついたタイミングで話を切り出す。


「それで、何か聞きたいことがあるんだろ?」


「あ、うん! そうなの! ......あれ? なんだっけ?」


 どうやらド忘れしたらしい。

 腕を組みながらうんうん唸り始める。

 少しだけ左右に揺れている頭の上には、疑問符が浮かんでいそうだ。

 こういう少し抜けたところも、人気の理由なんだろう。


「......あ! そうだ! 私、黒月くんみたいに強くなりたいの! どうすればいいかな?」


 そう元気よく告げられた質問の内容に、今度は俺が頭を捻ることになった。

 俺みたいにと言われても、皇は魔法使いだ。

 戦い方が違う。

 それに、強くなりたいってのも漠然とし過ぎだ。

 しかし、当の皇の表情は真剣そのもの。おそらく本気で強くなりたいんだろうって気持ちは伝わってくる。

 なら、まずは皇に自分の目指す姿をハッキリと自覚させるところからだろう。

 一言に強さと言っても、強さには種類があるからな。


「ちょっと聞きたいんだが、俺のなにが強いと思ったんだ?」


「なにが強いって、強い敵を倒しちゃうところだよ」


「俺の戦い方は、速さと手数だ。皇がなりたい強さも同じってことでいいのか?」


「え、そう言われちゃうと、なんか違う気がする」


「強さにも種類があるんだ。一撃で圧倒する強さ。手数で圧倒する強さ。様々なスキルを使い圧倒する強さ。皇がなりたい強さってどんな強さなんだ?」


「あ、そういうことか。私がなりたい強さ......」


 こういうのはしっかり悩んで、自分で決めた方がいい。

 その方がやる気も出るだろうしな。

 それに、これから関わることがほとんどない俺がしてやれるのは、道筋をつけてやることくらいだろうから。


「......正直全部って言いたいけど......うん。決めた! 黒月くん! 私、一発でなんでも倒しちゃう魔法使いになりたい!」


「いいんじゃないか。一番わかりやすい強さだ」


「だよね!」


 さて、皇は威力特化型を選んだか。

 一番単純でわかりやすいが、素質が必要な部類だからな。

 とりあえず、ステータスがどんなものなのか確認しないとだな。


「じゃあ、まずは皇のステータスを確認したいんだが、スマホと連動させてたりするか?」


 マギアにはステータス確認やクエスト受注、フレンドからの通知などの簡易操作をログインしなくても出来るように、自分のスマホと連動させる機能がある。

 この機能を使っていれば、ある程度の情報ならいつでも確認出来るようになっている。


「うん、してあるよ。私のはこんな感じ。どうかな?」


「あ、いや、見せなくていい。あんまり人にステータスは見せない方がいいぞ。聞いたところだけ読み上げてくれればいい」


「え、そうなの? わかった。でも黒月くんなら全然見てくれていいのに」


「......それは、どうも」


 なぜか皇からの信用度が異常に高い。

 まともに話したのは昨日が初めてな気がするんだが。

 なんか悪いヤツに騙されないか心配になってきた。


「じゃあ、ステータス欄の属性の色と、戦型(バトルタイプ)が何か教えてくれ」



 *【『属性』と『戦型(バトルタイプ)』】*

 マギア内のプレイヤーやモンスターは各属性に分けられている。

 属性には 赤・青・黄・緑・白・黒・無の7種類があり、プレイヤーは無を除いた6属性に分けられている。

 スキルや魔法は各属性に振り分けられていて、例をあげると


 赤→火

 青→水・氷

 黄→土・岩・鉱物

 緑→風・雷・植物

 白→光

 黒→闇

 無→無・毒・重力


 となっていて、自分の属性攻撃使用時は威力が上昇するが、それ以外の属性攻撃使用時は通常威力となっている。

 無を除いた6属性には優劣属性が存在している。

 赤・青・黄・緑の4属性は4すくみの関係で、赤は緑に、緑は黄に、黄は青に、青は赤に対して有利な関係となっている。

 白と黒は対立属性でお互いが有利不利な関係になっている。

 ただ、プレイヤー属性に関しては弱点は無く、赤属性のプレイヤーが青属性の攻撃に弱いということはない。


 戦型(バトルタイプ)は3種類あり、それぞれのプレイヤーは活動型・不動型・柔軟型に分けられている。


 活動型は攻撃時、威力に補正がかかる。


 不動型は防御時、耐久に補正がかかり、強力な攻撃、致命の一撃を受けても稀に体力を残し、耐えることがある。


 柔軟型は移動速度に補正がかかり、スキル使用時に再び同じスキルを使用できるまでの時間(クールタイム)を軽減する。



「えっと......属性が赤で戦型は活動型になってるよ」


 赤属性の活動型か。これは化けるかもな。


 赤属性の特性として、他の属性よりも威力が高い魔法が多い。

 皇の一発で! という願いに一番合っている属性でもある。

 活動型は攻撃魔法に威力補正がかかるから、こちらも皇の願いに合ってるものだ。


「それで、これってどうなのかな?」


「赤属性は威力が高い魔法が多いし、活動型は魔法の威力が上がる。いい組み合わせだと思うぞ」


「ホントに!? やった!」


 あとは皇のやる気次第だな。


「それじゃあ今度は育て方なんだが、レベルが上がる時ステータスが上がるだろ? 各ジョブごと、レベルが上がる時に決まった数値が上がるんだが、それとは別に、努力値と呼ばれるものがあって、それが+aとして加算されるんだ」


「努力値? +a? ごめん。もう少しわかりやすく教えてくれると嬉しいんだけど」


 皇の頭から煙が出始めたな。

 こういうのは口で説明するよりも実際にやった方が覚えやすい。

 今回はさわりだけにしておくか。


「そうだな......レベルが上がるまでに何をしていたかが重要ってことなんだ。例えば魔法使いの皇がレベルが上がるまでひたすら杖で敵を殴って倒したとするだろ? するとレベルが上がった時に決まった数値+(STR)のステータスが上がるってことなんだが、これはわかるか?」


「えっと、私が物理攻撃で敵を倒していたから、(STR)が上がったってことだよね?」


「そうだ。そこに『敵の攻撃を避けながら』を追加すると、(STR)敏捷性(AGI)が上がるわけだ。上がる割合は自分がどちらを重要と捉えたかで変わるな」


「なるほど。それが努力値かぁ。なら、私はひたすら魔法を使って敵を倒せばいいってことかな?」


「そういうことだ。ただ、魔法を使う時は、全力を意識してやって欲しい」


「えっと、普通に魔法を使うんじゃなくて、全力で魔法を使うのには、何か意味があるってこと?」


「それも説明しないといけないんだが、今話してもパンクしそうだからな。また今度説明する」


「うっ。助かります」


 魔法を使いまくれとは言ったが、それには十分なMPが必要になる。

 皇はまだマギアを始めたばかりで所持金もあんまり無いはず。

 それでやりくりしろというのは、さすがに酷だろう。

 なら、ここは言い出した俺がなんとかするのが筋だろうな。

 ちょうど低級回復アイテムがストレージを占領してきたから、今回はそれを使ってもらうか。


「あとでギフトボックスに、MP回復アイテムと魔法使いに役立ちそうなアイテムをいくつか送っておくから、ログインした時にでも回収してくれ」


「ええっ!? そ、そんなの悪いよ! 私、始めたばかりだし、黒月くんになにもお返しできないよ!」


「俺が使わないものを渡すだけだから、お返しはいらない。それに魔法を使えって言ったのは俺だ。だから遠慮せず受け取ってくれ」


「うぅ。なにからなにまで本当にありがとう。私、絶対強くなって黒月くんに恩返しするから!」


「ああ。期待して待ってる」


「うん! 任せて!」


 もうすぐ昼休みが終わる時間だし、今日はこんな所だろう。

 一緒に戻ると色々面倒だし、皇には先に戻ってもらうか。


「そろそろ予鈴が鳴る時間だから、皇は先に戻ってくれ。俺はあとからゆっくり戻らせてもらう」


「あ、そうだよね。じゃあ、先戻るね。......あの、黒月くん、明日もここに来て、いいかな?」


「ん? ああ、別にいいぞ。いつも昼休みはここにいるから、今度はゆっくりでいいからな」


「ありがとう! それじゃあ、先行くね! 黒月くん、また教室で!」


 皇は笑顔でこちらに手を振ると、駆けるように階段を降りて行く。

 明日も来るなんて、皇は本当にマギアが好きらしい。

 やる気もありそうだし、正直どこまで強くなるか楽しみではあるな。


 皇がいなくなってからしばらく、俺は本鈴が鳴るギリギリを狙い教室に戻った。

お読み頂きありがとうございました。

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