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襲撃イベント②

いつもお読み頂きありがとうございます。

 

side 黒月 一輝


「あ。あれって......ねえねえ、あそこ見てみてよ!」


 ハルカがまた何かを見つけたようだ。

 本当に色々見ているな。

 指を差した先は、先程と同じく空中戦を繰り広げている場所。

 今度は何を見つけたのか。


「......どれだ?」


 わからない。

 さっきと同じように見えるが。


「あれだよあれ! あの飛び回ってる人。あれってあの子じゃない?」


 ハルカが指を差した先には、確かに飛び回っているプレイヤーがいる。

 言われてみれば見覚えがある。

 ギルド本部で話しかけてきた少年だ。

 名前は確か、エミールだったか。


「あの子、獣装使ってないのにすごく強いね。どんどん倒してるよ」


「そうだな」


 視線の先では、エミール少年がまたエルダーガーゴイルを仕留めている。

 背後に回り一撃で仕留め、また別のエルダーガーゴイルの背後へ移動......を繰り返している。

 無駄のない動きと正確無比な攻撃。

 かなりの上級者だ。

 おそらく海外のランカー。それも上位の。

 俺達が知らなかっただけで、やはり有名な人物なのかもしれない。


「なんか動きがクロに似てるね。もしかして同じジョブかな?」


 素早い移動と無意識下からの攻撃。

 隠密に特化した身のこなし。

 ハルカがそう感じるのも無理はないが、俺からすれば差異が多々感じられる。


「いや、似ているが違う。おそらく忍者系のジョブだろう」


 武器は反りのない直刀、忍者刀を使っているようだ。

 刀身が黒い。おそらく【黒刀】シリーズの一振り、【鴉】だろう。

 なかなか良い武器を使っている。


「あー、忍者かぁ。言われてみれば確かにそうかも。やっぱり忍術とか使うのかな? ちょっと見てみたいかも」


「いくつか使ってるぞ」


「そうなの?」


「瞬身之術、影渡之術、天誅の3つだな。全て忍者固有のスキルだ」


 瞬身之術と影渡之術は移動系スキル。

 天誅は無意識下なら、100%クリティカルが入る強力な攻撃スキルで、俺が使うバックスタブを凶悪にしたようなスキルだ。


「もっと派手なのが見たいんだけどなぁ。火遁とか火がボワッて出る感じのやつ」


「それは、使わないだろうな」


 そういったスキルももちろんあるが、隠密とは真逆のスキルだからな。

 今回は使わないだろう。


「あ、終わったみたいだよ」


 エミール少年により、最後のエルダーガーゴイルが倒された。

 これで襲撃イベントは終わりだ。

 これから5分後に飛空艇は再運行を始めるようになる。


 飛空艇の外に出ていたプレイヤーが続々と戻ってくる。

 デッキの上では、各々がステータスボードを開きリザルトを確認している。

 それを見ていたハルカが、思い出したように声を上げた。


「あ! ドロップアイテム拾ってなかった! ......ってあれ? アイテムって、落ちてたっけ?」


「いや、落ちてはないぞ。でもちゃんと獲得はしているはずだ。ストレージを覗いてみるといい」


「え、そうなの? ちょっと見てみる......あ、ホントだ。ちゃんと入ってる」


「だろ? 今回は空の上での戦闘だからな。アイテムがストレージに直接入るようになっているんだ」


「へぇ、そういう場合もあるんだね」


 空中戦や水中戦など、物理的にアイテムが拾えない場合、ドロップしたアイテムは直接アイテムストレージに入る仕様になっている場合が多い。

 アイテムを取ろうとして死にましたじゃ、クレーム案件だからな。



「襲撃イベントお疲れ様でした」


 そんな俺達の元にエミール少年がやって来た。

 迷いのない足取りで向かってきたところをみると、俺達が見ていたように、エミール少年もこちらに気づいていたのだろう。


「お疲れ様。ファフニールじゃなくて残念だったな」


「あはは。そうですね。でも、色々な方と知り合いにもなれましたし、楽しかったので僕は満足していますよ」


 エミール少年は笑顔で答える。

 人の良さが表れる言葉だ。

 それに、人気者特有の雰囲気も感じる。

 悪感情とも無縁そうだ。俺とは真逆だな。


「でもホントに強いね。ここで戦ってるとこずっと見てたけど、敵をどんどん倒してっちゃうし、ホント驚いちゃったよ」


 ハルカも似たように感じているのだろう。

 普段に近い、素の対応で接している。

 飛行場に向かう途中も、エミール少年のことをいい人と評してた。

 俺の中でハルカは、割と警戒心が強いイメージだが、初日からこの対応はかなり破格ではないだろうか。

 名前も似ているし、まさに非の打ちどころのない、模範少年といったところだろう。

 もちろん良い意味で。


「うわぁ。ありがとうございます。まさかハルカさんにそう言ってもらえるなんて思ってなかったので感激です」


「え? 私のこと知ってるの?」


 驚いた。

 どうやらエミール少年はハルカを知っているようだ。

 これにはハルカも驚いた様子。

 当然だ。

 ハルカの名前が広まったのは最近。GENESISとの騒動がキッカケだ。

 この短期間に、しかも海外サーバーのプレイヤーがハルカを知ってるというのは驚く他ないだろう。

 そんな俺達を前に、エミール少年は当然だとばかりに頷いてみせた。


「はい。ギルド本部で会った時から、そうかな? とは思ってたんですけどね。顔を隠していたので触れない方がいいかなと思いまして」


「え? あ! やばっ!」


 ハルカが慌ててフードを被る。

 エミール少年の言葉で、顔を晒していることを思い出したらしい。

 この慌てぶり。この短時間でフードの良さにハルカも気づいたのかもしれない。


「えっと、それで、なんで私のこと知ってるの? 私、別に有名でもなんでもないと思うんだけど」


 尤もな疑問だ。

 現時点でハルカは特別なことをなにもしていない。

 逆に、知っていることの方がおかしいと感じてしまうくらいのものだ。


「僕の友人がハルカさんのことを大好きなんですよ。それでよく写真を見せられていて。でも、実際会ってみたら、写真よりもずっと綺麗な人で驚いちゃいました」


 綺麗な人か。

 純粋な気持ちからの言葉だというのは顔を見ればわかるが、ハルカといい、よく面と向かってそんな言葉を平然と言えるものだ。

 これが人気者たる所以なのだろうか。

 俺には到底真似できないな。


 それにしても、ハルカを大好きなやつか。

 すでに海外にファンがいるとは驚きだ。

 それだけの魅力が、ハルカにはあるということなのだろう。

 まぁ、わからなくはないが。


「あはは。ありがとう。でもそっかぁ。私も有名人になっちゃったなぁ」


 表情はフードで隠れて見えないが、声の感じ別段嬉しそうでもなさそうだ。

 社交辞令と捉えているのだろう。

 本音だと思うのだがな。

 しかし、ハルカはなぜこちらを見て話しているんだ?

 人気という点なら、元々ハルカの圧勝だろうに。


「それでお二人共、よかったら僕と連絡先を交換しませんか?」


 気さくな感じで、エミール少年が提案してくる。

 正直悪い話ではないと思う。

 海外のプレイヤーと繋がりを持てるのは、こちらとしてもメリットがある。

 それに、今日初めて会った相手だが悪い印象もない。

 むしろ、好感すら持てる少年でさえあるが。


「すまないが。遠慮させてもらう。気持ちは嬉しく思うが」


 何かが引っかかる。

 ハッキリとはわからないが。

 他に何か理由があるような、そんな気がしてならない。


「ごめん、私も。連絡先はちょっと」


 続くハルカも断りの言葉を告げる。

 これには少し驚く。

 てっきり交換するものかと思っていた。


「そうですか。残念ですが仕方ないですね。では、僕はこれで失礼します。クロさん、ハルカさん、また会いましょう」


 エミール少年は一度頭を下げると、元いた場所へと戻っていく。

 しかし、それもつかの間、思い出したようにこちらを振り向く。


「すみません、忘れてました。セツキくんとセツカさんによろしくとお伝えください」


 それだけ言うとエミール少年は元いた場所に戻っていった。

 セツキとセツカの知り合いだろうか?

 そんな話は一度も聞いたことはないが。


「あの子、セツキくん達の知り合いなのかな?」


「いや、聞いたことはないな」


 ハルカも心当たりはなさそうだ。

 なら、また本人に聞いてみるか。


「そういえば、なんでハルカは連絡先を交換しなかったんだ?」


 先程気になったことを聞いてみた。

 悪い印象もなかったし、気が合いそうにも見えたから、喜んで交換すると思っていたのだが。

 正直意外だった。


「さっきのこと?」


「ああ」


「クロだって交換しなかったじゃん」


「まぁ、そうなんだが」


 それを言われると返す言葉がない。


「ふふ。冗談だって。えっとね、前にクロが私に、付き合う相手はしっかり選べって言ってくれたの覚えてる?」


「ああ、覚えてる」


 あれは確かクラスマッチの時だったか。

 これから有名になっていくであろうハルカに、アドバイスというか助言的なモノをした時に言った言葉だ。


「だからかな。良い子そうだけど、どういう子なのかちゃんとわからないし、それまでは止めた方がいいかなって」


「なるほどな」


 良い人そうだからで、むやみに関係を広げるのはあまり良くない。

 その相手が良い人でも、その知人が良い人とは限らないからだ。

 ただ、関係を狭め過ぎると俺のようになってしまうから、そこの見極めは必要だが。

 まぁ、ハルカは俺とは根本的に違うから、その辺の心配は必要ないだろう。


「でも、やっぱり一番は、簡単に連絡先を交換するような女って思って欲しくないからかな」


「ん? 誰にだ?」


「それはク......す、好きな人にとかだよ。ほ、ほら、もしもクロに彼女がいたとしてさ、その子が他の男の人と平気で連絡先を交換しちゃうような人だったら、嫌でしょ?」


 うーん。

 俺に彼女がいたとして。

 その彼女が、他の男と平気で連絡先を交換してたらか......


「......まぁ、確かに。嫌か」


「でしょ! そういうことなんだよ!」


「なるほど」


 そういうことらしい。

 確かに嫌ではあるが、本音を言えば、そこの心配はあまりしていない。

 むしろ、本人がそうしたいなら、それでもいいとすら考えているのだが、俺の感覚がおかしいのだろうか?

 それとも、本当に彼女ができたとしたら、考え方が変わるのだろうか?

 独占欲なども生まれたりするだろうか?

 いや、そもそも俺に彼女なんて......


「............」


 いや、待て。

 俺は今、彼女と聞いて誰を思い浮かべた?

 なんの迷いもなく、当たり前のように。

 誰のことを考えた?


「ん? どうしたの?」


「ああいや、なんでもない」


 なるべく平静を装って答える。

 顔を隠していて助かった。

 声は装えても、顔までは装える自信がなかったから。


「......ふーん。あ、もしかして、さっきの男の子のこと考えてた?」


「まぁ、そんなところだ」


 このことは誰にも知られるわけにはいかない。

 それこそ、目の前にいる相手には絶対に。


「ふふ。やっぱり。最近クロがなに考えてるかわかるようになってきたんだよね」


「ああ、驚いたよ」


 忘れなければ。

 それがお互いにとって、一番いいはずだ。


 その後、何事もなく船は再出航した。

 ハルカは相変わらず楽しそうで、見える建物、街並み、変わりゆく景色に大興奮といった感じだった。


 当然、相応に質問も多く、内心冷や汗をかく場面もあったが、乗ってよかったと思えるくらい有意義な時間を過ごすことができた。

 もしもまた、ハルカに誘われるようなことがあれば、乗りたいと思う。

 その時は質問少なめで頼みたいが。


 その後、無事フヨウ山へ到着した。

 襲撃イベントのパーティーは、次のセントラルエリア行きの船に乗り、もう一度チャレンジするそうで、ここで別れる形となった。

 当然エミール少年も参加するようで、会話は出来なかったが、ハルカと手を振り合っていた。


 そして、フヨウ山の飛行場入口。


「クロ先輩、ハルカ先輩、お疲れ様です」


 セツキが俺達二人を出迎えた。


お読み頂きありがとうございました。

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