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席替え

side 皇遥


「みんなおはよー! あ、鈴木くん、昨日はありがとね」


 いつものようにクラスメイトにあいさつしながら教室に入ると、鈴木くんを見つけたから昨日のお礼を伝える。


「あ、皇さんおはよう。全然いいよ」


「......おい翔吾、お前遥と何かあったのかよ?」


「え? いや、マギアで一緒になっただけだけど......」


「は? もしかして2人でか?」


「まぁ、そうだけど......」


 私と鈴木くんの会話を聞いた佐藤くんが鈴木くんの肩に腕を回し、集まってきた友達と一緒にコソコソと何か話し始めた。


 こういう男子のノリって友達みたいな感じでいいなぁ。なんて思いつつ自分の席に着くと、直美が話しかけてきた。


「遥おはよー。昨日鈴木と何かあったの?」


「おはよう直美。鈴木くんとは昨日マギアで会ったから一緒にキスレ平原に行っただけだよ」


「なるほどねぇ......」


 私の受け答えを聞いた直美は、今も質問攻めに遭っている鈴木くんを見ながら呟くとこちらに視線を向ける。


「それにしても遥さぁ、最近機嫌がいいよね? もしかしてなんかあった?」


「え? そうかな? 普通だと思うけど」


 一応誤魔化してはみるけれど、最近は憧れの太陽と月に入れたり、黒月くんとマギアでずっと一緒だったりと嬉しいことばかりだから、直美にはその辺の変化に気づかれちゃってるのかもしれない。


「もしかして、朝から黒月と会えた?」


「うっ......それはダメだった」


 あの日から時間を微妙にずらしながら何回も偶然を装って黒月くんと一緒に登校しようと試みているけど、まだ一回も黒月くんを見かけたことがない。

 もしかして避けられてる? なんて後ろ向きな気持ちになったこともあったけど、マギアの時もお昼休みの時間も普通に話してくれるし、たぶん本当に偶然会えないだけだと思うことにした。


「ふーん。いっその事アタックしちゃえばいいのに。遥に告られて断る男いないでしょ」


「いや、いやいやいや。そんなの無理だって。黒月くんに避けられたくないもん」


 直美は知らないし教えることも出来ないけど、黒月くんはあの太陽と月のクロで、私なんかじゃ全然釣り合わない雲の上の人だ。

 そんな黒月くんが私の為に時間を作ってくれている。

 今はそれだけで十分幸せだし、そんな黒月くんを告白なんかして困らせたくないし避けられたくもない。


「まぁ黒月って何考えてるか分からないし、遥がフラれることも有り得るかー」


「有り得るというか絶対フラれちゃうから。って、そもそも私、黒月くんのことそういう気持ちかまだわからないし......」


 この前ミミさんが来てくれた時も似たような事聞かれたんだけど、上手(うま)く答えられなかった。

 だってそういう気持ちになったことないし、黒月くんへの気持ちは他のと違うっていうのはわかるんだけど、そういうのなのかはまだハッキリわからない。


「はぁ......あんたまだそんなこと言ってんの? はいはい、わかったわよ。てゆーかさ、黒月が理由じゃないならなんで最近そんな楽しそうなのよ?」


「え? あー、それは......ごめん、言えない」


 そっちの理由も黒月くん絡みで「私、太陽と月に入りました! 黒月くんと一緒にマギアやってます!」なんて口が裂けても言えない。

 事実を口にできない私は直美に謝ることでその場をやり過ごすことしかできなかった。


「まぁ言いたくないなら追求はしないけどさぁ。遥、前も言ったけど怪しいパパ活とか変なことしてないよね?」


「な、何言ってるの!? 当たり前だよ! 絶対そんなことしないよ!」


「ふーん。なら、いいんだけどさ......」


 あんまり納得してない直美にどう説明しようか考えてる所で、先生が教室に入ってきてホームルームが始まってしまった。


「今日は一時限目までの時間を使って、前回のテスト結果を踏まえた席替えを行います」


 挨拶が終わった後、先生の席替えという言葉で教室が普段より騒がしくなり、クラス中からヒソヒソと友達と話をする声が聞こえてきた。

 もちろん私もそんなクラスメイト同様内心ウキウキな気持ちで期待に胸を弾ませている。


 もしかしたら黒月くんの隣の席になれるかも。


 うちのクラスはテストの成績が高い人から好きな席を選んでいくやり方で、マギアのこともあった私は今回のテストの成績は普段より高い。

 狙うはもちろん黒月くんの隣の席。

 隣の席がダメでも絶対近くに座ってみせる。

 私が密かに闘志を燃やしている中、先生が成績上位者の名前をあげていく。


「まずは成績が高かった5名の名前をあげます。吉村、河野、黒月、若林、田嶋、名前を呼ばれた者は前に来て好きな席を選んで下さい」


 ええ!? 黒月くんって頭良かったの!?


 いつも通り無気力な感じで前に出てきた黒月くんは他の4人と一緒に黒板に描かれた座席の場所を見ながら話し合っている。

 マギアであんなに強いし、あの太陽と月のメンバーだから多忙で勉強なんてしてる暇ないって勝手に思い込んでいたけど、まさかクラスで3番目に頭が良いなんて知らなかった。


 あ、黒月くんは元の席から移動しないんだ。


 いつの間にか終わっていた話し合いで黒月くんはそのままの席から動かないことに決まったみたい。

 きっと移動が面倒くさいとかそういう理由だろうなと思う。

 黒板を見た感じ、まだ両隣りは空いているから次で名前が呼ばれれば隣になれるチャンスがグッと近づく。


「それでは次の5人の名前をあげます。河西、平林、谷口、相澤、今井、呼ばれた者は前に来て席を選んで下さい」


 あぅ。ヤバいヤバいどうしよう。どうか黒月くんの隣を誰も選びませんように!


 ここで次に名前を呼ばれないともう黒月くんの近くは絶対に無理だ。

 呼ばれた5人が前で話し合っている間、両手を組んで目をつぶる。

 しばらくして話し合いも終わったらしく先生が次の5人を呼び始める。


「それでは次の5人の名前をあげます......」


 来て! お願い! 私の名前......


「南澤、皇、加藤、岡野、清水、呼ばれた者は前に来て席を選んで下さい」


 き、来た!


 他の4人と一緒に前に出て黒板を確認する。

 既に黒月くんの左隣と前の席は埋まっていて残るは右隣の席のみ。

 加藤くんを中心に話し合いが進む中、最初は加藤くんを含む4人がその席を狙っていたけど、気を使ってくれたのか加藤くんが「ぼ、僕は違う所でいいよ」と言ってぎこちない笑顔で譲ってくれた為、黒月くんの右隣の席を賭けて争う相手は南澤さんと清水さんになった。


 ここは絶対負けたくない。


「では、南澤、皇、清水の3人でじゃんけんをして決めて下さい」


 中々決まらない私達の話し合いに先生が口を出したことでじゃんけんをすることになった。

 南澤さんも清水さんも既に心の準備が出来ているようでやる気満々といった感じだ。

 でも私だって気持ちは2人に負けてない。南澤さん達と対峙するように私が立つと教室中が私達の動向に注目しているようにしんと静まり返った。


「......それじゃあ、始めるよ。最初はグー」


「じゃーんけーん......」




「皇さん、初めて隣の席になるね。これからよろしく」


「うん、田嶋くんよろしくね」


「皇さん、俺もよろしくね」


「うん、今井くんもよろしくね」


 クラスメイト全員の席が決まり先生の号令で移動した席でさっそく田嶋くん、今井くんと挨拶を交わす。

 2人とも嬉しそうな表情をしている。

 一番後ろの席だし、そりゃあ嬉しいか。


「く、黒月くんもこれからよろしくね」


「ん? ああ。よろしく」


 私の左隣で頬ずえをついて座る黒月くんは学校モードだからかいつもより素っ気ない感じ。

 でも今はそれも気にならないくらい私の気持ちは高揚している。

 だってじゃんけんに勝利して黒月くんの隣の席をゲットできたのだから。


「ちょっと遥、私には挨拶ないのー?」


「あ、直美もよろしく。って、なんで直美がそこにいるの?」


「んー? それここで言っちゃっていいのー? 遥がダメだった時の為にわざわざ私が......」


「わー! わー! 直美ありがとう! やっぱり直美は頼りになるなー!」


 私の左斜め前の席に座る直美は、もしも私が黒月くんの近くに座れなかった時に、私と席を交換してくれる為にその場所を選んでくれたみたい。

 慌てて直美の言葉を遮っちゃったけど、黒月くんには怪しまれてないようで一安心。


「まぁそういうことだからさー、黒月もよろしくー」


「ああ。よろしく相澤」


「てゆーか、黒月って頭いいんだねー」


「そ、それ! 黒月くんすぐ名前呼ばれてたから驚いたよ」


「まぁ上の方ではあるな......」


 席替えから始まった新しい関係。

 黒月くんと直美を交えた3人での会話は想像以上の盛り上がりをみせて、あとでクラス中から注目されていたことを直美が教えてくれた。

お読み頂きありがとうございました。

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