セツキのヴェア地下遺跡攻略実況配信②
side 白峰 セツキ
「この階段を降りた先がヴェア地下遺跡、ボスの間になります。それでは降りていきます」
〈ついにきた!〉
〈アイスフィールド使い始めてから余裕だったけど、ボスはどうなんだ〉
〈ボスだから強そう〉
〈ハイゴーレムと同じなら余裕〉
〈セツきゅんなら何が出てきても余裕〉
〈セツきゅん盲信し過ぎで草〉
階段を降りた通路は一本道。
その先には荘厳な装飾の、いかにもな両開きの扉が見える。
門の大きさは7メートル程度。
近づいてみると身長の高さ関係なく見上げることになるこの門。思うことは一つ。
こんな大きい必要あるのかな?
〈いかにもな門〉
〈ボス部屋って感じ〉
〈装飾すごい〉
〈どんなゴーレムが来るんだ〉
「今までと同じく部屋に入ると戦闘が始まります。中のモンスターはナイトゴーレム2体とウィザードゴーレム2体。そしてジェネラルゴーレム1体の5体で、全員ランクB+になります」
〈5体のランクB+か〉
〈ソロで戦う相手じゃないwww〉
〈ついに魔法を使ってくるゴーレムが〉
〈アイスフィールドの足止めは無理そう〉
〈ジェネラルゴーレムもランクB+なんだ〉
「そうですね。大まかな区別としてジェネラルゴーレムもランクB+ですが、ナイトやウィザードよりももちろん強いです。獣装は使いませんが、今回は強化スキルも使って全力で戦わせてもらいます。B+複数相手に手加減できる程、僕は強くないですので」
アイテムストレージから、指の中節までを覆う手甲を取り出して装備する。
〈今でも十分強いと思うが、それでもヤバい相手ってことか〉
〈←考えてみればバフ使わずにここまで来てんだよな。普通にすごい〉
〈ソロでバフなしは十分異常〉
〈獣装使わない時点で手加減とも言える〉
〈え?〉
〈え?〉
〈今まで素手で戦ってた?〉
〈武器使ってると思ってた〉
〈格闘系って基本素手?〉
〈クローとか篭手とかガントレットとかある〉
〈なるほど〉
〈今付けた装備なんか光ってないか?〉
〈文字みたいなエフェクトが出てるな。あれ何語だ?〉
〈神代文字か?〉
〈確かに神代文字ぽい〉
〈たぶんだけどセツキが装備したのは手力雄神の手甲だと思う〉
〈すごいやつ?〉
〈←たしかファフニールの財宝の一つだったと思う〉
〈え?〉
〈超レアアイテムってこと?〉
〈ファフニールって?〉
〈ランクS-の滅多に遭遇しないイレギュラーエンカウントのモンスター。倒すと財宝をランダムでくれる〉
〈解説ニキ感謝〉
〈初めて見たー〉
〈セツキの本気度がわかるな〉
〈セツきゅんかっこいいよ〉
〈凛々しいセツきゅんもしゅき〉
「部屋に入ったらすぐ戦闘を開始しますので、先に流れだけ説明します。最初ジェネラルゴーレムには強力なバフが掛かっていますが、近づかなければ攻撃してこないので、先にそれ以外の4体を倒します。ナイトゴーレムはウィザードゴーレムを守るように動きますが、遠距離攻撃をしてくるウィザードゴーレムを先に倒すのがオススメです。4体のゴーレムを倒すとジェネラルゴーレムのバフが消えるので最後にジェネラルゴーレムを倒します。それでは行きます」
荘厳な両開きの扉を開く。
広さは今までの広間よりかなり広く、赤絨毯が敷かれた室内の装飾は扉に見合った豪華なもので、彫刻の掘られた支柱が両側に並んでいる。
視線の先、部屋の奥には前衛に剣と盾を持ったナイトゴーレム、後衛に杖を持ったウィザードゴーレムが並んでいる。
そして、さらにその後方には、巨大な両手剣の剣先を地に着け、柄頭に両手を添え威風堂々と佇むジェネラルゴーレムの姿が見える。
〈え?あれもゴーレム?〉
〈見た目完全に騎士〉
〈リビングアーマーって呼んだ方がしっくりくるな〉
〈部屋の造りもそうだけど、遺跡というより城だな〉
〈ここだけ今までと全然違う〉
〈B-からB+になっただけで強キャラ感が半端ないw〉
「『疾風迅雷』『剛気解放』『仙勁』」
強化スキルを唱え、左のウィザードゴーレムに向け一直線に走り出すが、すぐにそれを察知したウィザードゴーレムが魔法を放ってくる。
ウィザードゴーレムの2体の魔法は、複数のフレイムランスとアイシクルランス。
どちらも中級の魔法で槍の形状をしているだけあって、風を切るように何本もの炎と氷の槍がこちらに向かって飛んでくる。
〈やばいやばいやばいやばい〉
〈氷柱槍と炎槍かよ〉
〈容赦ないな〉
〈セツキ大丈夫か?〉
〈セツきゅん......〉
〈セツきゅんなら余裕〉
飛来する魔法との距離を見極め、走りながら右手を前に突き出す。
「『アイスシールド』」
前方に出現した3m弱の氷壁へ飛び乗り、それを踏み台にして前方へ跳躍。
後方で氷壁が崩れる音を聞きながらウィザードゴーレムまで残り3分の1の距離に着地、すぐさま走り出す。
〈抜けたああああああ!!〉
〈すげえええええ!!〉
〈すげえ飛んだwww〉
〈つーかセツキめちゃくちゃ早くないか?〉
〈スキル使ってるから今までの比じゃない〉
〈スキルなに使った?〉
〈疾風迅雷、剛気解放、仙勁〉
〈←効果教えてください〉
〈←疾風迅雷素早さ瞬発力高、剛気解放攻撃力高、仙勁クリティカル率高〉
〈サンクス〉
〈助かる〉
〈ありがとう〉
〈ありがとう〉
魔法を全て避けられた2体のウィザードゴーレムは、複数同時魔法から波状攻撃に切り替え、間髪入れずにフレイムランスとアイシクルランスを放ってくる。
「『青闘衣』」
両手を青属性の魔力で覆い、避けきれない魔法槍を受け流すように弾きつつ駆ける。
〈炎槍と氷柱槍すげえ飛んでくるのにセツキのスピードほとんど落ちてない〉
〈必要最低限だけ打ち落としてほとんど避けてるな〉
〈どんな反射神経してるんだよ〉
〈コメが急に少なくなった〉
〈みんな見入ってるんだろ〉
ウィザードゴーレムの目前に迫ると、それを守るようにナイトゴーレムが盾を構え、守りの体勢で立ちはだかる。
「......邪魔です『インパクトブロー』」
スロー映像と見間違えるほど緩やかに放たれた左拳がナイトゴーレムの盾を捉えると、強烈な衝撃が盾を跳ね上げ、ナイトゴーレムの体を大きく仰け反らせる。
その隙に腰を落とし、左手を突き出したまま右手の肘を背中にしめ......
「破っ!!」
右拳を素早くナイトゴーレムの腹部に突き当てる。
青闘衣で覆われた拳から繰り出された突きは、ナイトゴーレムを壁まで容易に吹き飛ばし魔石に変える。
〈え?〉
〈え?〉
〈え?〉
〈何が起こった?〉
〈一瞬でナイトゴーレムが倒れた?〉
〈インパクトブローからの正拳突き〉
〈インパクトブロー説明求む〉
〈←激しい衝撃を与えるダメージ無しのスローパンチ〉
〈ありがとう〉
〈正拳突きは?〉
〈ただのパンチ〉
〈え?〉
〈スキルじゃない普通の突き〉
〈B+ワンパンかよwww〉
〈手力雄神の手甲+剛気解放+青闘衣+セツキのパンチ=B+ワンパン〉
〈セツきゅんかっこいい〉
〈セツきゅんなら当然〉
「『縮地』」
後方にいたウィザードゴーレムが魔法を発動する前に一瞬で懐に入り込み、先程と同じく重心を低く構え、ウィザードゴーレムの腹部目掛けて素早く右拳を打ち出す。
「破っ!!」
ナイトゴーレム同様、腹部へ致命的なダメージを受けたウィザードゴーレムは、後方の壁に勢いよく激突し、魔石に変わる。
〈ナイトゴーレムワンパンならウィザードゴーレムもワンパンだろうけど強すぎない?〉
〈セツキ瞬間移動した?〉
〈一瞬で懐に入ったな〉
〈縮地ってどんなスキル?〉
〈短距離瞬間移動〉
〈移動直線上に障害物があったら使えないぞ〉
〈でも強くね?〉
〈連発すればいいじゃん〉
〈クールタイムが長すぎて連発不可〉
〈そりゃそうか〉
次のウィザードゴーレムへ駆け出すも、ナイトゴーレムが行く手を阻む。
こっちのナイトゴーレムは守りに入らず攻めの姿勢をとっている。だけど。
「『アイスフィールド』」
素早く地面を凍結させて、ナイトゴーレムの動きを封じる。
すぐに後方でウィザードゴーレムが魔法による凍結解除を始めたけど、もう遅い。
「『氷迅』」
素早く距離を詰め、右手に纏わせ氷の爪でウィザードゴーレムの胴体を貫く。
その一撃で命を刈り取られたウィザードゴーレムは、爪を引く抜くと同時に崩れ落ち、魔石に変わる。
その間にナイトゴーレムが動けるようになり、こちらに向かってきたけど、腹部への一撃で魔石に変わった。
〈やった!!〉
〈すげー!!〉
〈マジで4体倒しちまった〉
〈最初はどうなるかと思ってけど瞬殺だった〉
〈2体目のウィザードゴーレムはオーバーキル〉
〈氷迅で距離詰めたんだろ〉
〈迅系スキルの瞬発力はすごいからな〉
〈あとはジェネラルだけか〉
〈ジェネラルもB+でしょ?なら余裕じゃん〉
〈A-とB+の間にどれだけ差があるのか知らないのか〉
〈A-になるとマジで死亡率跳ね上がる〉
〈たぶんジェネラルはA-に近いB+だろうな〉
〈だがそれを普通に倒すのがセツキ〉
〈ほんとそれ〉
〈それにしても戦闘始まってからガチ勢見なくなったな〉
〈尊死したんじゃね?〉
〈みんな尊死したんだよ〉
〈だな〉
〈違いないww〉
ナイトゴーレムとウィザードゴーレムを全て倒したことで、ジェネラルゴーレムを覆っていたバフのエフェクトが消失。
それを合図に、戦闘が始まってからピクリとも動きを見せなかったジェネラルゴーレムの腕が柄頭から離れ、巨大な両手剣を持ち上げた。
〈ジェネラルゴーレムが動き出したぞ〉
〈あんなでかい剣振ってくるのかよ〉
〈ナイトゴーレムと威圧感が全然違うんだけど〉
〈あれでランクB+なのか〉
「側近のゴーレムを倒したので、これからすぐにジェネラルゴーレムと戦闘が始まります。それで大事なことを伝えたいのですが、その前にMPを使いすぎたので回復させてください」
アイテムストレージから上級マジックポーションを取り出して飲み干す。
これでジェネラルゴーレム戦でのMP枯渇の心配はなくなった。
〈その空きビンください〉
〈その空きビン欲しい〉
〈その空きビン買います〉
〈そのビンいくらで譲ってくれますか?〉
〈セツきゅんそのビン欲しいなあ〉
〈なんだなんだ〉
〈その空きビンいくらですか?〉
〈セツきゅんそのビン買います〉
〈うおっ〉
〈そのビン買いたいです〉
〈その空きビン譲ってください〉
〈マギア始めたらセツきゅんの空きビン貰えますか?〉
〈急に湧き始めたぞww〉
〈マギア始めるのでその空きビンください〉
〈おれたちのコメが流されていく〉
〈セツきゅんビンちょうだいお願い〉
〈緊張感がねえww〉
「バフが切れそうなのでもう一度かけます。『疾風迅雷』『剛気解放』『仙勁』」
青闘衣のスキルは、使用中にMPが消費されていく持続型タイプのスキルなので再度かける必要はない。
〈セツキが全くコメントに触れないww〉
〈セツキブレなくて草〉
「ジェネラルゴーレムは初手で必ず高速の薙ぎ払いをしてきます。以前はジェネラルゴーレムに一番近いプレイヤーが対象でしたが、アップデートでランダムに変わりました。ジェネラルゴーレムが剣を横に構え重心を低くしたら注意して下さい」
ジェネラルゴーレムに視線を向け、挙動に集中する。
巨大な両手剣を片手で軽々持ちながら数歩前に進んだジェネラルゴーレムは、おもむろに剣を両手で持ち、横に構えながら重心を落とす。
「来ます!」
次の瞬間、ジェネラルゴーレムの姿が一瞬で消える。
すぐに腰を落とし深くしゃがみこむと、頭上を轟音を響かせた突風と共に黒い影が通り過ぎた。
〈は?〉
〈は?〉
〈え?〉
〈マジかよ〉
〈瞬間移動?〉
〈こんなん知らなきゃ死ぬじゃん〉
〈初見殺しかよ〉
〈知ってても避けれん〉
〈セツキよく避けたなwww〉
〈すげえ音した〉
〈セツきゅんすごい〉
〈かっこいい......〉
「っやぁっ!」
左手を地面に着き、逆立ちの勢いで蹴りを入れるも剣の腹で防がれたため、距離を取って体勢を立て直す。
「ジェネラルゴーレムはナイトゴーレムと違い、距離を取っても攻撃手段があります。長距離だと落雷、中距離だと斬撃を飛ばしてきます」
言うが早いか、説明通りジェネラルゴーレムの持つ両手剣が光り、剣を振ることで斬撃が飛んでくる。
それを青闘衣を纏った手で受け流すと、間髪入れずに高速の斬撃が連なるように飛来する。
〈おいおいおいおい〉
〈斬撃ってあんな早いの?〉
〈あのサイズの剣をあんな早く振る!?〉
〈ほんとにB+か?〉
〈ナイトウィザードと強さ全然違う〉
〈てゆうかセツキすげーな〉
〈あれ全部防いでる?〉
〈いなしてるな〉
〈見えてるってこと?〉
〈じゃなきゃできないだろ〉
〈前に出てる〉
〈やば〉
〈セツきゅんなら余裕〉
〈セツきゅんなら当然〉
襲いくる斬撃を躱しながら、ジェネラルゴーレムとの距離を詰めていく。
剣の間合いまで来ると、ジェネラルゴーレムの動きが変化。
斬撃を止め、魔力を纏った巨大な両手剣を重さを感じさせない速度で振ってくる。
それを左手の甲を滑らすように受け流し懐に入ると、右拳を腹部に当てる。
「『虎砲』」
ズン!!
胸に響く重厚感のある音と共に、衝撃が部屋全体を揺らす。
全身の闘気を右手に集めた一撃は、鎧の腹部を大きくひしゃげ、ジェネラルゴーレムの体をくの字に曲げた。
「『煌拳・天舞』」
体を黄金の光が纏うのと同時に、素早い連打を繰り出す。
闘気を十分に乗せた攻撃は、一撃一撃が轟音を轟かせジェネラルゴーレムの鎧を砕いていく。
〈すげえ〉
〈部屋全体が揺れてる〉
〈ドドドドドドドドドド〉
〈ドンドンドンドンドン〉
〈ダダダダダダダダダダ〉
〈工事現場みたいだな〉
〈現場は草〉
〈わからんでもない〉
〈たしかに〉
〈ジェネラルの鎧が崩れてく〉
〈今さらだけど闘気ってなに?〉
〈←魔力を闘気に変えてる〉
〈青闘衣も同じ原理〉
〈闘気って誰でも使える?使いたいんだけど〉
〈格闘系だけ〉
〈残念〉
連打により体中の鎧が砕け、死に体となったジェネラルゴーレムに掌を当てる。
「『煌拳・崩星』」
静寂。
ジェネラルゴーレムの目から光が消え、直立したまま砕け、消失していく。
その後、魔石が地面に転がった。
〈え?〉
〈え?〉
〈終わり?〉
〈倒した?〉
〈倒した!〉
〈よっしゃああああ!〉
〈おっしゃああああああ!!〉
〈すげえ〉
〈マジでやりやがった〉
〈最後のなんだよ!!〉
〈セツきゅん!!!〉
〈セツきゅん!!〉
〈セツきゅんすごい!!〉
「ふぅ。これでヴェアの地下遺跡はクリアになります。ではドロップしたアイテムを回収していきます」
足元に落ちたジェネラルゴーレムのドロップアイテムを回収するため、視線を下に向ける。
「ん? これって」
落ちていたアイテムを拾い上げる。
それはソフトボールサイズのガラス玉で、中央の光から細かい稲妻が、ガラス内の多方向に走っている。
まさにプラズマボールといった感じのアイテム。
「やりました。ジェネラルゴーレムから【魔導人形の核】をドロップしました。希少アイテムです。運がよかったです」
〈おめ〉
〈8888888888〉
〈やったじゃん〉
〈おめでとう〉
〈セツきゅんおめでとう〉
〈セツきゅんが頑張ったからだね〉
〈セツきゅんおめ〉
〈我は終末に降臨し堕天使の僕、古の盟約の元その魔導人形の核を譲られたし〉
〈え?〉
〈なんかきたぞww〉
〈やべーやつきたww〉
〈すげーのきたw〉
コメント欄の個性ある視聴者のコメントが目に止まる。
魔導人形の核。盟約......約束? だとすると。
「あの、もしかしてメルさんですか?」
〈え?〉
〈え?〉
〈え〉
〈え?〉
〈メルなのか?〉
〈このやべーやつメルかww〉
〈メルだったらウケるww〉
〈おいメル返事しろよww〉
〈その崇高で可憐な美少女を想起させる名は存ぜぬが、魔導人形の核を我に譲れば、盟約通り其方の望む至宝を譲ろうではないか〉
〈メルだww〉
〈絶対メルだww〉
〈こいつメルだぞww〉
「すみません。このアイテムは僕の大切な知り合いに渡さないといけないんです。だから今回は諦めてください」
〈セツキ......〉
〈こいつまさか......〉
〈まったく、私になりすまして変なこと言わないで貰いたいよね。セツきゅんお待たせ。セツきゅんの大切なメルがきたよ〉
〈釣れたww〉
〈メルが釣れたぞww〉
〈ちょろいww〉
〈マジでメルだったのかよww〉
「あ、メルさんこんばんは。いつもありがとうございます。今度アイテム送りますね」
〈え、送るの?直接交換じゃなくて?〉
〈メルがショック受けてるぞww〉
〈画面の前で震えてそうww〉
〈メルどんまい〉
〈どんまい〉
〈ちょっとみんなうるさい〉
〈怒ったww〉
〈きれたぞww〉
〈やつあたりだww〉
「メルさんも色々とお忙しいと思うので、わざわざ時間を作ってもらうのも申し訳ないと思いまして」
〈社交辞令ww〉
〈これ社交辞令ww〉
〈全然暇!いつも暇!言ってくれればいつでも時間作るし、配信にだってお邪魔しちゃうよ!〉
〈必死ww〉
〈必死だな〉
〈メル出るのか?〉
〈マジでメル来る?〉
〈これは急展開ww〉
まさかのメルさんの申し出に心が揺れる。
メルさんの知名度はかなり高いから、視聴者数も期待できる。だけど......
〈セツきゅんダメだよ!〉
〈セツきゅんが危ない〉
〈セツきゅん襲われちゃう〉
〈メルさんは出ないでください〉
〈セツきゅん騙されないで〉
〈ガチ勢が必死だ〉
〈これはしゃーない〉
〈メルもセツキガチ勢だしな〉
〈俺はメル出演に賛成だけどな〉
〈そりゃあガチ勢以外は賛成だろ〉
〈でしたら私も一緒に出てメルを抑えます〉
「え?あの、もしかしてオリさんですか?」
〈はい。セツキさん、お久しぶりです〉
〈オリきたあああああ!!〉
〈オリがきたぞおお!!〉
〈オリが一緒なら安心だなww〉
〈げっ。なんでオリがここにいるの〉
〈オリさんセツきゅんを守って!〉
〈オリさんしか頼れる人がいません!〉
〈メルからセツきゅんを守ってください!!〉
〈すげえ【コスモキャット】の二人が出るのか!?〉
〈盛り上がって参りましたww〉
〈メルがミーティング来ないからでしょ。ここにいると思ったよ〉
〈サボったのかよww〉
〈メルの居場所バレてるの笑う〉
〈ずっといたのか〉
〈ずっと見つけらないように潜伏してたってことか〉
〈それはウケるなww〉
〈マジかよww〉
〈だから厨二みたいな事言ってたのかww〉
〈身バレしないようにかw〉
〈メルww〉
オリさんの登場で、全員が【コスモキャット】のゲスト出演に前向きになってくれた。
そういうことなら、僕からはもう何も言うことはない。
「でしたらオリさん、メルさん、出演よろしくお願いします。また詳細の連絡をさせてもらいます」
〈わかりました。連絡お待ちしてます。あとメルはこれからミーティング出てもらうからね〉
〈はーい。じゃあ、セツきゅんまたね。バイバーイ〉
〈嵐が去ったな〉
〈最後にコスモキャットに全部持ってかれたなww〉
〈ギルドランキング2位は伊達じゃないってことか〉
〈ランキング関係ない。メルが異常〉
〈あんなんでもめちゃくちゃ強いんだよな〉
〈戦闘力なら日本屈指だからな〉
「えっと、最後にハプニングがありましたが、今回の実況はこれで終わりにしたいと思います。今回の配信が皆さんのヴェアの地下遺跡を攻略する際の手助けになったら嬉しいです。チャンネル登録がまだの方は登録して頂けると嬉しいです。それでは次回もよろしくお願いします」
カメラに向かって、最後まで視聴してくれた皆さんに感謝を込めて笑顔で手を振る。
〈お疲れ様でした〉
〈888888888〉
〈乙!〉
〈おつでした〉
〈おつ〉
〈おっつー〉
〈セツきゅんお疲れ様〉
〈セツきゅんまたね〉
〈セツきゅんバイバイ〉
一通りコメントが流れ切ったあと、配信を停止させる。
「ふぅ。今日も何とか終わったぁ」
今日の地下遺跡攻略を自分なりに振り返ってみる。
全体を通して問題はなかったと思う。
敵もボスもスムーズに倒すことができたし、ダメージもほとんど受けてない。だけど......
「......まだまだクロ先輩には及ばないですね」
全ての戦闘において、クロ先輩ならもっと素早く安全に倒していたと思う。
クロ先輩の強さは僕の憧れだ。
今の僕じゃ本気で戦っても、獣装を使ってないクロ先輩にも勝てない気がする。
クロ先輩は「そんなことないぞ」って言うだろうけど、感覚で分かる。
それくらい、僕とクロ先輩の実力には差がある。
そんなクロ先輩が強くなると太鼓判を押したハルカ先輩。
今日のお昼に新しくギルドメンバーになった人で、まだまだ初心者だけど、あのクロ先輩がワタル先輩にも薦めた人だ。絶対強くなるに違いない。
「僕も負けてられませんね」
まだ実力が不透明な年上の後輩に追い付かれないように。
また、コスモキャットとの共演に向けて、まだまだやることが沢山ある僕は、とりあえず部屋に落ちている全てのアイテムを回収して、ヴェアの地下遺跡を後にした。
お読み下さりありがとうございました。