マギア・ナシナ・オンライン
side 黒月 一輝
「昨日のギルドバトル観たか?」
「もちろん観たに決まってんじゃん!」
「俺も観たぜ!」
朝の登校時間、ただでさえ騒がしいこの時間に、一際耳に届く大きな声が廊下まで聞こえてくる。
発生源は2年3組。
俺のクラスだ。
当然この声にも覚えがある。
陽キャグループ筆頭、佐藤将也と鈴木翔吾。
そして、その取り巻き連中の声だ。
佐藤を中心に集まったこのグループは、教室にいるクラスの奴らに聞こえるように、話題の話や人気のスポットに行ってきた等、アピールを繰り返しながらカーストの上位を維持している。
まぁそれだけなら好きにやってくれって話なんだが、あいつらは自分達のグループに属さないクラスメイト(男子限定)を下に見る発言が多く、どうにも好かない。
で、あいつらの今日の話題はもちろんマギアだ。
昨日ギルドバトルの配信もあったし、話すことには事欠かないだろう。
というか、最近マギアの話題ばかりしている気がする。
グループでギルドを作ったとか、有名ギルドのメンバーに会ったとか、色々自慢したいんだろう。
教室の後ろ側の扉から入り、自分の席に腰掛け机に突っ伏す。
数人の生徒が俺に気づいた様だが特にあいさつは無い。
まぁお互い様だ。
その中で顕著な反応を見せたのが佐藤。
やってきたのが俺だとわかると、すぐに興味が失せたような顔になる。
悪かったな。目当ての相手じゃなくて。
*【マギア・ナシナ・オンライン】*
マギアと略称され、今や世界中で人気を博している大人気オンラインゲーム。
数年前に世界初のフルダイブシステムオンラインゲームとしてリリースされた。
それ以降、続々と他のゲーム会社も類似商品をリリースしているが、数年経った今でもその他の追従を許すことなく圧倒的人気で独走を続けている超有名ゲーム。
マギアが現在でも人気タイトルとして君臨している理由は、同時翻訳機能の付いた世界規模のオンラインゲーム。
リアルと遜色のないグラフィックと制限の無い広大なフィールド。
自由度の高いゲーム性に、やり込み要素の高い膨大なクエスト、多種に渡る職業や武器、魔法などユーザーを飽きさせない魅力が詰まっていることがあげられる。
「マジでヤバかったよな! ワタルの獣装強すぎだろ! あんなん誰も勝てねぇよ」
「タイラントドラゴン、マジでヤバいよな。
一撃で相手チーム全滅とかめっちゃカッケーし! 俺もあんな獣装使ってみてぇよ」
*【獣装】*
マギア・ナシア・オンラインには獣装と呼ばれるバトルスキルがある。
獣装は、神話や空想上の存在の力をプレイヤーが纏い、一時的に戦闘力を上げて戦うスキルで、マギア内で使用するアバターを作成した時点から、AIがプレイヤーの思考、行動を元に、獣装の核を構築していき、条件を満たすことで解放される。
「てか、タイラントドラゴンばかり話題に上がるけど、他のメンバーの獣装も普通にヤバいよな」
「でもクロ。アイツだけはダメだ。チームの足を引っ張ってる。俺がワタルなら即追放してるのに、なんであんなヤツをメンバーに入れてるんだろうな」
「確か昔からの知り合いとかってどっかに書いてあった気がする」
「そんな理由だけであのギルドにいられるのかよ。なら俺もギルドに入れてくれねーかな。ぜってーあいつより俺の方が強ぇし」
「そういえば、最近クロって死ななくなったよな。少し前はよく死んでたのに。さすがにワタルに何か言われたんかな」
「あれだけ死んで迷惑かけてたら、何かしら言われるだろ。まぁ生き残ってても役に立たなきゃ意味ねーけど。ってゆーか、生き残っててもほとんどバトルに参加してねーじゃんアイツ」
「それはそうだ」
日本ギルドランキング1位。
太陽と月。
副ギルドマスター、クロ。
世間からのあだ名は、ギルドのお荷物、金魚のフン、役立たず等々。
俺、クロこと黒月一輝は、マギアで最弱のランカーとしてよくネタにされている。
相変わらず酷い言われようだな。
まぁ、別に誰になんと言われようと、どうでもいいが......ん?
ポケットに入れたスマホが着信を知らせる。
確認すると相手はセツカ。
ハナビダケというアイテムが欲しいようだ。
正直、気が進まないが仕方ない。
「みんなおはよー!」
教室全体に明るい声が届く。
それだけでクラス全体の雰囲気が明るくなる。
相変わらずすごい人気だな。
今さら誰が来たのかなんて、確認しなくてもわかる。
佐藤お目当ての、うちの高校1番人気の女子生徒が登校してきたようだ。
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